第29回 ベッド上での食事と褥創

2007年9月1日

 1日中ベッド上で生活される、いわゆる日常生活自立度Cにランクされる方では、食事はベッド上で摂ることが多いようです。しかしベッド上での食事は実は褥創の発症にとって大変危険な行為となります。褥創を考えなくても生活の自立の妨げとなり、さらに寝たきりへと向かわせることにもなるようです。そこで寝たきりの方の食事摂取姿勢について考えたいと思います。

ベッドのギャッチアップ角度と快適性

 ベッドの背もたれを上げることをギャッチアップと呼ばれていますが、ベッド上で食事をする場合、大体45~60度にしないと食事が見えず、また飲み込みも大変しにくくなります。しかし、ベッドを45~60度もギャッチアップすると、腹圧はどうなるでしょうか。足を伸ばしていても結構腹圧は高くなります。まして膝を曲げるとさらに腹圧は高くなってしまいます。このような状態で食事を摂ると、量を十分に食べる前に腹が張ってくるのではないでしょうか。
 では腹圧を低くするために30度程度のギャッチアップにした場合、食べられるでしょうか。30度程度のギャッチアップでは、食事を見ることができません。また飲み込み(嚥下)が大変しにくくなり、誤嚥もしやすくなってしまいます。結局、美味しく楽しく食べられないし、食事量も減ってしまいます。
 当たり前のことですが、ベッド上でギャッチアップを用いて食事をすることは、どのような角度にしても勧められる方法ではありません。

ベッドギャッチアップと褥創発生

 ところでベッドをギャッチアップしていくと、お尻の左右のふくらみの間に位置する仙骨尾骨部では、しだいに圧が高くなることを報告されています。特に30度を越えると急速に圧が高くなります。
 またギャッチアップ角度を高くしていくと、圧迫だけではなくズレと摩擦の影響も出てきます。以下にズレについて説明します。
 体をギャッチアップしていくと、体の重みは骨を中心に下方向へ移動しますが、体表は寝具などとの摩擦力によってとどまるため、骨と皮膚の間の組織(軟部組織と呼ばれる、筋肉や皮下脂肪、真皮など)に上下に横方向の力(剪断力)が働きます。軟部組織が横方向に引張られると、血流が途絶し組織が死んでいきます。また軟部組織には、横方向の強い力によって直接的な障害ももたらされます。このような有害な横方向への組織移動はズレと呼ばれ褥創の発症原因であり褥創の悪化要因なのです。ズレが起こるとき、表皮には摩擦力が働いており、この摩擦力によって表皮剥離が起きて褥創が発症します。
 ベッドギャッチアップを行っていくと、圧だけではなく、ズレと摩擦力も急速に高くなることが報告されています。
 ギャッチアップしたあと少し時間がたつと、体が下の方へ移動してずれ下がってきますが、こうなるとさらにズレと摩擦力が高度になることが知られています。そのためベッドのギャッチアップをする時は、ズレと摩擦力が高くなることを避けるため、30度以下が推奨されています。また、30度でも体が下へずれ下がることがあるため、この予防として膝下部分のベッドを持ち上げることが勧められています。
 以上のように、ベッド上で食事をとろうとする行為は、食事を美味しく多く食べられないだけではなく、褥創の発症悪化という結果をもたらすあまり勧められる行為ではないことが分ります。

離床して食事を摂る

 では寝たきりの方に食事を摂ってもらうにはどうしたら良いのでしょうか。それにはベッドから離れて食事を摂ることです。
 次膝下長の合った、肘掛けのあるイスを用意し、そこに移動して食事を摂ってもらいます。最近では介護用の肘掛けのあるイスが各種商品化されて売られています。しっかりすわって食事することで楽しく、腹圧も掛からず、褥創発症も避けながら食事をすることができます。
 どうしても座位保持が難しい場合は、ティルトタイプのイスあるいは車イスを用意します。ティルトタイプとは、背もたれが倒れるだけではなく、座面の角度も変えることができる車イスあるいはイスを指します。

病院のベッドの考え方がおかしい

 では、寝たきりになっているとなぜベッド上で食事することが普通になったのでしょうか。それは病院の考え方に問題がありそうです。
 病院ではベッドの所まで食事が運ばれ、ベッド上で食べることが普通に行われています。最近は食堂で食べる施設も多くなってきましたが、病室で食べる場合は、歩ける人でも基本的にベッド上です。なぜベッドの脇に、体力が低下しても座れるような肘掛けのある快適なイスがないのでしょうか。患者さんは本当は、皆イスに座って食べたいのです。そもそもベッド上で食事を摂ると、腹圧が高くなり決して勧められる方法とは言えません。
 最近は大きな手術をしても、翌日から座位、2-3日中には立位へと進められます。手術2~3日後になれば、介助によって皆座位で食事ができるはずです。
 病院では、元気なお見舞い客しか座らない丸イスをベッド脇に置くのではなく、病棟の主役である患者さんができるだけ早く離床し、退院できるためにも、しっかりとしたイスを用意すべきではないでしょうか。

在宅や介護施設での食事

 在宅や介護施設でも、寝たきりの方の食事は「なるべく離床してイスあるいはティルトタイプのイス(車イス)で食べるようにしてはどうでしょうか。そのためにはすこしマンパワーが掛かりますが、より重度の寝たきりへの移行を予防でき、同時に褥創発症の予防効果も期待できると思います。