第11回 ゲーベンクリームの特徴と使い方(褥創を例に)

2006年3月1日

ゲーベンクリームとの出会い

 私がゲーベンクリームと出会ったのは、1981年から勤務していた病院内で外科としてかかわった救急及びICUの様な所(今で言うER)でした。全身熱傷や広範囲熱傷の患者さんに、シルバジンクリームと呼ばれていたゲーベンクリームを大量に使っていました。それ以前の熱傷処置と比べると画期的な方法なのだと教えられた記憶があります。熱傷は少し時間がたつと黄色の痂皮ができ感染してきますが、ゲーベンクリームを用いると、確かにそのような痂皮ができにくく、植皮へ早く移行できた印象がありました。その後他の病院移ってからも、熱傷には、ゲーベンクリームがあればそれを使っていました。
 それとは別に、1983年にはアメリカで商品化されたデュオアクティブ(まだこの名前ではなかった)を、いち早く大学病院で自由に使い始めていました。多くは下腿潰瘍や褥創に用いていました。このとき、感染した創部には院内調剤したイソジンシュガーを用いていましたが、あまり良い印象はありませんでした。そこでゲーベンクリームを感染した褥創に用いてみることもありましたが、結構良い感触でした。
 このような状況の中で1988年から約2年間、大腸外科と創傷・ストーマケアの勉強にアメリカへ行ってきました。帰国した時には、湿潤環境と創傷閉鎖療法の虜になっており、ハイドロコロイドッドレッシング材のみではなく、イソジンシュガーやゲーベンクリムを含め、軟膏を併用した場合での閉鎖性ドレッシング法のおおまかな概念を持つようになっていました。このようにゲーベンクリームと出会い、その使い方も変わってきました。このように思い出深いゲーベンクリームですが、その特徴について御紹介いたします。

ゲーベンクリームの特徴

 ゲーベンクリームは、主成分である銀が細胞壁に作用して殺菌効果を示すことから、感染した創面に適応があります。銀は直接的な殺菌効果を有しますが、実は細胞のDNAに取り込まれ、細菌の増殖をブロックすることが知られています。具体的には2時間以上の接触で細菌の増殖は止まるものの、4時間たっても細菌の細胞自体にはほんの少ししか変化がみられないとの報告があります。したがって増殖の速い細菌に対する影響がより強くなりますが、分裂の遅い細胞からなる創傷面や白血球などへの影響は少なくなり、選択的な細菌増殖抑制効果が期待できるのです。
 このような利点を生かすためには、ゲーベンクリームに含まれる銀が長時間創面に接触できるようなドレッシング法を行います。
 他にゲーベンクリームの優れた点として、その素材の良さがあげられます。水中油型エマルションのクリーム素材である点と、適度な粘性によって、滲出液が多い場合には滲出液をある程度吸収しながら剤形を保ちます。また逆に創面からの滲出液が少ない場合には、クリーム素材の特徴である創面への水分保持作用によって湿潤状態を保ちます。このような素材の特徴を生かすためには、創面にたっぷりとゲーベンクリームを用いれば、ガーゼで被った場合でも長時間創面の湿潤状態を保ちながら銀を放出し続けます。

ゲーベンクリームを褥創に使う

 一般的に、軟膏類を創面に用いガーゼをあてがい固定する方法を、開放性ドレッシング法と呼びます。開放性ドレッシング法を仙骨部褥創に用いた場合、便汚染があると便はガーゼや軟膏を素通りし、容易に創傷面に便が付着してしまいます。
 このような開放性ドレッシング法ですが、ゲーベンクリームを仙骨部褥創に用いた場合にはちょっと違います。便が流れ込んできてもゲーベンクリームが便を取り囲みブロックしてくれるため、創面に便が及ぶまでに結構時間を稼いでくれるのです。
 というわけで、閉鎖性ドレッシング法を愛用している私ですが、ことゲーベンクリームに関してのみ開放性ドレッシング法による処置もかなり行っています。ただしゲーベンクリームを褥創に用いる場合は、閉鎖性ドレッシング法であれ、ガーゼを用いた開放性ドレッシング法であれ、創面に対する圧迫とずれの問題があるため多少の工夫をしています。
 仙骨部褥創に対しゲーベンクリームによる開放性ドレッシング法を行う場合には、まずゲーベンクリームを多めに創面に用い、それをガーゼでカバーするのではなく、吸収パッドで直接被うようにしています。
 仙骨部褥創症例であれば大概紙おむつが使用されており、この場合にはゲ-ベンクリームを多めに塗布した後、直接紙おむつで被うようにします。固定は行わず、したがってテープ類は一切使用しません。ドレッシング交換は、排尿や排便で紙おむつが汚れ、紙おむつを交換する時ということになります。紙おむつの交換時に、便や尿処理と一緒に創面の洗浄と軟膏の再塗布を行います。その結果1日1~数回の交換となります。
 ゲーベンクリームによる閉鎖性ドレッシング法を選択した場合、以前はゲーベンクリームを創傷面に塗布した後、薄いガーゼをあて、その上からフィルム材で固定していました。しかし、圧迫やずれがあるとゲーベンクリームは押し出され、ガーゼが直接創面にあたり、摩擦によって創傷面が傷つくことに気がつきました。最近はゲーベンクリームを多めに塗布した後,全体を大きめのフィルム材で直接カバーし密閉閉鎖しています。このようにガーゼを用いないようにしたところ、ガーゼ併用による閉鎖性ドレッシング法使用時と比べ、ゲーベンクリームの使用量が減ったにもかかわらず創傷面の損傷はほとんど良くなり、感染のコントロールもさらに改善し、早期に良好な肉芽・表皮化をもたらせるようになりました。

最後に

 ゲーベンクリームの使い方を褥創を例にとって解説しました。開放性でも閉鎖性でも比較的容易に使え、軟膏類の中でも大変使いやすいものです。しかし、やはり殺菌剤軟膏であるため、正常細胞への影響は少ないとはいえ、長期間使っていると創傷表面の組織の色は悪くなってきます。感染している、あるいは感染が疑われる状態でのみのゲーベンクリーム使用が勧められます。
 褥創をはじめ、熱傷、感染した外傷や汚い擦過傷、あるいは感染性皮膚炎など、かなり広く使える便利な薬剤だと思います。