褥創

2003年10月1日

発生機序

 褥創(じょくそう=床ずれ)はお尻の仙骨部のように、骨が飛び出したところによくできます。寝た姿勢では、この部分が体重によって圧迫され続けるからです。骨と体表の間に挟まれた皮膚や皮下組織、筋肉などが長時間圧迫を受けると、血行障害から組織が死んで褥創ができるのです。体の表面から順に、皮膚、皮下組織、筋肉と続きますが、圧迫の影響を一番受けるのはどこでしょうか。
 皮膚が接するベッドや布団の表面は平らですが、骨は出っ張っているので、影響が一番大きいのは骨に近い筋肉や皮下組織です。さらに、体のすべての組織の中で一番血行障害に強いのは皮膚で、逆に皮下組織や筋肉は血行障害があるとすぐに壊死(えし)してしまいます。というわけで、目で見ることができる皮膚にほとんど変化がなくても、褥創は皮下組織や筋肉ではすでに始まっているのです。だから、血行障害が皮膚に及んで黒くなったときには、すでに筋肉に至るまでのすべての組織が壊死しているわけです。
 それで、黒くなった皮膚をはがすと一気に骨に至る深い褥創になったように感じるのです。皮膚が壊死する前、つまり皮膚が赤くなったり皮下出血が見える程度のときに、除圧マットレスなどで圧迫を除去し栄養を調えると、皮下組織や筋肉を再生させることができます。
 褥創を抑えるには、骨の飛び出したところをよく観察し、皮膚障害の軽い時期に発見して早期に対処することが大切です。

予防

 寝たきりの状態が長くなると厄介なものに床ずれがあります。床ずれとは、体を動かせない状態で横になっていると、仙骨部など骨の飛び出したところの筋肉や皮膚などが圧迫のため血が通わなくなって腐り、潰瘍(かいよう)になった状態をいいます。お尻の骨が飛び出したところ(仙骨部)にできることが多く、便や尿で汚れやすく、すぐに悪化して治りにくい状態になります。以前は「床ずれは治らない」と考えられていましたが、今では手間はかかるものの治ることが分かってきました。治療にはまず、床ずれの原因を知ることが必要です。これまでドーナツ状の枕(円座)を用いて床ずれのところを浮かすと良いとされてきましたが、これでは周囲に強い圧が加わることから、かえって床ずれが広がると分かり、今では使われなくなりました。
 正しい除圧の基本は、頻繁に体を動かすこと(体位変換)と、圧迫除去マットレス(エアーマットレス)を使うことです。エアーマットレスはある程度厚みのあるものが必要です。介護保険によってエアーマットレスを借りることができます。月額600~1000円くらいです。床ずれの予防と治療において、原因療法となるエアーマットレスは必須の用具だと知っておいてください。

褥創の深達度分類

 IAETの分類に準じた形で行い4つに分類しました。これに類似した分類としてはNPUAPの分類が有ります。以下の分類をわかりやすく理解するために、立体的な褥創モデルとドレッシング練習用のモデルを作りました。大きなもので教材用で値段が張りますが、教育施設での使用をおすすめします。

連絡先:株式会社坂本モデル 〒606-0865 京都市左京区下鴨東高木町34
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I度の褥創
表皮は破られていないが皮下出血など時間が経っても消えない発赤が見られる状態です。体表からの肉眼的観察では発赤としてしかとらえられませんが、触ってみると皮膚がやや頼りなく特に踵などではマシュマロのような触感です。表皮や真皮の血行障害のみではなく、実は皮下脂肪層や筋層を含む全ての軟部組織の血流障害を起こしている状態です。この状態では摩擦による表皮剥離を起こさない事が大切で、表皮の保護がスキンケアの基本となります。表皮剥離の原因となり、またすでに損傷している皮下の組織に出血をもたらすマッサージはもちろん禁忌です。
II度の褥創
表皮が剥離した状態は典型的なII度の褥創ですが、真皮が部分的に損傷した中間層創傷もこれに当たります。真皮層には豊富な血流が有るため新鮮なII度の褥創では出血や浸出液が観られます。同様に表皮と真皮が分離しそこに浸出液のたまった状態である水疱もII度の褥創です。また水疱内に血液が観られる血腫は真皮層が損傷しており水疱と比べると深くまで障害が観られますが、これもII度の褥創に入ります。創面が乾燥すると真皮壊死部となり黄色の痂皮ができます。乾燥がより強いと黒色の薄い痂皮となり多くの場合やがて一気にIII~IV度の褥創となります。  浅い皮膚損傷であるII度の褥創までの段階で真皮損傷の進行を食い止める事ができれば、残った真皮の上で創全面で表皮化を起こすことができます。したがってII度の褥創の時期は短期間で褥創を治すことができるラストチャンスとして重要なのです。しつこいようですが、この段階で栄養改善・除圧を行い適切な局所療法を選択できなければ、2週間程度で治癒できたものが、うまくいっても3~4か月要する褥創へと進行してしまいます。
III度の褥創
III度の褥創はII度の褥創から進行してなることは比較的少なく、筋層以下まで障害されたIV度の褥創が治癒していく過程でIII度と判定される事が一般的です。例えば筋層以下での組織障害を伴うIV度の褥創でも痂皮を除去せず感染のコントロールを行っていた場合、後に痂皮を除去したときに痂皮の下に肉芽組織が見られIII度と判定できる場合が有ります。また、深い褥創で肉芽が出てきて創面が被われ創の収縮が進む時期もこのIII度の褥創の時期と言えます。III度まで回復した褥創でも除圧がうまくいっていなかったり、栄養状態が悪化したり、抗癌剤などの治療が再開されたりすると肉芽の中に褐色や黒色の壊死した部分(皮下壊死部)が観られることも有ります。  この時期の局所ケアのポイントは壊死組織が有ればこの除去を行い、壊死組織が無くなれば肉芽の盛り上げをよくするドレッシング法を選択することです。  III度の褥創においては基底層の細胞は創縁にしかないため表皮化は創縁からしか起こりません。褥創における表皮化は、創が肉芽で埋められてくると同時に創縁からゆっくりと起こるのが理想的です。
IV度の褥創
IV度の褥創は痂皮を除去したあとで筋膜や骨膜に至る褥創として認識されます。痂皮を除去しても褐色ないし黒色の皮下壊死・筋肉壊死・骨膜壊死が見られ、また白色の筋膜壊死が残ることも有ります。  IV度の褥創では皮膚と皮下の組織が広く遊離した状態が観られることが多く、ポケットと呼んでいます。これは圧迫による血流障害は真皮層よりも皮下脂肪層や筋層でより広範囲に起こるためと、血流障害に最も強い組織が真皮であり血流障害に弱い組織が皮下脂肪や筋肉であるからです。そのため皮膚よりも皮下の組織でより広範な組織壊死が起こり、壊死部を除去すると多くの場合ポケットとなるのです。  大きなポケットがある場合は感染のコントロールのためにも切開をしてポケットを開放する必要が有ります。また筋膜や骨膜の壊死部は少しずつ除去するプランを立てます。この段階は感染のコントロールと壊死組織の除去が局所ケアのポイントとなります。

※本内容は、ライフサイエンス出版株式会社「新しい褥瘡予防と治療・ケアの実際」2003年10月号に記載した内容を要約して掲載しました。

参考文献

  1. Smith DJ , et al. : Burn wounds: infestion and healing. Am J Surg 1994; 167(1A Suppl): 46S-48S
  2. Smith DJ, et al. : Donor site repair. Am J Surg 1994; 167(1A Suppl): 49S-51S
  3. Hutchinson JJ, et al. : Wound infection under occlusive dressings. J Hosp Infection 1991; 17: 83-94
  4. 塚田邦夫、他: 消化器手術直後の皮下膿瘍切開創に対するアルゴダームの使用経験. 新薬と臨症  44(4)、629-643、1995
  5. 塚田邦夫: 化膿創にアルギン酸カルシウムドレッシング材(カルトスタット)は使えるか. Progress in Medicine  18(1)、1998