第10回 アルギネート材の特徴と使い方(褥創を例に)

2006年2月1日

 アルギネート材には商品として、カルトスタット、ソーブサン、アルゴダーム、クラビオがあります。アルギネート材は自然界に存在する多糖類からなっており、その原料は褐色の海草(昆布)です。もともとは漁師達がキズに海藻を用いたことにはじまり、1947年から止血剤として使用されていましたが、しだいに使われなくなりました。
 ところが1980年代後半に「創面からの滲出液をよく吸収してゼリー状となり、創傷治癒に有益な湿潤環境をつくる特性がある」点が注目されました。そしてアルギネート材は創傷ドレッシング材として広く用いられるようになってきました。
 今回は褥創の局所療法に用いるアルギネート材について御紹介いたします。

アルギネート材の特徴

 アルギネート材の材形としては、線維をからめて作ったシート状のカルトスタット・ソーブサン・アルゴダームと、ウエハース状のクラビオがあります。いずれも滲出液の吸収能は高く、滲出液を吸収するとアルギネート材の持つカルシウムイオンと滲出液中のナトリウムイオンがイオン交換し、このとき止血作用を発揮するとともにゼリー状に変化します。
 このゼリー状になったアルギネート材は比較的創面に留まるものの、創傷面には固着しません。そのため、ドレッシング交換時には生理的食塩水で洗浄するのみで容易に除去できます。
 ところで、アルギネート材のpHを測定してみたところ弱酸性でした。これは細菌に対し静菌効果が期待できることを意味します。そこで、感染があったり壊死組織のある開放創にアルギネート材を用い、治癒効果をみてみました。感染創では滲出液ドレナージ効果があり、感染の消退と壊死組織が減少する効果もありました。これらの結果をまとめて論文化し報告を行いました。
 このように利点の多いアルギネート材ではありますが、創面および創周囲皮膚に固着しないため、固定のためにはカバードレッシングが必要です。このカバードレッシングのやり方によっては、アルギネート材の利点を十分引き出せない場合も生じます。とは言っても、アルギネート材の利点を引き出しにくい方法、つまりアルギネート材を創面に用い、上からガーゼをあててテープで留めるといったガーゼ感覚の使い方をしても、ガーゼ単独よりはずっと良い結果が出ます。
 アルギネート材は閉鎖湿潤環境における創傷治癒理論などを知らずにガーゼ感覚で使っても結果が出るため、創傷治癒理論の勉強が必要なハイドロコロイドドレッシング材より、かなりあとで世に出たにもかかわらず、一般に広く受け入れられています。

アルギネート材の褥創での使い方

 アルギネート材は弱い感染のある状態から、壊死組織がみられる状態、肉芽創、そして表皮化する直前まで、かなり広い病態をカバーしえますが、「創傷被覆材」の保険の縛りから最大3週間しか使えません。そこで、主に肉芽の盛上げ時に使用するのが適切と考えます。あるいは止血効果に注目し、ポケットの切開や壊死組織を外科的デブリードメントしたときにも、アルギネート材を使うことが勧められます。

肉芽創での使い方

 肉芽創でも創面の乾燥は避けたいので、アルギネート材を創面に用いた後、乾燥予防にフィルム材で密閉固定します。このときアルギネート材はちぎって使い創面をはみ出さないよう節約して用います。ガーゼは併用せずフィルム材を直接アルギネート材の上に用います。
 アルギネート材が創面の滲出液を吸収し、しだいに形が無くなると創面はゼリー状のアルギネート材でいっぱいになります。やがてフィルム材のすき間から滲出液が漏れ出てきますが、オムツなど吸収パッドで受けるようにします。
 このようにするとドレッシング材の厚みがほとんどなく、褥創で重要な創面への圧迫回避が可能となります。交換は1日1回を原則としています。
 このような方法とは異なり、ガーゼをカバードレッシングに用いた場合には、肉芽創辺縁部ではアルギネートが乾燥固着してしまいます。このような時は生理的食塩水などで洗浄すると、軟化し容易に除去できます。
 ちなみにかなり滲出液が多く、すぐにアルギネートが融解流出するような創面では、商品名アクアセルという吸収力のより強い創傷被覆材への変更も考慮します。

ポケット切開部への使用

 深いポケットを電気メスにて切開開放した場合、ポケット深部であった部位には一般的に不良肉芽あるいは壊疽組織が付着しています。イソジンシュガー軟膏を使用してもよいのですが、止血効果と静菌効果のあるアルギネート材の使用も勧められます。
 アルギネート材を比較的多めに創面に用い、上からフィルム材で密閉固定します。このようにすると残った壊死組織は湿潤環境の中で自己融解が進行し、軟らかくなった白色壊死を適宜除去していけば、速やかに肉芽に覆われた創面へと変化していきます。
 交換は当初1日2回必要かもしれませんが、やがて1日1回の交換へと変えていきます。ポケットの切開切除といっても、最近はポケットの完全切除はしないため、浅いポケットは存続します。壊死組織が自己融解デブリードメントによって消失すると、残ったポケットの前後壁は癒着し、創の収縮とあいまり、一期に褥創は小さくなっていきます。
 この場合も使用期間が3週間を過ぎると医療保険期間が使えなくなるため使用を中止し、オルセノン軟膏など軟膏類へ変更します。

アルギネート材使用上の注意

 アルギネート材が感染創にも使えると書きましたが、化膿の4徴(発赤・腫脹・熱感・疼痛)のみられるひどい感染褥創には使用できません。アルギネート材は静菌的効果しかないので、顕在化した感染創には良い結果は期待できません。
 また、滲出液が著しく減少した場合、強い滲出液吸収力によって創面を乾燥させるので注意が必要です。この場合、他のドレッシング材に変更することを勧めますが、アルギネート材に生理的食塩水を含ませて創面に用い、フィルム材で密閉する方法であれば可能です。

他の創傷への応用

 アルギネート材の褥創への使用法について解説しましたが、先に書きましたように多少感染した創面や壊死組織のある創傷にも使用できることから、褥創に限らず一般の創傷にも大変使いやすいドレッシング材です。
 殺急性の外傷である擦過傷や皮膚欠損創、手術後感染による縫合創離解部、あるいは化膿創切開後の創内充填用など、いずれも従来のガーゼドレッシング法に比べると格段の治療効果を発揮します。
 繰り返しますが、使用に当たってはガーゼ感覚での開放性ドレッシング法でも効果は期待できますが、フィルム材で密閉する閉鎖性ドレッシング法での使用を勧めます。これによってアルギネート材の特徴を最大限に引き出すことが可能になります。