第26回 車椅子シーティングと褥創

2007年6月1日

 車椅子は家庭と施設、あるいは医療施設内の移動用機具として主に使われてきました。ところが最近は生活場所としての使用も多くなってきました。例えば在宅での座位保持用機具、あるいは若年の方などでは仕事や生活全般に車椅子を使う方も増えています。
 ところがこのような生活場所として使用する際も、移動用具として作られた折り畳み式の既製品車椅子がそのまま使われることがあります。移動用車椅子上で生活するとさまざまな問題が発生しますが、その一つとして尾骨・坐骨部の褥創の発生や踵部褥創の発症例があります。

車椅子による褥創

 移動用の既製品車椅子に体の小さな高齢者の方が座った場合、膝下部が長いため足が足乗せに届かず、また座面も長すぎることから、体が前の方へ滑ってずれていきます。この場合、尾骨部に高い圧力がかかるだけではなく摩擦とズレ力も加わり、尾骨部褥創の発症原因となります。
 また逆に体が大きい方にとっては車椅子の膝下部が短すぎるため、車椅子の足乗せ部に踵が強くあたり踵部褥創発症の原因になります。特に室内で使用する場合、裸足あるいは靴下のみで車椅子に乗ることが多く、このときには踵部への圧迫はより高度になります。
 同様に膝下の長さが足りない車椅子に乗ると、膝部から大腿部にかけて座面から浮上り、坐骨部に高い圧が集中し坐骨部の褥創発症につながります。
 もちろん車椅子乗車時間が長くなる場合には体圧分散マットレスの使用は必須ですが、以上のように車椅子そのものにも大きな問題があることに気がつきました。 話は変わりますが、移動用既製品車椅子を生活の場として使用される場合には、大げさですが人道上の問題もあるのではないでしょうか。
 試しに皆さんが既製品車椅子に乗ってみると分かると思いますが、座面はたわむし全体的なサイズに関しても決して自らの体にフィットしません。大変座り心地が悪く、せいぜい5分程度でいやになってしまいます。このような車椅子の上に1~2時間放置されたらたまったものではありません。

車椅子には3つの種類がある

 車椅子について調べると、3つ種類がありました。1つは移動用折畳み式車椅子に代表される既製品車椅子です。サイズは単一かせいぜいS・M・Lの選択しかありません。一番安く、すぐ手に入りますが、目的は短時間の移動用に限定して用います。
 次がセミオーダーメイドのモジュールタイプ車椅子です。これは座面の幅や長さ、肘あての高さ、背もたれの長さや角度・形状、膝下の長さ、足乗せの角度、等を別々に部品としてオーダーし、患者の体に合ったものを組み合わせて1つの車椅子にします。選択できるものはメーカーや機種によって違いますが、一人一人の体形に合わせて作るため個人専用となります。値段も比較的安くできることと、最終出来上がりまでの期間が短くて済みます。更に各パーツが壊れた場合も、そのパーツのみを取り寄せることで車椅子を修理に出さずに直せるというメリットがあります。
 もう1つはオーダーメイド車椅子です。座面から背もたれなど全てについて完全にオーダーメイドで作ります。きちんと患者のサイズを測定し、生活様式などを検討し、使用目的に合わせて唯一の一台を作ります。円背や強い側彎等を合併し体の変形の強い場合はこの方法しかありません。完成までに長期間を要しますが、信頼のおける作成者と十分に検討して作れば満足の一台ができるはずです。
 製作費はもちろん一番高くなります。また一部でも壊れた場合は修理工場へ出す必要があり、この間使えなくなります。この場合、修理期間に3ヶ月以上を要することは稀ではありません。また、完成度は製作者の技術と、打ち合わせの濃密度に左右されます。
 以上から分かるように、生活の場として使用する車椅子を持つ場合、特殊な例を除き、現時点において一番有利と考えられるのはモジュールタイプ車椅子と言えるでしょう。モジュールタイプ車椅子を作るには、患者さんの意見を聞きながら、理学療法士・作業療法士・あるいは医師が関与し、車椅子メーカーの人と話し合って決定していきます。
 しっかりした車椅子メーカーの方に来てもらえば、適切にオーダーすることは医師だけで行ってもそれほど難しいことではないと思います。車椅子メーカーの決定にはインターネットで「車椅子メーカー」「車椅子販売店」「モジュールタイプ車椅子」などで検索し、そのうちの幾つかに連絡し、対応の仕方で決めればよいでしょう。あるいは職業別電話帳で「車いす」で調べると出ています。

背もたれにも3つの種類がある

 以上のように車椅子作成には3つの種類があることを知りましたが、同様に背もたれに関しても3つの種類があり、褥創発症には大変重要な意味のあることが分かりました。「背が直角に固定したタイプ」「リクライニングタイプ」「チルトタイプ」の3種類です。
 まず、背が直角に固定したタイプ。これは既製品車椅子・モジュールタイプ車椅子・オーダーメイド車椅子の3種類の車椅子ともに選択が可能で基本形と言えます。
 開次がリクライニング車椅子です。これは座面は水平のままですが、背もたれの角度を変えることができます。このとき、膝下の角度も変えられるものもあります。
 リクライニング車椅子はモジュールタイプやオーダーメイドタイプで選択可能です。既製品の移動用車椅子でも一部選択できるものもあるようです。 リクライニング車椅子は在宅と施設間で、座位保持できない方の移動用に使われることが多いようですが、重大な問題があります。このタイプの車椅子は座面が水平なまま背が倒れるため、体は必ずずれていきます。特に送迎用に使うと、車の揺れでこのズレの問題が更に大きくなります。つまり、ズレと圧迫によって仙骨・尾骨部褥創を高率に発症してしまうからです。これらの理由により、リクライニング車椅子はいかなる場合でも勧めていません。
 では座位になれない方の移動はどうするのでしょうか。その時勧められるのがチルトタイプ車椅子です。チルトタイプ車椅子は背の角度を変える時、座面の角度も同時に変えることができます。背が倒れると同時に座面も角度がつけば、坐骨部への圧迫は避けることができなくてもズレが起きないため、体圧分散用具を座面に用いることで褥創発症を防ぐことができます。ほとんどはモジュールタイプあるいはオーダーメイドタイプでの製作になりますが、既製品でも販売されています。座位になれない方での施設への送迎は是非ともこのチルトタイプ車椅子に限ることが勧められます。

生活の場としての車椅子

 車椅子について勉強すると、在宅や社会参加のために長時間車椅子に乗る場合はモジュールタイプ車椅子の選択が基本と考えられました。また在宅や施設で座位不能の方の寝たきり予防目的などで車椅子に乗ってもらう場合は、モジュールタイプ車椅子でチルトタイプのものが勧められます。同様に送迎用には既製品でも構いませんがチルトタイプの車椅子が必須と考えられました。
 そしていずれの場合にも体圧分散用具を座面に使うことを忘れてはなりません。ちなみに車椅子用として最も勧められるのはロホクッションです。