気切部の消毒は不要

2004年9月1日

気管切開部(気切部)とは、皮膚切開をして作った気管との交通路です。外側は皮膚で、一番奥が気管粘膜です。粘膜と皮膚の間が瘻孔で、肉芽組織で被われています。
 さて消毒ですが、気切部を消毒しようとする場合、その目的は気管内への細菌の侵入防止と、周囲皮膚の皮膚感染予防、および瘻孔部の感染予防だと思います。
 瘻孔の肉芽組織は、血流が豊富で細菌の増殖に対しては強いバリアー機能があり、消毒の必要はありません。さらに、瘻孔内の消毒は絶対してはいけない理由があります。瘻孔部の消毒をした場合、消毒液が気管内に入る可能性があるからです。いかなる消毒液でも気管内に吸引されると、ひどい気管粘膜の炎症を起こします。
 さて、気管内への細菌の侵入を気切部の皮膚消毒で防ぐことができるでしょうか。気管内の感染あるいは肺炎の原因は、吸入気の乾燥による気管粘膜の繊毛運動の低下や気管分泌物の固着が重要で、吸入気の加湿が予防上最も大切です。その他、気切部周囲の皮膚感染で増殖した細菌の吸引も原因になりえます。
 皮膚感染は、傷ついた皮膚に異物が付着し、そこに細菌が増殖して発症します。皮膚の傷は、カニューレなどの圧迫による外傷、皮膚の浸軟によるビランなどが原因となります。また異物の付着は、皮膚損傷部の乾燥による壊死組織形成や、消毒剤や軟膏の遺残、テープやドレッシング剤のカスなどが原因です。
 傷ついていない皮膚の消毒は、皮膚の常在菌を減少させる効果はありますが、一時的であり、消毒薬が残って異物とならないように拭き取る必要があります。さらに皮膚に傷がある場合、消毒は有害です。傷を消毒すると、かえって創感染率が上昇することが証明されています。MRSAが陽性であっても、何らこれらの理論は変わりません。
 以上の点より、気切部は全て消毒をせず、生理的食塩水できれいに清拭するのみで十分で、異物の付着を無くすことが大切です。皮膚にビランや潰瘍を生じた場合は、創部乾燥予防目的でハイドロコロイドドレッシング材やポリウレタンフォーム材を用いることが薦められます。
 気切部皮膚の清拭は、気管カニューレを入れたまま生理的食塩水で湿らせたガーゼを用います。かなり汚れていれば石鹸を使います。そして水分をふき取った後でカニューレの交換を行い、カニューレ抜去後はもう一度湿らせたガーゼで瘻孔周囲皮膚を軽くふき取り新しいカニューレを挿入します。もちろん肉芽組織で被われた瘻孔内は触る必要はありません。

※本内容は、日本看護協会出版会(http://www.jnapc.co.jp)「コミュニティーケア」2004年9月号に記載した内容を一部改変して掲載しました。