なぜ傷治療は痛いのか

2001年12月16日

 切り傷、すり傷、やけどなど、傷に痛みは付き物ですが、痛みには何か意味があるのでしょうか。それは何億年もの進化の過程で、痛みを避けるように行動してきた動物が、今生き残っているからだと思います。つまり痛みを避けることは傷にとって有利であり、生存率を高めて子孫を増やすことができたのでしょう。
 傷にとって痛い行為とは、傷ついたところをこする、たたく、引っ張ることなでです。確かに傷にとって不利になっていることが分かります。
 さて、傷を処置するときにも痛い行為があります。傷を消毒したり乾燥させること、傷に張り付き食い込んだガーゼを引っ張ることなどです。実は、これらはすべて、傷の治癒にとって有害なのです。
 消毒薬は傷の表面の免疫細胞も障害するため、かえって治癒が遅れてしまうのではと、以前から懸念されていました。一九八二年の実験で、傷を消毒すると逆に細菌の感染率が高くなることが分かりました。また、傷を乾燥させるとかさぶたができますが、このとき傷は〇・五ミリ深くなって悪化します。
 最近では、処置の際に使うガーゼも、傷に食い込まず固着しない製品が多数出てきました。このように、現在では傷を痛くさせずないように治療するようになってきています。