第05回 傷みの無い熱傷ドレッシング法

2005年9月1日

熱傷における組織障害のメカニズム

  高温による皮膚障害が熱傷です。熱傷における組織損傷は、高温によるうっ血、充血および蛋白の凝固などによってもたらされます。さらにこのような変化によって毛細血管に血栓を形成し、皮膚の虚血が進行していきます。受傷後にみられる進行性の組織障害には、活性酸素などによる過大な炎症反応が関与していますが、熱傷局所を冷却することによって、毛細血管の血栓形成などの二次的変化を抑制することができます。
  受傷後、氷水を入れたビニール袋によって30分以上冷却するのは、組織障害の拡大予防のためです。
  皮膚の形態が残っていても、熱によって皮膚表面の化学的および物理的な機能が一時的に低下し、乾燥します。このとき真皮浅層の痛覚神経末端部は、乾燥刺激によって疼痛をおこします。また皮膚の外界に対する抵抗性である免疫力についても、損傷を受けた皮膚のバリア機能は著しく低下しています。そのため、熱傷部において創感染が起こりやすい状態になります。
  熱傷創面を乾燥環境におくと痂皮を形成しますが、この時約0.5mmの組織障害が発生することをBreuing K.らが1992年に報告しています。この乾燥による組織壊死によって熱傷はさらに深い組織損傷へと悪化します。

熱傷部位の特徴に合ったドレッシング法とは

  以上の点をふまえると、浸出液を吸収し創面を乾燥させる水溶性軟膏を用いたガーゼドレッシング法では、乾燥刺激による激しい痛みを伴うとともに痂皮を形成し、組織損傷が拡大し、創感染の危険が高まります。
  したがって氷冷後の局所療法としては、次の四つの点がポイントになります。
  1)創面の汚染予防のため、創内の洗浄と創周囲皮膚の清拭をする。
  2)創面乾燥による壊死の進行を予防するため、湿潤環境を維持する。
  3)創面の疼痛に対しては、閉鎖湿潤環境とし、空気から創面を遮断する。
  4)外部からの汚染予防のため閉鎖環境で治療する。

  クリーム剤や油性軟膏を大量に用いた場合、2)はクリアーできるでしょうが、3)4)はかなり難しくなります。よく行なわれる油性軟膏とソルラチュールの併用でも、創面は乾燥し患者は疼痛を訴えます。
  このような従来の方法に対し、創面の湿潤環境を維持するとともに空気から創面を遮断するハイドロコロイドドレッシング材(デュオアクティブ・テガソーブ・アブソキュアウンド・コムフィール)あるいは、ハイドロジェルドレッシング材(ニュージェル・ビューゲル・クリアサイト・ジェリパーム)を用いると、熱傷部位の疼痛は2~3分以内にほとんど無くなります。これは、創面の湿潤環境の維持(乾燥空気からの遮断)と、ドレッシング材の接着による局所の安静によって、痛覚神経末端部への刺激がなくなるからです。
  閉鎖湿潤環境下では、創内の異物や細菌は炎症性細胞(好中球・マクロファージ・リンパ球)によって貪食・清浄化され、痂皮を作ることなく肉芽形成あるいは表皮化が起こります。
  真皮層が保たれた真皮熱傷では、真皮上に表皮細胞が分裂遊走し一気に表皮化をもたらします。真皮層が熱によって壊死し皮下組織以下までの損傷がみられる全層熱傷では、湿潤環境下の浸出液中にみられる炎症性細胞の出すコラゲネースなどの蛋白分解酵素(MMPs)によって、壊死組織の自己融解が進み、創面は肉芽組織で被われます。肉芽組織ができると1週間程度の後に創面の収縮が始るとともに創周囲からの表皮化が進行し、痂皮を作ることなく瘢痕治癒します。

熱傷創の新しいドレッシング法

水疱の熱傷

  水疱熱傷は、表皮と真皮の間に浸出液が貯まったもので、水疱内の創面は浸出液によって湿潤状態を保つとともに、水疱壁によって外部の汚染から守られた状態です。したがって水疱は無理に破らないほうがよいでしょう。ただし水疱表皮は熱によって化学的物理的特性が低下しているため、適度な加湿を行なうことが勧められます。
  水疱皮膚を守る意味で、ハイドロコロイドドレッシング材が勧められます。この場合は、薄いタイプのハイドロコロイドドレッシング材で十分でしょう。この時フィルムドレッシング材を選択すると、水疱周囲皮膚は乾燥のため傷みをおこします。
  熱傷部は、できれば毎日ハイドロコロイドドレッシング材の上から観察します。水疱が破れたり、痛みを訴えたりしないようなら、そのまま1週間程度貼りっぱなしにします。破れたり傷みを訴える場合は貼り替えますが、その時は一般的に水疱は破れます。水疱が破れた後は、浸出液が少なければ1~2日に1回ハイドロコロイドドレッシング材を貼り替えていきます。

皮膚が破れた熱傷

  水疱が破れたあと浸出液が多い場合や、当初から皮膚損傷があり浸出液のみられる例では、真皮層の壊死が進行し放置すれば全層熱傷となる危険性があります。この場合は全層熱傷として処置する必要があり、厚いタイプのハイドロコロイドドレッシング材を選択します。
  生きた細胞からなる真皮層が露出しており、真皮層の壊死が進行中ですが、ハイドロコロイドドレッシング材貼付によって積極的に真皮層の回復を図ります。当初は毎日のドレッシング交換を要しますが、真皮壊死の少ないものでは、1~2週間で創全面に表皮化が起こり治癒します。
  真皮壊死が深い部分には肉芽組織を形成しますが、その範囲を取り囲むように皮膚損傷の浅い部分から表皮化がどんどん進行していきます。全層損傷部が完全表皮化するには1ヶ月以上を要します。当初は毎日ドレッシング交換しますが、肉芽部の表皮化が進むとともに、2~3日に1回へと交換頻度が減少します。
  しかし、治療中にハイドロコロイドドレッシング材の保険適応期限である3週間を超えてしまうため、プロスタグランディン軟膏やリフラップシートを用い、その上からフィルムドレッシング材で密閉するなどの次善の方法に変えます。この方法では、1日1~2回の交換を要したり、動きに制限がでたりなどQOLがやや低下します。
  いずれのドレッシング交換時にも、十分量の生理的食塩水で創面を洗浄し、同時に創周囲皮膚を清拭します。決して消毒は行なってはいけません(第2回「炎症期と消毒」参照)。創周囲皮膚の汚れがひどい時は、入浴あるいはシャワー浴などによって綺麗に洗浄・清拭を行ないます。皮膚の汚れは、石鹸を用いて綺麗に洗浄することが勧められます。

熱傷へのハイドロコロイドドレッシング材の勧め

  このようにハイドロコロイドドレッシング材を熱傷に使うことで、患者の疼痛を無くし、瘢痕組織を最小限にすることから美容上好ましく、治療期間も短縮できます。
  熱傷治療で最もはっきり違いが解るのは、子供の熱傷です。ワアワアわめいて来院する子供の熱傷において、まず氷冷することでかなり傷みが軽減しますが、その後ハイドロコロイドドレッシング材を貼付することでピタリと子供は泣き止み、笑って帰っていきます。次回の来院時には、自分から歩いて診察室に入ってきます。痛くないこと、また傷みを取ってくれたことが解っているのです。
  もちろんガーゼドレッシング法と違い、ハイドロコロイドドレッシング材の交換時には痛みはありません。
  是非、まず御自分あるいは身内の熱傷にハイドロコロイドドレッシング材を使用してみてはどうでしょうか。革命的な発明であることを体験できると思います。