第03回 閉鎖環境とハイドロコロイドドレッシング材

2005年7月1日

ハイドロコロイドドレッシング材の組成

  ハイドロコロイドドレッシング材には、製品としてデュオアクティブ・テガソーブ・コムフィール・アブソキュアがあります。ハイドロコロイドドレッシング材は創面に付く粘着部と外部のフィルム部からなっています。粘着部はハイドロコロイドという名の通り親水性コロイドと疎水性のポリマーが混ざった構造になっています。外面フィルム部はポリウレタンフィルムからなっており、水分や細菌を通しません

創面の湿潤と皮膚の乾燥

  粘着部を創面に用いると、創からの浸出液を親水性コロイドが吸収し、ゼリー状あるいはスポンジ状の湿潤状態をもたらします。このゼリー状の粘着物は創面によく留まり、多少の圧迫では創面からはなくなりません。しかも、ドレッシング交換時には創面に固着することなく、生理的食塩水で容易に流し取ることができます。もちろん、浸出液が多いと親水性コロイドの吸収作用を上回り、ドレッシング周囲からドロドロの液体が漏れ出てきます。面白いのはこのような状態でも皮膚は意外と浸軟しません。
  創周囲皮膚へは粘着部の疎水性ポリマーの作用で接着し、皮膚の凹凸や皺にもよくなじんで固着します。皮膚からの発汗は親水性コロイドが取り込むので、皮膚は浸軟せず乾燥環境を保ちます。かなりの汗でも皮膚がべとべとになることはほとんどありません。このように、創面にハイドロコロイドドレッシング材を単に貼用するだけで、創面には湿潤環境を、創周囲皮膚には乾燥環境をもたらします。

創面閉鎖と創感染率

  創傷治癒には湿潤環境が必須であることは以前書きましたが、閉鎖環境にすることについては外科系医師には抵抗感があります。感染治療には創面の解放を行なうことが創傷処置の原則のように言われているからです。
  ところで、感染発症のメカニズムを考えると、次の三つのルートがあります。1)創内で既に感染創を形成しうる細菌数の存在。2)血流あるいはリンパ流によって他の感染部位から細菌が移動。3)創周囲皮膚など外部から細菌が侵入。
  1)のように既に多数の細菌(105/g以上といわれている)が創内に存在する場合、どのようなドレッシング法を行なっても感染創を発症します。感染と診断できれば、もちろん創内をデブリードメントし、開放して処置を行なう必要があります。しかし、まだ肉眼的に診断できない段階では、治癒に適した湿潤環境を保ちながら観察を行なっていきます。
  2)のような他部位からの感染は多くありません。危険を感じれば全身的な抗生剤の予防的投与を行ないます。
  問題は3)の例です。この例が一番多く、創周囲の皮膚が汚れていると創感染が起こりやすくなります。実際、仙骨部褥創では皮膚常在菌や腸内細菌が感染を起こします。これは創周囲の汚染からの感染を意味します。
  閉鎖性ドレッシング材による創感染率の研究は多く行なわれていますが、さまざまな創傷全てにおいて閉鎖性ドレッシング材の感染抑制における優位性が報告されています。例えば、通常のガーゼドレッシング法では感染率6.4%程度のものが、閉鎖性ドレッシング材では2.7%と半分以下になっています。感染率がゼロにならないのは、1)の理由による感染が存在するためと思われ、半分以下になるのは3)の理由による感染を抑えるためと考えられます。
  以上のように、明らかに感染した創傷を除き、創面の閉鎖によって創感染を著明に抑えることができるのです。ただし注意する点は、創が閉鎖され観察できないため、感染の可能性がある間は1日1回のドレッシング交換を行なう必要があります。創内では好中球の活動は24時間を過ぎると低下すると報告されており、この点から感染の可能性のある間はドレッシング交換は1日1回必要と考えられるからです。

創面の低酸素によって血管新生加速

  細胞の増殖には酸素が不可欠で、その酸素は動脈血中のヘモグロビンによって届けられます。このためには創傷内で毛細血管の新生が必要です。この点に関して、外部から創面が閉鎖されると創内のマクロファージが血管増殖因子(グロースファクター)を分泌し、その結果毛細血管新生が加速するという新知見が報告されました。ドレッシング材を使った実験においても、ハイドロコロイドドレッシング材は酸素をほとんど通さないため、創傷面が低酸素となり血管新生が加速され、創傷治癒が促進されることが実験で証明されました。

弱酸性環境による創傷治癒促進効果

  ハイドロコロイドドレッシング材はpH5前後の弱酸性環境を創面に作ります。ヘモグロビンは肺で酸素と結合し末梢で酸素を解離しますが、これは温度・pH・CO2分圧等が関係します。特にpHが大きく関与し、pHが少し酸性になるだけでヘモグロビンは多くの酸素を解離します。例えば創面のpHがハイドロコロイドドレッシング材で0.6低下すると、ヘモグロビンからの酸素供給量は約2倍になります(ボーア効果)。このため、肉芽形成が促進し、感染も起こりにくくなります。さらに、低いpHは細菌に対し静菌的な作用も持っています。また表皮細胞の至適pHは弱酸性であり、ハイドロコロイドドレッシング材を使った場合の表皮化の速さにも関係しています。

ハイドロコロイドドレッシング材の適応を考える

  以上のように、ハイドロコロイドドレッシング材は湿潤環境を維持し、細菌感染を抑え、痛みは少なく、速く、美しく傷を治してくれます。しかし、その利点をうまく引き出すためには、創面閉鎖による観察不足の危険性を理解し、感染が疑われる創面では、毎日のドレッシング交換を行うことが大切です。創面が肉芽で被われたら感染に対して強い状態となるため、あまり頻回なドレッシング交換は不要になります。
  また、炎症が強く浸出液が多い創面での使用も浸出液がすぐ漏れてくるため適しません。