切れ痔と肛門狭窄の関係

  誰でも硬い便をすると肛門が切れて痛い思いをした経験があると思います。このとき肛門には粘膜が裂けたような傷ができて、時に出血もします。これは自然に治るのですが、これを繰り返すと傷は次第に深くなります。この状態が切れ痔(裂肛)です。


  深い傷は治るときに周りの組織を引っ張って収縮し硬くなります。肛門にこれが起こると、肛門は少し狭くなり、弾力性が減っていきます。 硬い便を繰り返す人では、深い切れ痔を何度も繰り返すことで、肛門は次第に狭くなり、線維化して弾力性がなくなってきます。

  このようになってしまってからでは、便が普通便からやや軟らかい便であっても、排便のたびに切れて出血し、ひどい痛みが続くようになります。これは切れ痔(裂肛)と肛門狭窄が重なった状態で、ほとんどの方は我慢できず肛門科を受診されます。こうなってからでは、手術で肛門を広げる方法しかとれないことが多いです。手術で肛門を広げても、便が硬ければ再び狭くなるため、排便習慣そのものを改善する必要があります。

  排便習慣の改善とは、以下の三つを続けることを指します。
(1)水分をしっかり取って便を軟らかくする(1時間に1回、50〜100ml飲む)
(2)排便時には、ロダンの「考える人」の像のような姿勢にし、軽く腹圧をかけるだけにする
(3)肛門を締めたり緩めたりする骨盤底筋訓練を毎日、半年〜1年以上継続する

  (1)の水分の取り方を変えるだけで、肛門狭窄になった方でも7割以上の方で痛みが改善します。少数の方はここで満足して(1)(2)(3)を止められますが、あっという間につらい状態に戻ってしまいます。

  さて、ここまで読んでくださった方には朗報です。硬い便で肛門が切れたときに、この(1)(2)(3)をすぐに開始すれば、手術を避けることができます。手術をした後で(1)(2)(3)を開始するよりも、早いうちに開始しましょう。また、肛門が狭くなり始めたらすぐに肛門科を受診することで、多くの場合手術をしなくても、(1)(2)(3)の指導を受け実践すれば、快適な排便の日々に復帰できます。その後も改善した排便習慣を続けることが大切です。

2023年12月17日 健康マンスリー