第12回 オルセノン軟膏とリフラップシートの使い方(褥創を例に)

2006年4月1日

クリーム剤の特徴

 前回紹介したゲーベンクリームもクリーム剤ですが、今回解説するオルセノン軟膏やリフラップシートもクリーム剤です。いずれも油性成分と水溶性成分が混ざり合ったエマルションであることが特徴です。クリーム剤は水溶性軟膏の性質の水分を吸収する作用と、油性軟膏の性質である滲出液を創面に留め湿潤環境を維持する作用の両方の性質を持っています。創傷治癒において、過剰な滲出液を吸収することは大切ですが、同時に創面の乾燥を予防し湿潤環境を維持することも望まれます。この両方の能力が同時にかつより許容範囲が広ければ広いほど使いやすいドレッシング剤と言えます。
 オルセノン軟膏もリフラップシートもともに壊死組織が無くなり肉芽組織で創面が被われた状態の褥創に使用します。ただし滲出液の吸収作用があるといっても、それほど強力ではありません。この二つの薬剤を比較すると、オルセノン軟膏の吸水作用はやや強く、リフラップシートの吸水作用はほとんどありません。

オルセノン軟膏の使い方

 肉芽で被われた褥創に対し、以前紹介した創傷被覆材のハイドロコロイドドレッシング材やアルギネートドレッシング材を使用したものの、3週間の保険請求可能期間が過ぎると軟膏を使わざるをえなくなります。この様な褥創では、まだ滲出液が多くみられますが、上記二つの創傷被覆材のかわりをする薬剤として、第一選択はオルセノン軟膏です。オルセノン軟膏を創面に多めに用い、直接フィルム材で密閉固定します。ドレッシング交換は1日1回行います。オルセノン軟膏には創傷被覆材のような使用期間の制限はありません。また、処方箋でいくらでも出すことができますから、在宅で訪問看護師や家族に処置をしてもらう場合も問題なく行える利点があります。
 オルセノン軟膏を塗布しフィルム材で密閉すると、やがて圧迫と滲出液によってフィルム材のわきから溶けた軟膏が漏れ出てきます。この漏れは、仙骨部であれば普通に使っているオムツで受ければよく、大転子部や踵部などでは尿取りパッドなどの吸収パッドをあてて受け止めます。ドレッシング交換時には、これら吸収パッドで洗浄液を受けるようにし、そのまま廃棄します。
 なお、オルセノン軟膏を使う肉芽増殖期には、bFGFというグロースファクター製剤であるフィブラストスプレーを併用すると、肉芽増殖をより早める効果が期待できます。使い方は、まず創面を生理的食塩水で十分洗浄後、フィブラストスプレーを噴霧しオルセノン軟膏をたっぷりと塗布した後、フィルム材で密閉固定します。

リフラップシートの使い方

 オルセノン軟膏を使っていくと、肉芽組織が創面に盛り上がり、創の収縮が起こるとともに創周囲からの表皮化が始ります。滲出液は減ってはいるのですが、創周囲から延びてきた新生表皮には浸軟(ふやけ)がおこりやすくなります。この時期にはもちろんハイドロコロイドドレッシング材の使用が第一選択ですが、創傷被覆材には合計3週間限度という期間制限があるため、以前創傷被覆材を使用していた場合には再使用しにくくなります。そこで登場するのが、リフラップシートです。リフラップ軟膏でもよいのですが、私はそれをシート状に延ばして使いやすくしたリフラップシートを愛用しています。
 リフラップシートもクリーム剤ですが、軟膏基剤が硬く、また撥水作用が強く油性軟膏により近いクリーム剤です。これを表皮化しつつある褥創に使用すると、肉芽部の水分は適度に吸収し、また表皮化部への滲出液をうまくブロックして新生表皮の浸軟を予防してくれます。さらに大変剥れやすい新生表皮にもリフラップシートは固着せず、ドレッシング交換時の二次損傷もおこりません。このように、新生表皮は保護されながらしだいに強固となり、治癒していきます。
 リフラップシートはこのように大変優れたドレッシング剤で、表皮化の時に使用しますが、幾つかの注意するべき点があります。まず、ドレッシング剤そのものの包装上の特徴があります。誰もがこのドレッシング剤を初めて見たときには、どう使うのか戸惑うことと思います。
 リフラップシートは硬めのプラスチックケースに入っていますが、これを取り出し、適当な大きさにハサミで切ります。次に薄いプラスチックフィルムを剥がし、さらに薄い和紙を剥がします。そうすると厚めの軟膏シートの上にシリコンの薄いメッシュが観察されますが、このメッシュは剥がさずに創面にあてがいます。これで終わりではなく、次に表面の厚いリント布を剥がします。これで創面には薄いシリコンメッシュの上に厚めの均一なリフラップ軟膏が塗られた状態になります。
 このリフラップ軟膏をテープで固定しても良いのですが、褥創の場合、私はやはりフィルム材で密閉固定します。なお、テープを使用して固定する場合はリント布をはがさない方がよいかもしれません。ただし褥創ではリント布の厚みで圧迫になる危険があります。
 フィルム材で密閉した場合、圧迫によってフィルム材の下で軟膏が広がっていきますが、これが大変具合良く、硬めの軟膏がうまい具合に創面と新生皮膚、及び創周囲皮膚を保護してくれます。
 もう一つの注意点は、ドレッシング交換時にあります。リフラップシートは硬くて撥水作用があることから、ドレッシング交換時に軟膏が創周囲皮膚に残った場合、生理的食塩水で流しても全く除去できません。むしろ除去しにくくなってしまいます。そこで、まずはガーゼなどで創周囲皮膚に固着した軟膏をぬぐい取り、その後で洗浄を行います。

クリーム剤がなぜ褥創に適した軟膏なのか?

 褥創には圧迫が常に加わっており、またズレや摩擦といった外部からの物理的刺激が治療中も避けえない創傷です。さらに創周囲からの便や尿による汚染の危険が高い創傷でもあります。したがって、ドレッシング材に求められるのは、ズレに強く、厚みが少なく、かつ汚染をブロックするドレッシング材です。このようなものは閉鎖性ドレッシング法しかありません。薬剤を併用する閉鎖性ドレッシング法では、最後にフィルム材で密閉固定します。この場合油性軟膏では軟膏が創周囲に広がりフィルム材の貼付部まで来てしまいます。油性軟膏が付いた部位にはフィルム材は固着しないため、油性軟膏は閉鎖性ドレッシング法による褥創治療には不向きです。
 この点、クリーム剤はたとえ油性軟膏の性質を持っていても、皮膚に残ったクリーム剤は拭きとったり洗浄することでほとんど除去できるとともに、その部位にフィルム材は問題なく固着するのです。したがって、閉鎖性ドレッシング法を用いた褥創軟膏療法にはクリーム剤の使用が勧められるのです。

最後に

 クリーム剤であるオルセノン軟膏とリフラップシートの褥創への使い方を解説しました。いずれも創傷被覆材で問題になった使用期間制限がなく、さらに処方箋で出せるという利点があり、しかも創傷被覆材に近い肉芽増殖作用と表皮化促進効果が期待できます。クリーム剤を使う場合も、創傷治癒環境の整えを意識し、閉鎖湿潤環境での使用が勧められます。
 今回は褥創での使用を前提に解説しましたが、もちろん一般の創傷でも同じように使え、より早く、美しく、痛くなく創治癒に至らせることができます。一般の創傷ではもっと使い方は簡単で注意点も少なくなります。