切り傷は石けんでよく洗って

  医師の間では、切り傷などを縫えるのは、受傷後6〜8時間くらいとされており、これを「ゴールデンタイム」と呼びます。いつ傷を作ったのかを必ず聞いて、12時間以上経った傷は感染しやすいので、そのまま縫わずに治療した方がよいとされてきました。


  2000年頃から、傷にはバイオフィルムができることが示されました。細菌は創内で細胞被覆糖衣という成分を作り、その中に仮死状態で存在し続けていることが分かり、これをバイオフィルムと呼びました。バイオフィルムは傷ができると24時間以内に作られることが報告されています。バイオフィルム内の細菌には、通常の消毒薬や抗生剤は効きません。

  このような傷を縫合すると、バイオフィルム内の細菌が縫合創内で増殖し感染を起こします。昔から語られていたゴールデンタイムは実はバイオフィルム対策だったのです。傷ができたらできるだけ早く、6 時間以内に医療機関を受診し、縫合手術を受けることが勧められています。

  時間が経ってしまった切り傷や皮膚欠損創(開放創)では、90%以上にバイオフィルムが認められています。バイオフィルムを増やさない方法は、よく洗って創面からゴミや死んだ細胞(壊死組織)を取り除くことです。汚れている傷では、創面にも石けんを用います。

  さらに時間が経つと、創面がヌルヌルした状態になります。このような傷では石けんでヌルヌルを落としても1日経つとまたヌルヌルに被われます。このヌルヌルはバイオフィルムで普通の外用療法では治りにくい状態です。

  バイオフィルムができた傷には、ヨード系の軟膏や銀の入った製剤が有効です。最近はバイオフィルムに特化したドレッシング材も出てきました。縫った方が良いような深い傷や皮膚が大きくとれてしまった傷は、早くに医療機関を受診しましょう。

  擦過傷のような浅い傷でも、傷の中に異物が入っている場合は要注意です。ゴミには細菌が付着し浅い傷でも感染創を作ります。怖いかもしれませんが、石けんを使い流水でしっかり洗いワセリンなどを塗っておけば、医療機関を受診しなくても大方はそのまま治ります。

2024年12月15日 健康マンスリー