体圧分散寝具の適正使用

2005年2月1日

褥創の予防は何と言っても体圧分散用具の使用に始るであろう。では、その選択と使用はうまく行えているのであろうか。

選択の基準

 ステージI・IIとステージIII・IVの褥創で、エアーマットレスの選択を変える考え方が一般的である。つまり、ステージが進んだものでより高機能のエアーマットレスを選択するという考え方であるが、果たしてこれは正しいのであろうか。
 ステージI・IIの褥創は、確かに外見上の組織障害は軽度である。しかし、褥創の発症メカニズムからすれば、既に皮下組織は不可逆的な壊死に陥っていると考えたほうが良い。体表部分はむしろ深部より圧迫は弱く、また皮膚は血流障害に最も強い組織であることを忘れてはならない。
 このステージIあるいはIIこそが、最も体圧分散効果の高い除圧用具を導入すべき状態なのである。ステージI・IIの段階で皮膚を守り、その時に損傷した深部の組織障害を自然治癒させれば、2~3週間で安全な状態にできるのである。しかし、この時不十分な体圧分散用具を選択すると、ついには皮膚も壊死しステージIVの褥創となり、治癒するのに5~6ヶ月必要になる。

体圧分散寝具の適正使用

 エアーマットレスを導入すれば、それで除圧が行えたことにはならない。まず、エアー量の調整が適正に行えてるだろうか。エアーの量が不足しているともちろん患者さんの体は底づきし、除圧効果はなくなる。同様にエアーの入れ過ぎも体圧分散効果は低くなる。
 最近は体重の値に合わせることでエアー量を設定できる器械や、エアーセル内の圧を自動調整する器械も出てきてはいる。しかし、身長・体重・体形はそれぞれ患者さんごとに異なっており、また拘縮があると状況はまた違ったものになる。そのため、設定した状態が本当に適正であるかを、手を使ったマニュアルで判断できる知識と技術はケアを担当する全ての者ができる必要がある。
 実は、大変早くからエアーマットレスを導入して褥創ケアに努めている理想的な病院において、エアーマットレスの動作確認試験をしたことがある。68床の病院で、エアーマットレスだけで19台使われていたが、実にこのうち3台(15%)で作動不良があった。内容は、2台が設定圧を最低にしても高圧のままになる故障であり、1台はエアーセルと器械の間のチューブ屈曲による圧不足であった。この病院では、日々エアー量を手で確認していたにもかかわらず、業者による動作確認試験まで気がつかなかったのである。
 エアーマットレスは一度購入すれば、10~15年間毎日使いっぱなしになっている。精密機械であるエアーマットレスは5年もすれば不具合(故障)が出て何の不思議もない。最近の実例であるが、在宅の褥創に対し新品のエアーマットレスを導入し治療するも、期待した治療効果が得られず不思議に思っていた。往診した際、妙にエアーマットレスが硬くおかしいと業者に連絡したところ、機械の故障と判明し交換となった。
 全ての介護に当たるメンバーは、エアーマットレスを手で押してみて不具合をいち早く気付く能力を持っているであろうか。また、エアーマットレスのメインテナンススケジュールはできているのであろうか。
 さらに、せっかく高機能のエアーマットレスを使っていても、防水横シーツを用いると除圧効果が低下する。防水横シーツが使われていた仙骨部の突出した高齢者において、さまざまな条件で体圧を測定した。この時、15cm厚の高機能型のエアーマットレスが、防水横シーツを用いたことで、5cm厚の除圧効果の低い機種と同等まで体圧が高くなっていた。
 このように、除圧効果の高いエアーマットレスを使っていても、使用法によっては予定した除圧効果が必ずしも得られるとは限らないのである。体圧分散用具の使用にあたっては、器械そのもののハード面の問題もさることながら、使い手の問題であるソフト面での問題も同様に重要である。

※本内容は、看護実践の科学(看護の科学者、2005年2月号)に掲載した「褥創予防をめぐる環境要因とその整備」を改変して掲載した。