第22回 密閉吸引法

2007年2月1日

 今回は1990年にKatherine F. Jetterによって日本に紹介され、まずは消化管瘻孔に用いられ、その後褥創に応用されるようになった密閉吸引法について、その理論と実際を御紹介します。

難治性消化管瘻孔に対する画期的方法

 腹壁縫合創離解部に損傷を受けた腸管が露出し、そこから小腸液が常に排出されてくる難治性消化管瘻孔は外科医にとって大変悩ましく、当時は致死率50%と言われていました。
 1990年に東京で開かれた講演会で、Jetterによって紹介された密閉吸引法は素晴らしい理論と結果を示していました。大変感銘を受け、直ちに実際の症例に使ってみたところ画期的な結果を示してくれました。この方法に感銘を受けたために学会で発表するとともに雑誌にも投稿しました(STOMA、5(3)、101-105、1992)。
 その後2000年頃より、この密閉吸引法は褥創の治療にも応用され報告がみられるようになりました。海外では密閉吸引法をシステム化し、VAC (Vacuum Assisted Closure)として商品化されています。

密閉吸引法の秘密はフィルム材にあり

 具体的な方法を紹介する前に、まず知っておいてほしい最も重要な道具について解説します。それは密閉に使うポリウレタンフィルムドレッシング材(フィルム材)についてです。
 オプサイトやテガダームとして商品化されているフィルム材の特徴として、空気を通す点が挙げられます。このフィルム材で密閉した内部創傷部をチューブで吸引すると、空気がフィルムを通して創面に流れ、創面において空気と滲出液が極めてゆっくりと吸引チューブ先端部へと絶えず流れ続けるのです。これによって創面には軽い陰圧がかかるとともに、湿潤状態を保ち、過剰な滲出液はチューブに吸い取られていくのです。
 この点がまずは密閉吸引法の最も重要な理論です。ではさらに理論を進めますが、ここで一見類似している治療法との違いを解説します。

閉鎖循環法と密閉吸引法は全く異なる

 整形外科等でみられますが、関節内に生理的食塩水を持続的に流しながら、関節内に入れた別のチューブから、あるいはダブルルーメンチューブから関節液を吸引していく閉鎖循環法と、この密閉吸引法とは根本的に異なることを解説します。
 つまり、密閉吸引法では滲出液は薄まらず、また陰圧によって創辺縁部皮膚は中心に引き寄せられます。密閉吸引法では滲出液中のグロースファクターは有効に創治癒に利用され、そして陰圧がかかるため、滲出液は中心に引き寄せられて広がりません。これは瘻孔においては大変大切で、瘻孔排出孔付近にチューブ先端があると、排液は瘻孔付近より遠位部へは広がらないのです。
 さらに陰圧がかかるため、褥創においてポケット等の下掘れのある創面では、壊死組織がなければ前後壁のお互いが癒着し、一気にポケット閉鎖します。また創の収縮も加速されます。

密閉吸引法の実際

 以上の点から分かるように、密閉吸引法ではダブルルーメンチューブではなくシングルチューブを使います。また先端部の側孔は一つ、多くても二つまでのチュープを用います。具体的なチューブ名としては、瘻孔では胸腔ドレーンチューブが適し、褥創では気管吸引チューブが適しています。
 褥創においては瘻孔と比べ、はるかに手技が容易であるため、今回は褥創の密閉吸引法について解説します。
 とは言え、いきなり吸引をかけると肉芽組織がチューブ孔に引き込まれて出血するし、だいいちすぐに詰まってしまいます。これを防ぐ目的で、スポンジあるいはハイドロサイト等のポリウレタンフォーム材の併用が勧められています。海外の商品であるVACシステムはシリコンのスポンジを使用しています。私は非固着性シリコンメッシュでできているトレックスメッシュを愛用しています。
 トレックスメッシュを創面にあてがい(皮膚にははみ出さない)、その上に気管吸引チューブを乗せます。先端部は創の中心に位置させます。チューブの固定には、イーキンシールというストーマ装具か義歯安定剤(タフグリップ等)を用い、創辺縁部付近でチューブを皮膚に押し付けるようにしてチューブを固定します。これは固定が本当の目的ではなくチューブ脇からの空気漏れを防ぐのが真の目的です。
 次に、全体をフィルム材で覆って創面を密閉します。一度で覆えなければ、小さいフィルム材を重ねて貼って密閉しても構いません。そして吸引チューブを壁吸引などの吸引装置に接続し、-100~150mmHg(-15~20kPs)程度で持続的に吸引をかけます。
 ここで注意ですが、壁吸引に直接つなぐのではなく、排液を貯めるビンを床に置くようにします。というのは、高所の排液ビン(この場合は壁吸引のビン)に直接接続すると、チューブ内に排液が溜まりますが、そのときチューブ内の排液の重さぶんの圧が低くなってしまい、吸引圧不足になります。そこで圧を高めに設定して対応することになるのですが、今度はチューブ内の排液が無くなったときには、逆に高過ぎる吸引圧となるため創面から出血がおこります。この点床に排液貯留ビンを置くと、吸引圧は一定になり安定した持続吸引ができるようになります。
 以上の注意点に関しては、褥創のように丈夫な組織の吸引では問題が少ないのですが、瘻孔では弱めの吸引圧での維持が必要であり、また適切な吸引圧の範囲も狭いため、必ず中間部位に排液貯留ビンをかませる必要があります。特に壁吸引ではなくポータブルの胸腔吸引器を使用する場合、最大圧にして使用しますが、それでも圧は低いため間に排液ビンを入れないと圧管理に苦労します。同様の理由でチューブがたるまないよう気を配ります。吸引圧が少ないと創内は陽圧となりフィルム材が剥れてエアーリークします。吸引圧が高いと大出血となります。
 装置交換は、創面の洗浄を毎日したいという理由と、2~3日に1回の交換では悪臭が発生し易かったという理由により、私は毎日交換しています。

密閉吸引法の適応と禁忌

 密閉吸引法は瘻孔管理においては画期的なものですが、褥創においては壊死組織を伴わないポケットの閉鎖など限局した使い方になります。褥創で創内に壊死組織のある場合は、感染の危険が高くなることと、細い吸引チューブが詰まりやすいため、お勧めしないのです。かといって瘻孔のように太いチューブではチューブによる圧迫が懸念されます。
 フィルム材については空気を多く通すものの方が適していますが、個人的にはテガダームを好んで使っています。IV3000というフィルム材が最も空気をよく通すというデータもあるようで、本当であればこの方がより適していると思います。

さいごに

 密閉吸引法の理論と実際について解説しましたが、この方法も1970年代の発明品であるフィルム材の特徴をよく利用している方法です。