高岡市医師会報掲載記事  
   
               

北日本新聞掲載記事
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サルコペニアとメタボリックシンドローム
  年をとって筋肉量が減り、同時に筋力や身体機能も低下した状態を「サルコペニア」と呼びます。サルコペニアでは運動不足と低栄養が重なっており、転倒や骨折がおこりやすく、病気からの回復力も低下し、死亡率が高くなります。
  予防には筋力強化運動が有効ですが、低栄養状態で運動すれば、皮肉なことにかえって筋肉は減っていきます。筋力をつけて身体機能を高めるには、適切な栄養補助と筋力強化運動を同時にしなければなりません。
  栄養療法と運動療法を同時に行うことが大切というと、メタボリックシンドローム対策と同じです。メタボリックシンドロームは内臓脂肪が蓄積した状態で、高血圧・糖尿病・高脂血症などの生活習慣病と重なり、心臓や脳の病気になり、死亡する危険が高くなります。
  実はメタボリックシンドロームの方は、中年期における栄養過剰と運動不足が原因ですが、中高年期になり病気やけが・手術などで食事量が減ると、そのままサルコペニアに移行します。
  対策としては、中年期に運動習慣を付けることであり、65歳を超えたら肉や魚などのタンパク質をしっかり取りつつ、空腹でないときに筋力強化運動をします。筋力強化運動として勧められるのは、立ち上がり運動です。安定性の良い椅子に座った状態から立って、また座るという繰り返し運動です。身体が不安定な方は、机などにつかまりながら行います。まずは1日30回からはじめ、100回まで増やしていきます。さらに1日に200回を目指します。これは毎日行うことが大切です。テレビを見ながらや、歯を磨きながらなど、「ながら運動」としてやると継続できます。
  いずれも運動の前か後にタンパク質を十分に取っておくことが大切です。最近はタンパク質を10グラム程度含む栄養補助食品が多くみられるようになりましたが、このような理由によるものです。
  既に病気を持つ方は、運動療法については理学療法士か作業療法士、栄養療法については管理栄養士などの専門職の意見を聞きながらおこなうことが勧められます。
2017年5月21日(日)掲載
 
肛門をいたわろう
    忙しい日常の中で、水分はコーヒー1杯くらいで、毎朝便意がなくてもトイレに行き、息んで排便していませんか。これらは肛門に負担をかける行為です。
   私たちの肛門の奥は直腸ですが、肛門と直腸は鋭角になっていて、直腸の便は漏れにくくなっています。和式トイレの排便時に体は丸くなりますが、これは肛門と直腸の角度は鈍角となり、便が出やすい状態です。ところが洋式便器に座る時、背を伸ばした座位姿勢では、肛門と直腸の角度は鋭角となり、便は出にくくなります。洋式便器に座るときも、お尻から背中まで丸くし、かかとも上げると、肛門と直腸の角度は鈍角となり便は出やすくなります。ちょうど有名な「ロダンの考える人」という彫像の格好です。
   排便時に強く息むと肛門は締まり便はかえって出にくくなります。正しい排便姿勢をしていれば、お腹をへこます程度で十分腹圧は高くなります。肛門の力を抜き肛門を開いた状態で待ちます。直腸に便があれば自然にぜん動運動(肛門に向かって便を押し出す腸管の動き)がおこり便が排出されます。
   ここで大事なのは、便意があったらすぐトイレに行くことです。便が直腸に降りると便意が起こりますが、15分以内にトイレに行きましょう。便を我慢すると、便意はなくなり直腸内で便から水分が吸収されて硬便になり、排便時には粘膜が裂けて裂肛(切れ痔)になります。
   裂肛が治るとき線維化して肛門が硬くなり、繰り返すことで肛門は次第に狭くなります。排便時の出血と激痛から便を我慢すると悪循環に陥ります。
   肛門狭窄になったら便を軟らかくする必要があり、たとえ排尿回数が増えてもカフェインを含まない水分を1時間に1回100mL以上摂ります。目が覚めているときは常に水分摂取を守り、水を薬として飲みます。
  このような状態にならないよう、日頃から優しい排便法を守り肛門をいたわるようにしましょう。栄養は口から摂りますが、その結果としての排便も食べることと同じく大切にしましょう。
2016年12月18日(日)掲載
 
栄養ケア・ステーションを活用しよう
   高血圧や糖尿病、高脂血症などの治療の基本は生活の改善であり、中でも食事療法が最も重要であることは承知のことと思います。管理栄養士はその専門家で、病院で指導を受けられた方もいらっしゃると思いますが、食事療法は在宅でこそ必要なのです。
   日本栄養士会は食育活動の拠点として、2008年に全国48カ所に栄養ケア・ステーションを病院の外に開設しましたが、利用はなかなか進んでおりません。
   在宅では、通院が困難な高齢者や一人住まいの方での栄養状態悪化が指摘されています。また低栄養になると肺炎や床ずれの危険が高まることから、訪問栄養食事指導が有効とされているのの、在宅へ出る管理栄養士の数が圧倒的に少なく、したがって一般の方々にその有用性も認知されていないのが現状です。
   そこで、さらなる地域への密着をめざし、2015年より「認定栄養ケア・ステーション」の設置がモデル事業として始まりました。10年後は全国8400カ所への拡大が目標ですが、現時点では242カ所とのことです。
   当院では「栄養ケア・ステーション高岡EKINAN」を開設し、2カ月に1回、公開で介護食調理教室「たむらかなみのHAPPYクッキング」を開いています。またフリーの管理栄養士に訪問に必要な研修を行い、研修を終えた管理栄養士を施設や診療所へ非常勤として紹介し、在宅へ行ってもらう事業も始めました。管理栄養士の方には、栄養ケア・ステーションに登録し、必要な研修を受けていただけたらと願っております。
   「食」とは「人」が「良」くなると書きますが、いつまでも口から食べられる喜びは何事にも代え難いと思います。食の専門家である管理栄養士と一緒に、必要な栄養を含んだ好みの味の食事を、食べる能力に合わせつつ楽しくご自宅で試してみませんか。
   まず、かかりつけの先生に訪問栄養食事指導の相談をすると、かかりつけの先生からの依頼で栄養ケア・ステーションは管理栄養士を紹介し、かかりつけの先生の所から訪問栄養食事指導が始まります。
2016年5月22日(日)掲載
 
手のキズの適切な処置
  救急絆創膏は、大変重宝で、小さいけがをするとつい使っていますが、便利なものには落とし穴がつきものです。
  救急絆創膏の内側には非固着性のガーゼが付いており、外面はプラスチック製の粘着テープになっています。密閉されていて外からの汚れはブロックされるように思えますが、粘着テープ部には小さな穴が多数開いていて、外の汚れは簡単に内側へ入ります。
  私たちは入浴の時や、トイレの後、掃除をしたときなど、しょっちゅう手を洗います。1日に手洗いを5〜10回はしていて、石鹸も使います。その時救急絆創膏を付けていると、洗った汚れは内側のガーゼ部分に浸透しています。つまり汚れをガーゼに付けてキズに押しあてることになります。その結果皮膚はふやけて、キズは感染します。このような皮膚炎で来院される方は少なくありません。
  救急絆創膏を手に使うときは、手洗いをする度に新しくしなければなりませんが。より適切な処置があります。両極端の方法から選択します。
  一つは、普通のガーゼを用いる方法です。手洗いの時濡れたらガーゼを交換します。濡れなければ交換せずにすみます。
  もう一つは、完全にキズを密閉する近代的ドレッシング材を使う方法です。医療機関受診が必要ですが、市販品もあります。キズパワーパッドやフィルムドレッシング材(透明な薄い粘着フィルム)がそうです。しかし、キズを密閉する時には、守らなければならないことが二つあります。使う前にキズをよく洗ってゴミなどの異物を無くすことと、キズを毎日洗い新しいものに換えることです。
  キズの処置で分からないことがあれば、何でも聞いて下さい。
2015年12月20日(日)掲載
 
コラーゲンペプチドで老化予防
  私たちの体の20%はタンパク質からなり、そのうちの30%はコラーゲンで、多くは皮膚に含まれ細胞と細胞の間で組織を支え、体の形を保つ働きがあります。コラーゲンが劣化すると、皮膚はフニャフニャでシワシワな状態になり、硬くて深いシワができてみずみずしさのない、いわゆる老化した皮膚になります。
  コラーゲンを含む皮膚や骨・軟骨を多く含む料理が冷えると煮こごりになりますが、この煮こごりはコラーゲンそのものです。タンパク質であるコラーゲンは分子量が極めて大きく、食べてもそのまま吸収されることはなく、老化予防の効果は無いと考えられてきました。
  しかし、コラーゲンを加熱抽出・生成してゼラチンを作り、さらに酵素で分解したコラーゲンペプチドは、腸から吸収できることがわかりました。コラーゲンペプチドの中でもプロリンとヒドロキシプロリンがくっついた(P-O)や、ヒドロキシプロリンとグリシンがくっついた(O-G)の研究が進み、活性物質としての有効性が証明されました。
  皮膚の老化は、活性酸素による酸化と、タンパク質と糖が化学反応を起こす糖化が原因です。皮膚のみずみずしさを保つ「コラーゲン」や「エラスチン」「ヒアルロン酸」に酸化や糖化が起こると老化が進みます。コラーゲンペプチド、特に(P-O)や(O-G)は線維芽細胞を活性化させてヒアルロン酸やコラーゲン、エラスチンを増やします。動物実験ではコラーゲンペプチドを食べさせることで、皮膚の老化が予防されました。
  コラーゲンペプチドを含む健康食品はすでに商品化されており、1日10グラム程度の摂取が基準です。ただし、一汁三菜などバランスの良い食事を3食摂っていることが前提です。バランスの悪い食事をコラーゲンペプチドは補えず、その効果も期待できません。それどころかコラーゲンペプチドのみの偏ったタンパク質摂取では、健康を損なう危険があります。
2015年5月17日(日)掲載
 
オムツフィッターって何?
  私たちは毎日食べて、そして尿や便を排せつするという行為を当たり前に繰り返しています。でも身体が不自由になり、排せつがうまくできなくなると生活自体が大変になります。後始末をなるべく簡単にすることが優先され、快適に排せつすることを忘れがちになります。
  排せつに困ったらオムツと考えられていますが、安易なオムツの使用、例えばオムツを何枚も重ねたり、尿をいっぱい吸ったオムツをずっと着けていたりすると、股が開いて不快感が強くなるだけではなく、座位姿勢が悪くなり、胸が押されて誤嚥性肺炎や床ずれの原因になります。
  オムツは基本的に外側に用いる「アウター」と内側に用いる「インナー(尿取りパッド)」のそれぞれ1枚ずつを組み合わせて用います。その際アウターの立体ギャザーの中に収まる大きさのインナーを組み合わせます。また、アウターの立体ギャザーを持って股間に添うように持ち上げることで尿が漏れにくくなります。
  オムツフィッターは適正なオムツを選択し、使い方を指導するのですが、それは役割のほんの一部です。実は、ベッドが低すぎたり、手すりの位置が悪かったり、床が滑りやすいなどのために排せつの自立ができないことがあります。またトイレの介助バーが横にあるために力が入らないことや、ポータブルトイレの便座やアームレストの高さが合っていないことも、自立の妨げになります。このような住環境の改善でオムツが不要になる人もいます。さらに治療で良くなる方もいます。オムツを使用する場合でも、生活様式などを考え、快適でより活動的になれることを基本に考えます。
  オムツフィッターはオムツを含む排せつ用具だけではなく、住環境や医療、食事など幅広い視点から排せつの困りごとに対してアドバイスをしています。今全国に3800名程度、富山県では40名程度のオムツフィッターがいますが、「ミニむつき庵」という排せつに関する相談窓口を2015年中には県内に作ろうと準備をしています。
2014年12月21日(日)掲載
 
リハビリ栄養ってなに?
  トップアスリートが世界で活躍するとき、チームドクターとともに管理栄養士の同行が必須となっています。体の状態を最高に保つには、糖質・タンパク質・脂質といった3大栄養素のバランスだけではなく、それらを食べるタイミングも重要とされています。
  日頃からバランスのよい食事が必須ですが、運動前はすぐにエネルギーに変換する糖質を主に摂ります。また運動直後には、壊れた筋肉を修復するため、タンパク質を主とした栄養補給を行います。
  近年高齢者において、寝たきり予防のリハビリが盛んになり、またそれが推奨されています。ところが運動リハビリをした高齢者が、かえって動けなくなる例がありました。食事量が少ないために筋肉量が減っていた高齢者が、筋力強化トレーニングを熱心にしたためでした。
  栄養不足の方が運動をすると、運動のためのエネルギーが必要となり、筋肉が壊されてエネルギー源になります。筋肉をつけようとして行った運動で、かえって筋肉を失うという皮肉な結果になったのです。
  トップアスリートの栄養管理の考え方は、高齢者のリハビリに応用されました。管理栄養士が栄養アセスメントを行い、栄養不足があれば栄養改善を行い、その上で運動リハビリが開始されるようになりました。
  さらに運動直後にタンパク質のサプリメントを摂ると、筋肉量は有意に増加することが示されました。このほうこくでは、運動2時間後の摂取では、筋肉量増加の効果は見られなかったとのことでした。
  われわれの生活にほとんど関係ないと思われる宇宙開発が、日常の電化製品に応用されているように、トップアスリートの栄養管理は高齢者の寝たきり予防に生かされているのです。
  これは高齢者に限った話ではありません。私たちが運動を行うときにも、栄養の専門家である管理栄養士の知恵を借りながら、豊かな生活を送りたいと思います。
2014年5月18日(日)掲載
 
低温熱傷に注意
  これから寒さが続く季節となりました。部屋全体を暖める暖房器具は普及しましたが、それでも電気あんかや使い捨てカイロのように、体の一部をしっかりと暖めてくれる用具も手放せません。これらはそれほど高い温度になりませんが、寝入る時には気をつけなければなりません。
  電気あんかや使い捨てカイロの上に体が乗ると、熱源は体で覆われ温度が上がっていきます。さらに軽い圧迫も加わります。寝込んだ時には、同じ姿勢を1時間以上とることになりますが、体で覆われた部分の温度が50度以上になると、体の細胞は死に始めます。比較的低温であることと、圧迫による軽いしびれがあるために、あまり痛み無く時間が過ぎていきます。この時、熱は皮膚表面だけではなく皮下深くまで達しており、そこの組織も死んでいきます。
  目が覚めてから痛むのですが、実は体の表面は痛みに敏感ですが、皮下の深いところは痛みに対し鈍感なため、当初あまり痛くありません。やけどになったことは分かるのですが、初めはそれほどひどいとは思えません。しかし皮下の深くまで細胞は死んでおり、しだいにやけどの傷は深くなり、痛みも増します。その段階で、病院を受診しますが、見ためはまだ大したことはないのです。しかし、どのような治療をしてもさらに悪化し、やがて深い潰瘍になります。これが低温熱傷です。実は当初から、つまむと皮下に硬い組織(硬結)が触れ、深いところで組織障害があることが分かります。
  治療は、当初から低温熱傷と認識し、傷を密閉して細菌侵入を予防しつつ、死んだ組織を少しずつ切除していきます。治るまで大体2〜3ヶ月くらいかかります。
  予防は、電気あんかの上に体をのせないこと。また使い捨てカイロは体の下になる部分に用いないか、寝る時には外しておくことです。
  低温熱傷の患者さんはかなり多いため、対処法を書くとともに、注意喚起いたしました。
2013年12月15日(日)掲載
 
糖尿病でも夢が実現
  糖尿病治療の原則は「カロリー制限食」です。家族の中で一人だけカロリーの低い食事をし、外食しても食べるものはほとんどありません。おいしいものを腹一杯食べたいというのは糖尿病の方の夢です。
  アメリカでは現在「カロリー制限食」は現実的とは言えず、「糖質制限食」が現実的と変わってきました。では、「糖質制限食」とは何でしょうか。
  3大栄養素は、糖質・脂質・タンパク質ですが、この中で血糖値を上げるのは糖質のみです。食後血糖値の上昇は、肥満や糖尿病の原因です。
そこで糖質量を1日130g以下、1食40g以下にする食事が「糖質制限食」です。糖質はデンプンや砂糖などを指し、主食に多く含まれます。では1食40g以下とはどのような食事でしょうか。主食を食べるなら、ご飯を軽く半膳、あるいはパンなら食パン半切れとし、イモやカボチャなどの糖質のものを食べず、おかずは自由に食べる食事です。あるいは主食を摂らずに、おかずを自由に食べてもかまいません。揚げ物や炒め物も自由に食べてよいのです。お菓子類は糖質ゼロのものも増えてきましたし、アルコールも糖質を含む醸造酒やカクテルを避ければ可能です。
  これで「糖質制限食」になるのなら糖尿病の方にとって夢が実現することになります。すでにフルコースのフランス料理を糖質40gで提供するミシュランガイドのレストランもあります。
  「糖質制限食」は糖尿病以外の方にもメリットがあり、糖質を制限したメニューを出す有名レストランでは、その半数以上が糖質制限メニューをオーダーされるそうです。料理人の方々も、健康を考えた食事の提供に熱心であり、今後各地で急速に「糖質制限食」が増えていくと期待されます。
  注意事項として、当たり前なのですが、通常以上のカロリー(例えば2500Kcal等)を摂ってはいけません。また成長期の子どもや運動をしっかりやっている方には勧めません。実施に当たっては管理栄養士と相談しながらおこないましょう。
2013年5月19日(日)掲載
 
胃カメラ、経鼻か経口か?
  日本は世界一、胃がんが治りやすい国になりました。それは早期に発見されるからで、胃内視鏡検査の普及と関係があります。例えば、早期胃がんでは99%の治癒率(5年生存率)ですが、進行した胃がんでは50%以下になってしまいます。治療法が進歩しても早期発見が大切です。
  とは言っても、胃内視鏡検査が辛かったため二度としたくない方や、苦痛と聞いて躊躇する方も多いようです。でも胃内視鏡検査は進歩しています。苦痛のより少ない麻酔法や検査法が一般化しました。また機器の進歩により、今では9ミリ以下の太さになりました。さらに5ミリのものが開発され、鼻からの検査も可能になりました。それぞれの検査の利点と欠点を考えてみましょう。
  経口内視鏡はやや太くて硬いため、のどを刺激し吐き気をおこします。利点としては、画像が鮮明であること、鉗子孔という器具を通す管が太く、ポリープを取るなどの処置が行えることです。またある程度の硬さがあるので、観察が容易で組織を取る検査も短時間で行え、検査時間が短くなります。
  経鼻内視鏡は柔らかく、のどへの刺激が少ないため、吐き気はほとんどありません。余裕が出て、自分の胃の観察を希望される方もいらっしゃいます。しかし、画質はやや悪いことと、鉗子孔が細いため、組織検査はできても処置はできません。内視鏡が柔らかいことで、見にくい場所の観察に時間を割く必要があり、また胃液の吸引や送気にも時間がかかるため、検査時間は1.5〜2倍になります。鼻腔が狭い方では、鼻出血や鼻の痛みを伴うことがあります。ごく稀に鼻の麻酔薬でめまいを生じることもあります。とは言え、口からの検査で大変な苦痛を経験した方にとって、鼻からの検査はウソのように楽な検査です。
  いずれにしても、ある程度の年齢になれば定期的な胃内視鏡検査が勧められますが、そのときに口からか、鼻からかを選べることは、日本の科学技術の成果であり、喜ばしいことと思います。
2012年12月16日(日)掲載
 
五十肩の対処法
  40代、50代になると、多くの方に訪れる「肩関節周囲炎」を、別名で四十肩・五十肩と呼びます。高い所のものを取ろうとすると「ギクッ」「ズキッ」とした激しい痛みとともに、肩を動かすのが怖くなります。急性期には炎症が広がり、じっとしていても痛みが走ります。夜寝るときには特にひどくなるようです。
 これは、肩の関節をつつむ関節包とその周囲に炎症が起こることが原因のようです。痛みのひどい時は安静が一番で、無理に動かすと関節内の腱板が壊れ、痛みが長引くだけではなく痛みが減っても肩の動きが制限されることもあるようです。
 まずは消炎鎮痛剤をのんだり、湿布などを用いて関節の炎症をとるようにします。ひどい痛みの時は、関節内注射をして炎症の広がるのを防ぎます。
 寝ると肩の関節が狭くなるため、痛みが増すようです。肩から腕の後ろにタオルなどを入れて、肩を支えます。また三角巾などで肩が下がらないようにしたり、肩のサポーターなども試してみるとよいでしょう。
 予後は良好で、手術せずに痛みは治まるのが普通ですが、1年以上かかることが多いようです。長くなると肩や首などの筋肉が硬直していることが多く、これらの緊張を取ることも大切で、柔軟性回復と筋力増強をおこなう必要があります。
 そこで痛みが落ち着いてきたら、肩の運動療法を開始しますが、痛みを伴う運動は逆効果です。運動をする前に肩を温めますが、温めることで痛み無く動かせる範囲が広がり、運動療法の効果が増します。
 具体的には、お風呂などで肩を十分温めてから、腰の後ろで両手を握って持ち上げる運動、首の後で手を組んで広げる運動、指先で同側の肩を触りクロールのように回す運動などがありますが、痛みのおきない範囲内が原則です。
2012年5月20日(日)掲載
 
キズをしたらよく洗い、入浴もする
 キズができると誰もが心配することは、化膿(キズの感染)しないかということです。その結果「キズを濡らしてはいけない」と考え、入浴を禁止することが多いようですが、本当にそうでしょうか。
 キズの感染のほとんどは、外からの細菌の侵入によっておこりますが、ぜひとも避けたいものです。ところで、外からの細菌侵入とは、つまりはキズの周りの皮膚にいる細菌によることが、最近の研究で分かりました。さらに、キズの周りの皮膚をきれいにして細菌数を減らすと、キズの感染が減ることも分かりました。
 具体的には、キズおよびキズ周囲の皮膚を十分に洗浄することが大切なのです。しかも洗うお湯の量は、多ければ多いほど良いのです。外傷によるキズの場合、お湯の量をドンドン増やしていくと、入浴やシャワー浴になります。つまり究極のキズ洗浄は、入浴なのです。
 しかし「お風呂のお湯に細菌がいるではないか」とお考えでしょうが、感染は少量の細菌ではおこりません。お風呂のお湯の中には細菌がいても極めて少量であり、それがキズ感染の原因になることはまず考えられないのです。
 考えてみれば、ほとんどの温泉の効能に、キズやヤケドと書いてあります。われわれ日本人は昔からキズに温泉がよいことは分かっていたのです。いつからキズをしたら入浴してはいけなくなってしまったのでしょうか。
 「キズをしたらよく洗い、入浴もドンドンしましょう」が正解です。先人の教えの正しかったことが、最近の新しい研究で証明されたのです。
2011年12月18日(日)掲載
 
排便管理は全身管理
 便秘をしたら、すぐに下剤を飲んでよいのでしょうか。
 体の水分が不足すると便から水分を取り、便を硬くすることで脱水症状を防いでいます。この時、下剤で便に水分を与えると、脱水症状はさらに悪化します。下剤を安易に使わず、水分補給をしましょう。しかし緑茶やウーロン茶、コーヒーは利尿作用のあるカフェインを含むため、水分は体にたまらず尿として出ます。脱水予防には水や麦茶などがお勧めで、飲み方も1時間から1時間半に1回、こまめに取ります。
 次は、便の出し方です。便をしたくなった時に我慢すると、大腸が伸びて便意が無くなり、便も硬くなっていきます。後でトイレに行っても腸の動きは悪く、便は肛門へ降りてこないため、いきんで出すようになります。いきんで出す癖が付くと、すっきり感が減っていきます。さらに悪いことに、いきんで出す時に意識しないと肛門を閉じてしまうため、便は残り、痔もできやすくなります。
 上手にいきんで便を出すには、背中を丸くし、かつ前傾姿勢をとります。さらに肛門を緩めて、息を止めずに腹筋に力を入れるとスムースに便が出てきます。
 以上のことを行うには、精神的な余裕が必要です。生活を規則的にし、3食しっかり取って、おおらかに笑い、楽観的、行動的に過ごすことが大切です。
 便秘に対し下剤を単純に飲むという対応ではなく、全身、あるいは生活全体への対策が必要です。
 実は社会も同じで、家庭が変われば地域が変わり、地域が変われば日本や世界が変わります。社会全体を見ながら、自分が関われる範囲内のことを堅実に続けていくことが大切だと思います。
2011年5月15日(日)掲載
 
温水洗浄便座を正しく使おう
 ほとんどの家庭が洋式便器となり、温水洗浄便座も半数以上で使われています。温水洗浄便座の普及で、排便後トイレットペーパーで肛門をこする必要が無くなり、かなりの肛門疾患が減りました。このように素晴らしい温水洗浄便座ですが、新たな問題が発生しています。
 肛門は括約筋(肛門を閉める筋肉)によって、緩やかに閉鎖して便漏れを防いでいます。また排便時に肛門は自然にゆるんでスルリと便が出てきます。外から水などの異物が肛門に当たると、反射的に肛門は閉まり、異物の侵入を防ぎます。つまり「閉まるべき時に閉まり、開くべき時に開く」のです。
 温水洗浄便座を使い慣れた人の一部で、排便時に肛門内に水を入れ、浣腸のように使って排便している人がいます。排便後も水を入れ、粘膜まで洗っている人がいます。いずれも「外から異物が来たら肛門を閉める」に反しており、これを続けると肛門の機能は壊れ、逆の動きを始めます。具体的には、排便時に肛門が硬く閉まって便が出にくくなり、また排便後に肛門が緩んで下着が汚れやすくなります。こうなると、排便時により肛門を刺激し、排便後も肛門内洗浄をより執拗に行うという悪循環に陥ります。せっかくの温水洗浄便座ですが、このような使い方が原因で、切れ痔や慢性便秘・便失禁で受診される人が増えています。
 温水洗浄便座の水圧を弱くし、排便後は肛門周囲のみ洗浄するようにします。また、肛門括約筋のトレーニング(バイオフィードバック、骨盤底筋体操)を行って、機能不全になった肛門の働きを元に戻し、快適な排便を取り戻りましょう。
2010年12月19日(日)掲載
 
口から食べることの大切さ
 われわれは何気なく食事をし、水分も取っています。また言葉を話したり、呼吸をしたりなど、口やのどはさまざまな働きを受け持っています。これらには、実に脳の1/4〜1/3が関与しています。
 歯が悪くなり丸のみしたり、一人暮らしでしゃべらないと、口やのどの筋肉も急速に衰え、ちょっとしたことでむせやすくなります。唾液の分泌も少なくなり、口の中の雑菌数は急速に増えます。この汚い唾液を誤嚥(誤って肺に入ること)すると、肺炎になり体力が低下します。
 近年口腔ケアや飲み込み訓練の重要性が強調されるようになりました。目的は頭の働きを活発化させ、肺炎を予防し、そして食事を楽しむためです。
 口腔ケアは毎食後に口の中をきれいにすることです。入れ歯であっても毎食後ブラッシングできれいにします。夜間に入れ歯を外すと、しだいに入れ歯が合わなくなります。寝ている間もきれいにした入れ歯をつけておきましょう。
 飲み込み訓練は、まず唾液をしっかり出すことが重要です。唾液の少ない人は、食前に棒付きあめやスルメなどを1〜2分なめたりかんだりして唾液を出します。あるいは氷をなめて口の中を刺激します。ほおを膨らましたりへこましたりする運動や、舌で左右のほおを押したりする運動も有効です。
 食事は軟らかくツルリとしたものは食べやすいのですが、かめる範囲内でできるだけ硬くて大きめに調理されたものにすることで、食べる能力の低下を防ぎましょう。
 口腔ケアと飲み込み訓練を毎日行うことで老化を防ぎ、いつまでも食べる楽しさを持ち続けたいと思います。
2010年05月16日(日)掲載
 
便秘はひょっとしたらあなたの責任?
 3食とっていても1週間に1回下剤で硬い便を出している人がいます。高齢者にも多いようです。便秘は硬便がつきもので、切れ痔(じ)になることで排便恐怖症になる方もいらっしゃいます。なぜこのようになるのでしょうか。
 便は大腸で水分が取られて硬くなり、S状結腸と直腸で形が整います。直腸に便が貯まると便意が起こり、トイレへ行けばスルリと便が出ます。
 便を我慢すると便意は消え、水分が吸収されていきます。便が硬くなるには、水分摂取不足も関与します。
 人が生きるためには、1日2500ミリリットル水分が必要です。食事中には約1000ミリリットルの水分が含まれるため、1500ミリリットル程度の飲水がすすめられます。飲水が少ないと、不足分を便から取るため便は硬くなります。この時下剤を飲んでも、体はすぐ慣れて、より多くの下剤が必要になるだけです。もし下剤が勝って、脱水にもかかわらず便が軟らかくなったら、むしろ大変危険な状態です。
 では300〜500ミリリットルを一気飲みで1日に3回とったらどうでしょうか。急に大量の水分をとると、体は尿を出すホルモンを増やし、一気に尿が出て再び脱水に戻ります。水分は1時間に1回50〜100ミリリットル程度をこまめにとるのがコツです。
 水分を十分にとり、便意があったらすぐトイレへ行けば、便秘はかなり防げるはずです。逆に水分をとらず便を我慢すれば、当然便秘になります。
 ついでに言うと、便中には発がん物質が排出されます。便秘では濃縮した発がん物質が長時間腸壁に接触し、大腸がんのリスクが高くなります。こまめな水分摂取は、快便とともに大腸がん予防にもなるのです。
2009年12月20日(日)掲載
 
大腸がんを恐れない
 現在死因の一位はがんですが、中でも大腸がんの比率は高く、女性では一位となっています。大腸がん治療後の五年生存率は、早期がんの場合は100%です。リンパ節転移があると転移の広がりによって70%、60%と低下します。腹膜・肝臓・肺などに転移のある方でも四人に一人は五年以上生きられます。最近では普通の生活を送りながら、外来で抗がん剤の点滴を受ける外来化学療法が普及し、がんと共に生きる考えが広まっています。
 とはいえ、少しでも早く大腸がんを発見し、治療するに越したことはありません。
 大腸がんは国民の0.2%前後にみられますが、便潜血検査で陽性の方では3%と多くなります。便潜血検査の弱点は、早期がんの半数、進行がんで約10%が陰性になることです。
 このような問題はあっても、大規模調査では便潜血検査を受けた人は受けなかった人と比べ、大腸がんによる死亡が七割も減っていました。これは便潜血検査によって、より早期に発見し手術すると、治癒率が八〜九割と良好になるためです。年1回は便潜血検査を受けることが推奨されています。
 便潜血検査で陽性になった方は大腸内視鏡検査を受けることで、がんを早い時期に発見できるようになります。大腸内視鏡検査は痛いといわれていますが、機器の進歩と技術の平準化でかなり楽になっています。便潜血検査で陽性でなくても、大腸がんを患っている血縁者がいる方なども三〜五年に一回、大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。
2009年5月17日(日)掲載
 
かぜ予防に、うがいとマスクはやはり有効
 かぜは鼻水を介してうつることが注目されています。
 我々は知らず知らずのうちにしょっちゅう鼻を触る動物のようです。かぜをひいた人も鼻を触り、その手でいろいろなところに触れます。逆に、いろいろなところを触った手で知らずに鼻を触るので、これが原因でかぜはうつるようです。
 うがいはかぜ予防に効果があると報告されました。理由が分析され、面白い結果が出ています。つまり、うがいをする時には必ず手も洗います。この手洗いによって手に付いた菌やウイルスが除去されるからだというのです。外出から戻った時の手洗いの重要性が分かります。
 マスクも大切です。最近のマスクは細菌を通さない素材になっていますが、ウイルスに対しては特殊なマスクが必要です。でもどのようなマスクでも、着けると鼻を触らなくなります。これは大変有効だと考えられます。マスクをして外出し、マスクを外すと同時に手を洗い、うがいをする。これでかなりかぜが防げるのではないでしょうか。いま心配されている新型インフルエンザが流行しても、これは同じです。
 昔から言われている「かぜ予防にはうがいと手洗い。また外出時にはマスクをしましょう」には十分な根拠があったのです。先人は本当に偉いと思います。
2008年12月21日(日)掲載
 
骨盤底筋体操で快適な排便を
 大変痛い切れ痔(じ)は排便法で楽になることがあります。
 私たちが便意をもよおしても便はまだ肛門付近には到達していません。ここで我慢せずにトイレに入ると、便は肛門へと下がり括約(かつやく)筋は緩みます。軽くいきんでもいきまなくても、蠕動(ぜんどう)運動によって便は自然に出てきます。これが自然な排便法です。
 ところが最近は、排便に時間をかけられず、トイレで一気にいきんで出す人が少なくありません。この時、便は肛門へと勢いよく下降します。便を漏らすまいと括約筋は反射的に収縮し、固くなった肛門を便が勢いよく通るため、軟便であっても粘膜が傷つき、切れ痔が始まります。これが繰り返されると、潰瘍(かいよう)化し難治性の裂孔(切れ痔)になってしまいます。括約筋は厚く硬くなり、柔軟性も低下して一日中痛くなります。こうなると、括約筋は弛緩(しかん)すべき時に収縮し、収縮すべき時に弛緩するなど、本来と逆の動きをするようになります。切れ痔の患者に肛門括約筋の機能検査をすると、ほとんどに機能異常がありました。
 切れ痔の中には、排便法で改善する例があります。具体的には、肛門を締める運動(骨盤底筋体操)を毎日何回もすることで括約筋の機能が正常になります。そして肛門が緩む感覚が分かるようになり、肛門が開いた状態で無理なく排便できるようになります。
 ちなみにこの骨盤底筋体操は、女性の尿失禁治療に使われますが、女性はもとより男性にもさまざまなメリットがある優れた体操です。
2008年5月18日(日)掲載
 
うつ病対策は人に優しい会社作り
 今や自殺者は一日八百三十人(交通事故死の約三倍)に達し、死亡する国民のうち三十人に一人が自殺者という重大な事態になっています。しかも三十代後半から五十代がピークで、会社にとって重大な損失となります。自殺に至らなくてもうつ病を発症してしまった場合、休職期間は半年以上必要となります。かといって、仕事量を減らし、人員を増やす対策では企業活動が低下し現実的ではありません。職場におけるメンタルヘルスケアとして、予防・早期発見・治療の重要性が認識されてきました。ストレスの原因としては「心理的ノルマ」と「時間の拘束」が挙げられています。
 心理的ノルマを減らすには、上司がひたすら仕事を命令するのではなく、仕事の意義を伝え、自らの意志で仕事をし、達成感を得られるようにすることが大切です。また、上司が帰るまで部下が帰らないなどは問題外で、仕事が早く終わった者は早く帰るなど、時間的裁量権を与えることで拘束感が減るのです。
 「心理的ノルマ」を減らし「時間的裁量権」を与えることで得られるストレス減少効果は「仕事を減らす」場合の三倍もあり、効率的です。
 また決定的なうつ病となる前に身体的異常を伴わない身体症状(心気症)や胃潰瘍や喘息などの病気(心身症)が初期症状としてみられます。この段階で薬物療法と職場環境の調整などを開始することが大切です。これが最新のメンタルヘルス対策です。
 しかし、時間外労働が月百時間を越えるような過重労働では睡眠時間は一日五時間未満となり、脳溢血や心筋梗塞による死亡率が高くなることがわかりました。これらは労災死として認定されます。
 いずれにしても過重労働を避け、メンタルヘルス対策を行うことは企業にとっても家族にとっても大切な人を失わないために大変有益な対策です。
2007年12月16日(日)掲載
 
糖尿病でありがとう
 「糖尿病になると人生真っ暗。人生の楽しみ全てをあきらめ、仙人のような生活になる」と思っていませんか。糖尿病になるとしなければいけないことは、三食しっかり食べること。間食をしないこと。夜七時半以降はカロリーのある物は口にしないことです。夜遅くならなければお酒も飲めます。また毎日少しでも歩くこと。週一〜二回はしっかり運動することです。そのうえで、ある人は薬を飲み、ある人はインスリン注射をする。で、これは楽しくない人生でしょうか。
 まもしこのようなことを糖尿病でない人が守らなければどうなるでしょう。夜十時過ぎにピザやラーメンを食べ、午前様でお酒を飲む。運動は全くしないで朝食を抜く。これでは血液データが正常でも病気になる可能性があります。実は、当たり前の生活をして楽しく元気に過ごすことが糖尿病の治療なのです。
 糖尿病以外の人はこの生活を守らなくても血液データに異常が出ず、突然病気になります。糖尿病の人はこの生活を守らないと、血液データ(HbA1c)が悪化してすぐ分かります。HbA1cを6.5以下、できれば5.8以下にコントロールすれば、百歳以上まで元気に生きることが出来ます。これって実は幸せではないでしょうか。だって生活の乱れがすぐに数値で分かるのですから。数値を良い値にするかしないかは自分の責任。自分が決めることです。
 自分で人生を決めるきっかけを作ってくれて、やっぱり「糖尿病でありがとう」と言えるのではないでしょうか。ちなみに糖尿病でもコントロールができていれば、月一回くらい完全に羽目を外しても影響はありません。無礼講を楽しめるのも糖尿病だから。やっぱり「糖尿病でありがとう」ではないでしょうか。
2007年9月16日(日)掲載
 
糖尿病では膵臓を休めることが大切
 膵臓から分泌されるホルモンのインスリン量が不足し、体のバランスを維持できなくなった状態が糖尿病です。したがって全ての糖尿病の治療は、この不足するインスリンを補う方法なのです。
 理想的な糖尿病治療は、膵臓を休ませて元気にするとともに、膵臓の出すインスリンを有効に使って体のバランスを維持することです。
 まずは、夜遅く(午後8時以降)にカロリーのあるものを摂らないことが大切です。この時間帯に栄養を摂ると、夜中から翌日までずっと高血糖になるため、膵臓はインスリンを出し続け疲れ切ってしまい、昼間も血糖値を下げることができなくなってしまうのです。
 次にやることは3食しっかり食べるとともに、間食をしないことです。
 これらは消極的な膵臓の保護ですが、積極的な治療は運動です。運動をすると体の細胞はインスリンをうまく使えるようになり、少量のインスリンでも体のバランスが維持しやすくなるのです。また運動によって筋肉量が増えると、筋肉が糖を消費するため、血糖値が上がりにくくなります。
 そして重要なのは運動の時間帯です。糖尿病の合併症発症にとっては、高血糖と低血糖の繰り返しが良くないのです。どうせ運動をするのであれば、一番血糖値が上がる食後30分から1時間の間に運動することを勧めます。逆に運動時間として一番悪いのは、血糖値が一番下がっている食直前(空腹時)です。いずれも、血糖値が高い時に運動をし、血糖値が低い時には血糖値を下げる運動を控えることで、血糖値の変動を少なくすることができます。さらにもう一つ、運動は夕食後から寝る前の時間帯が最も有効です。
 ついでにもう一つ、糖尿病早期のインスリン注射は膵臓を一時的に休ませ元気にする方法の一つです。最近は膵臓に優しい内服薬もあります。食事療法・運動療法・インスリン注射のいずれもが同じ理論(膵臓をいたわる方法)の元に行われるのです。
2007年5月20日(日)掲載
 
禁煙は決意が大切
 平成18年4月よりたばこをやめられないことが病気として認められ、禁煙への支援が医療保険でできるようになりました。この機に乗じて禁煙をしようと思っている「あなた」、実は禁煙はそんなに簡単ではないのです。でも「決意したあなた」にとっては、意外と成功率は高いのです。成功の鍵は「なぜ禁煙をするのか」という自らの決意にあります。逆に医師や家族など、自分以外からの繰り返す脅迫は全く効果がありません。
 禁煙をすると二つの苦痛が襲ってきます。「身体的依存」と「精神的依存」です。ニコチンに長時間さらされたあと禁煙をすると「吐き気」「頭痛」等さまざまな肉体的苦痛が起こります。これが身体的依存ですが、現代医療は「ニコチンパッチ」という薬によって、ほぼ100%解決してくれます。問題は「精神的依存」です。これは自分で乗り越えるしかありませんが、このとき重要なのは「なぜやめるのか」という動機です。この自らの決心の源となった動機を繰り返し思い出すことができれば、精神的依存を乗り越えるのはそれほどつらいものではありません。
 ところで禁煙には隠れた敵がいます。それは食欲です。禁煙によって食べ物がおいしくてたまらなくなり肥満がやって来ます。禁煙の開始とともに、アメ玉を含めすべての間食や夜食を我慢することが必要です。精神的な依存や空腹対策としては、氷を入れた水を飲むのが有効と言われています。
 禁煙外来では二週間ごとの短期目標を繰り返しながら二ヶ月半で禁煙成功を勝ち取るプログラムが組まれています。禁煙外来を行っている病院や診療所では駐車場を含め敷地内は禁煙となっており、全職員も事実上禁煙しています。東京では病院に出入りするタクシーまでもが禁煙タクシーのみになっているようです。さあ「決意したあなた」www.e-kinen.jpに公開されている禁煙外来にさっそく行ってみましょう。
2006年12月17日(日)掲載
 
水分補給の重要性
 私たちの体は細胞の集まりでできていますが、すべての細胞の内部環境は一定になっています。これは細胞内に老廃物などができても直ちに血液など細胞外液に排出されるためですが、このとき水は重要な役割をします。細胞から血液中に捨てられた不要物は、水の移動とともに尿成分として、主に腎臓の働きで体から排出されるのです。このように、細胞集合体の生命を維持するには、尿量を一定以上に保つ必要があります。尿量は一日1,500ml以上が理想で、500mlは危険状態です。尿の他に汗(不感蒸発)として皮膚から1,000mlが出て、皮膚の乾燥予防と体温調節に使われますので、体からは総量として2,500ml程度の水が失われることになります。
 ところで、私たちは食事に含まれる水分として1,000ml以上を、飮水として1,500ml程度を摂っているので、普通に飲食していれば脱水にはなりません。しかし、風邪などの病気で食欲が低下し、飲食による総水分摂取量が1,000ml以下になると、尿量低下と発汗減少(皮膚や舌の乾燥)が起こり、意識が朦朧としてきます。
 特に高齢者では普段から飮水の少ない方が多く、容易に脱水になるため、これらの症状がみられたら直ちに静脈から点滴輸液を行う必要があります。最近、点滴液に類似した経口補水液(OS-1等)が市販されましたので、これらを飲むことで、点滴をせずに済む例もあります。
2006年5月21日(日)掲載
 
タンパク質摂取と傷治療
 私たちの体の細胞はタンパク質で作られ、新陳代謝というタンパク質合成によって絶えず新しい細胞と置きかわっています。体のタンパク質は窒素を含む関係上、糖質や脂質から作ることはできず、二十種類のアミノ酸を組み合わせて作られています。
 これらタンパク質合成の材料となるアミノ酸は、食事の中に含まれるタンパク質が小腸で分解・吸収されることで、得ることができます。傷が治るときにも、タンパク質合成で新しい組織ができ、傷んだ組織が修復されていきます。
 では、食事中のタンパク質が足りなくなるとどうなるのでしょうか。重要臓器の新陳代謝(タンパク質合成)を行うため、自らのタンパク質(主に筋肉)を分解して、アミノ酸が作り出されます。このようなとき、傷は体の重要臓器とは認識されないために、修復は行われなくなり、できたばかりの新しい組織も分解して悪化していきます。従って、大きな傷をした時だけでなく、重労働や過重な運動をした後も、タンパク質を十分に取っておく必要があるのです。
 一方、タンパク質を過剰に取った場合、余ったタンパク質は肝臓で分解されます。このとき、タンパク質に含まれる窒素からアンモニアという毒物が作られますが、ただちに毒性の低い尿素に変わります。アンモニアは肝臓に負担をかけ、尿素は腎臓に負担をかけます。
 タンパク質は不足しても、取りすぎてもいけないのです。あまり運動をしない人では、一日の摂取カロリー量は1,600kcal位で、タンパク質量は65gくらいが良いと言えるでしょう。
2005年12月18日(日)掲載
 
「おお怖! メタボリックシンドローム」
 血管の老化である動脈硬化によって心筋梗塞や脳梗塞がおきますが、危険因子として高脂血症・高血圧・糖尿病・喫煙・遺伝因子・ストレス・加齢などが指摘されています。それぞれの危険因子は軽症でも、複数あると動脈硬化は飛躍的に進行します。しかし、多数の危険因子が偶然重なるのではなく、共通の発症基盤である内臓脂肪蓄積が最も重要だと分ってきました。
 内臓脂肪蓄積はウエスト周囲径と関連があり、男性では85cm、女性では90cm以上が危険域で、これに高中性脂肪・低HDL(高比重リポタンパク)・高血圧・高血糖を加えた五項目のうち三つを満たすとメタボリックシンドロームという危険な状態です。治療薬服用中でも危険因子と考えます。日本ではこの危険な状態にある人が一千万人を超えると考えられており、十代でも増えています。
 治療には何と言ってもライフスタイルの改善が優先され、補助として薬物療法が行われます。生活改善は一人ひとりに応じたきめ細やかさが必要で、標準体重の維持を目標に、適度な運動と食事に対する知識を身に付けることが大切です。また自分の意思とは関係なくたばこの煙を吸わされる受動喫煙も含めて禁煙が大切で、ストレス対策としての休養も忘れてはなりません。
 食事療法としては、十分な食物繊維の摂取、カロリーの多い脂質や糖質の制限、夜遅くの飲食禁止等をしますが、自己流の食事制限ではなく、管理栄養士など専門家と相談しながら無理なく行うことを勧めます。体重5%程度の減量でもメタボリックシンドローム危険因子の改善が得られるそうです。
2005年6月19日(日)掲載
 
「夜食は有害?」
 いつでも十分に飲食できるようになったのは、ここ百年くらいのことでしょう。過酷な自然淘汰の名残で、私たちの体は食べられるときにはいっぱい食べ、余った栄養を脂肪として蓄えるようなつくりになっています。夜は動かないので、この脂肪への変換がより進むようになっています。これが体の日内リズムです。
 とはいえ、夜間は他の動物から襲われる可能性もあります。危険が生じ、すぐに逃げなければならないとき、すぐに使える栄養素はブドウ糖です。ですから私たちの体は夜間、血糖値が下がりにくい仕組みにもなっています。つまり、夜は血中の脂肪が上昇しやすいと同時に、血糖値は下がりにくいようになっているのです。この変化は、夜七時を境に始まると言われています。
 しかし人類の体は近年、夜遅く高栄養価の食べ物を自由に毎日摂れるようになったという革命的な事態に直面しています。
夜遅く食事をすると、肝臓では食べたものから脂肪やコレステロールがどんどん作られて身体に脂肪が蓄積し、高いコレステロール値が持続、高脂血症と肥満および脂肪肝へ一直線です。同時に夜間の血糖値は高めに維持され、朝御飯もまずくなってしまいます。まして糖尿病の人は、夜を通して高血糖が持続します。今や八人に一人が糖尿病になりうる状態であり、夜遅い食事は厳に慎むべきでしょう。受験生にも、夜遅くの高カロリーの食べ物は勧められません。
2004年12月19日(日)掲載
 
「一般家庭向けのキズパッドの功罪」
 キズが治るときは、傷の中で細胞が分裂増殖し、新しい組織が傷の中を埋め、皮膚が覆います。それには湿潤して外部から守られた環境(閉鎖湿潤環境)が必要です。この目的で開発されたドレッシング材(傷を覆う医療用具)にハイドロコロイドドレッシング材があり、1987年に医療用具として保険で使えるようになりました。
 ハイドロコロイドドレッシング材は柔軟性があり、板状で少し厚みがあります。傷の大きさより少し大きいものを貼り付けることで傷から出てくる浸出液をため込み、人工的な水疱(すいほう)を作ります。この人工的な水疱には細菌の増殖を抑え、傷を治す増殖因子を保持し、細胞分裂を促進する効果が証明されています。その結果、傷の痛みはほとんど無くなり、傷が早くきれいに治る画期的なものです。
 今までハイドロコロイドドレッシング材は医師しか使うことができませんでしたが、最近、一般家庭向けにドラッグストアでも買えるキズパッドとして発売されました。今後、すり傷や浅い切りキズ、浅いやけどなどで便利さを実感する人もいると思います。
 しかし、このような画期的な製品を使うには傷処置の基本を守る必要があります。傷処置の基本は(1)傷の中の汚れを水道水でしっかり洗い流すこと(2)キズパッドで密閉するときは消毒はせず、軟膏も併用しないこと(3)液が漏れたり密閉が無くなったら交換することなどです。また、かさぶたがあったり、筋肉や骨に至るような深い傷での使用は危険なのでやめておきましょう。
2004年05月16日(日)掲載
 
RICE(ライス)って何?
 RICE(ライス)は、ねんざや打ち身、肉離れ、骨折などの外傷(けが)をしたときに行う救急処置の頭文字で、Rest(安静)、Icing(氷冷)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)を意味します。
 外傷時の内出血は傷が治るための大切な過程です。しかし過剰な内出血は、血の流れを悪くし回復を遅らせます。そこで、けがの部分を軽く圧迫し、心臓より高く上げて安静にすることで、血流を保つことが大切になります。中でもIcingは重要です。氷水を入れたビニール袋を二十〜三十分間患部に当てた後、三十〜四十分間休むというのを繰り返すことで内出血部の血管が収縮して止血し、腫れがひきます。Icingは傷を負った後二十分以内に開始しましょう。
 最近、けがをした人が湿布剤を貼って来ることが多くなりました。湿布剤には消炎剤が入っており、炎症を抑えたり痛みを軽くする効果があります。しかし独特のスーッとした冷たい感覚は、湿布剤の水分の蒸発やハッカ刺激によるものであり、患部の温度はさほど下がっていないのです。湿布ではなく、Icingをしましょう。ちなみに温湿布には唐辛子が含まれており、その刺激で局所の血流が上昇し、多少温度が上がるため、傷を負った直後はもとより炎症の強い急性期には使わない方がよいでしょう。
 けがをした時のRICEは二十四時間以内が目安です。受診するのであれば、その間に行くことを勧めます。
2003年12月21日(日)掲載
 
「やけどの痛み」
 火を使うことを覚えた人間は、その火を使うがゆえに「やけど」で痛い目に遭うことがあります。
 痛みは真皮までの浅い傷でより強く感じ、皮下に及ぶ深い傷ではむしろ痛みを感じないという特徴があります。やけどは浅い傷と深い傷が混在しており、この浅い部分が痛むのです。
 傷はこすったり、乾燥させたり、消毒したりすると痛みますが、このように痛む時は傷の治りが悪くなります。痛みを早く取るには、傷の表面を密閉して空気に触れさせないことと、傷を湿った状態にすることが大切です。
 例えば、傷を乾燥から防いでくれる油性の軟こうを厚く塗ると痛みが軽くなります。しかし、軟こうがガーゼに吸収されるとまた痛みが出てきます。このような時、ハイドロコロイドドレッシング材という特殊な粘着剤の付いた板状のドレッシング材(傷を覆うもの)を使うと傷が密閉され、次の交換時まで痛みがコントロールされます。
 厚生労働省は二〇〇一年二月からハイドロコロイドドレッシング材を、熱傷(やけど)だけには使えないような表現をし、県では〇二年から熱傷に使えなくなりました。ただ、熱傷潰瘍(かいよう)には使えるという解釈もあり、現場は困惑しています。どのような傷でも治る仕組みは同じなのですが、やけどの治療に有用な一つの方法が危機に面しています。
2003年05月18日(日)掲載
 
「かさぶたの功罪」
 傷ができてそのままにしておくと、かさぶたができ痒(かゆ)くなります。浅い傷の場合は、かさぶたを取ってもまたすぐにかさぶたができて、二、三回繰り返すと皮膚ができて治ります。
 しかし、傷が深いと、かさぶたを取ろうにもなかなか取れず、やがて細菌に感染して痛くなってきます。この段階で医師にかかる人が多いと思いますが、やや遅すぎます。
 かさぶたは、傷の表面が乾くことで傷の表面の細胞が死んでできるものです。かさぶたの下にはゼリー状の液がたまり、この液の中で細胞の分裂が盛んになって傷は治っていきます。しかし、かさぶたは細菌を通してしまうことが欠点で、傷が深いと治るまでに時間がかかり、そのうちかさぶたの下で細菌が増殖して感染してしまうのです。
 深い傷を負った場合は、感染させないために、かさぶたを作らないよう傷を乾燥させないで治療する方法を勧めます。医師はこの治療に、油性軟膏(なんこう)や皮膚を密閉する板状の製品(創傷被覆材)を使います。傷が皮膚の下まで及ぶような場合は、医師にかかり、かさぶたを作らないように処置を受けることが大切です。
 これまでは長年、傷は消毒して早く乾燥させ、かさぶたをつくって治すことがよいと考えられてきましたが、皮膚のメカニズムが徐々に解明され、傷を乾燥させるより、ぴったりと覆ったほうが早く治るということがわかり、ケアの方向性が大きく変わりました。
2002年12月15日(日)掲載
 
「キズのあるときの入浴」
 昔から「体にキズのあるときは入浴してはいけない」というのが常識でしたが、実は間違っている場合が多いようです。
 キズの感染は、既にキズの中にいる細菌が増殖する場合と、外から細菌が侵入して増殖する場合とがあります。
 既にキズが感染しているケースでは、キズを覆うカサブタ(痂皮)などを切除してキズを開いた状態にします。その後は、できるだけキズの中をきれいに洗い流すことが大切です。この時に入浴やシャワーを行うと、キズの中がより速くきれいになることは一般的に知られています。
 では、キズが感染していない状態での入浴はどうでしょうか。キズの周囲皮膚には細菌がいますが、ガーゼ固定用に使ったテープの粘着剤や垢(あか)などの異物を栄養源として増殖し、キズに侵入します。この予防にはキズの周囲皮膚を清潔に保つことが大切で、入浴やシャワーが効果的です。
 さらに、キズは温めると血流が増えることから、入浴によって皮膚の中の免疫細胞も元気になり、感染予防効果のあることも証明されています。
 このようにほとんどの場合キズがあっても入浴は可能で、むしろ良い効果をもたらします。どうしても怖いときは、キズの部分に特殊なフイルム材を張って密閉し、入浴する方法もあります。
2002年07月21日(日)掲載
 
「なぜ傷治療は痛いのか」
 切り傷、すり傷、やけどなど、傷に痛みは付き物ですが、痛みには何か意味があるのでしょうか。それは何億年もの進化の過程で、痛みを避けるように行動してきた動物が、今生き残っているからだと思います。つまり痛みを避けることは傷にとって有利であり、生存率を高めて子孫を増やすことができたのでしょう。
 傷にとって痛い行為とは、傷ついたところをこする、たたく、引っ張ることなでです。確かに傷にとって不利になっていることが分かります。
 さて、傷を処置するときにも痛い行為があります。傷を消毒したり乾燥させること、傷に張り付き食い込んだガーゼを引っ張ることなどです。実は、これらはすべて、傷の治癒にとって有害なのです。
 消毒薬は傷の表面の免疫細胞も障害するため、かえって治癒が遅れてしまうのではと、以前から懸念されていました。一九八二年の実験で、傷を消毒すると逆に細菌の感染率が高くなることが分かりました。また、傷を乾燥させるとかさぶたができますが、このとき傷は〇・五ミリ深くなって悪化します。
 最近では、処置の際に使うガーゼも、傷に食い込まず固着しない製品が多数出てきました。このように、現在では傷を痛くさせずないように治療するようになってきています。
2001年12月16日(日)掲載
 
「やけどの治療に変化の兆し」
 暑い日が続きますが、この暑い季節でも「やけど」の患者さんは数多く来院します。やけどは熱による皮膚の組織障害ですが、その発症および治療には、これまで分らないことが多くありました。
 高熱で損傷した皮膚は、熱が去った後も持続的に活性酸素を発生させます。この活性酸素は細菌を殺すと同時に、やけど周囲の健康な組織をも破壊する力があります。受傷後三十分は冷水などで温度を下げ、活性酸素の発生を抑えます。
 こうしてやけどの進行を止め、処置に移ります。やけどの傷を乾燥させ表面にかさぶたを作ると、傷は約〇・五ミリ深くなることが最近分かりました。そこで、やけどの傷を乾燥から防ぐ新しい方法「閉鎖性ドレッシング法」を選択します。このとき用いるのが、ハイドロコロイドドレッシング材という板状のドレッシング材(傷を覆うもの)です。
 これを用いると、やけどはかさぶたを作らずに治り、不思議なことにやけどの痛みもなくなります。実はやけどになると皮膚の防御機能が壊れ、乾燥のような軽い刺激でも痛く感じるのです。ドレッシング材でやけどの部位を密閉し、乾燥などの外部刺激を避けることで痛みがなくなると考えられています。
 日本は世界でもいち早く、二十年前からこのドレッシング材が医療保険で使えます。痛みがなく早くきれいに治すこのドレッシング材は、今後急速に普及するでしょう。
2001年08月26日(日)掲載
 
「床ずれ予防はずれ予防」
 褥創(じょくそう=床ずれ)は、栄養状態の悪い寝たきりの人にできやすいものですが、その名の通り“ずれ”も大きく関係しています。ズレとは何でしょうか。
 ベッド上に身体を起こし食事をしているとき、力の弱いお年寄りなどは姿勢を保てず、身体が次第に下がってきます。このとき、下がろうとする身体と、寝具や下着などに接触して残ろうとする体表との間に「引っ張り力」が働きます。この引っ張られる力のことをズレと呼びます。皮下の組織にズレが働くと、血液の流れが悪くなります。
 ズレが起こるところは、仰向けに寝たときに圧迫される場所とほぼ一致します。したがって、寝ているときは圧迫によって、起きていてもズレによって血流の悪い状態が続きます。持続的な血流障害の結果、皮下の組織は壊死(えし)し、褥創が発生するのです。
 さらに悪いことに、ズレの際は皮膚表面が摩擦のために傷つき、はがれやすくなります。表皮剥離(はくり)が起こると、褥創は一気に悪くなります。ズレは車いすに乗ったとき、体位交換で横向きにしたとき、移動しようとして身体を引きずったときなど、さまざまな状況で発生しますが、いずれも褥創の治療を長引かせる原因になります。
 ズレ予防は「ベッドで身体を起こすときの角度は三〇度までで、ひざの下にモノを入れる」「車いすでは腰とひざの曲がる角度を九〇度にする」「体位交換は二人でする」などを心掛けてください。
 床ずれ予防はズレ予防、床ずれ治療にもズレ予防が大切です。
2001年04月15日(日)掲載
 
「床ずれが一気に進むわけ」
 褥創(じょくそう=床ずれ)はお尻の仙骨部のように、骨が飛び出したところによくできます。寝た姿勢では、この部分が体重によって圧迫され続けるからです。骨と体表の間に挟まれた皮膚や皮下組織、筋肉などが長時間圧迫を受けると、血行障害から組織が死んで褥創ができるのです。
 体の表面から順に、皮膚、皮下組織、筋肉と続きますが、圧迫の影響を一番受けるのはどこでしょうか。皮膚が接するベッドや布団の表面は平らですが、骨は出っ張っているので、影響が一番大きいのは骨に近い筋肉や皮下組織です。さらに体のすべての組織の中で一番血行障害に強いのは皮膚で、逆に皮下組織や筋肉は血行障害があるとすぐに壊死(えし)してしまいます。
 というわけで、目で見ることができる皮膚にほとんど変化がなくても、褥創は皮下組織や筋肉ではすでに始まっているのです。だから、血行障害が皮膚に及んで黒くなったときには、すでに筋肉に至るまでのすべての組織が壊死しているわけです。それで、黒くなった皮膚をはがすと一気に骨に至る深い褥創になったように感じるのです。
 皮膚が壊死する前、つまり皮膚が赤くなったり皮下出血が見える程度のときに、除圧マットレスなどで圧迫を除去し栄養を調えると、皮下組織や筋肉を再生させることができます。
 褥創を抑えるには、骨の飛び出したところをよく観察し、皮膚障害の軽い時期に発見して早期に対処することが大切です。
2000年12月17日(日)掲載
 
「栄養療法で床ずれ予防」
 寝たきりの人の床ずれ予防には、お尻の骨の飛び出したところ(仙骨部)などを圧迫しないようにすることが大切ですが、栄養面での注意も欠かせません。しっかり食事を摂っていれば寝たきりでも床ずれになりませんが、肺炎などで食欲が低下すると、二、三日で仙骨部が赤く、さらに黒くなって床ずれになります。
 私たちの体は心臓や肝臓、胃腸など、多くの器官が組み合わさってできています。各器官は無数の細胞で作られ、その活動にはエネルギーが必要です。また新陳代謝といって、すべての細胞は一定の割合で新しく置き換わります。新陳代謝にはエネルギーのほか、タンパク質が必要です。
 食事をしない状態が続いても、細胞は体に蓄えた栄養を消費して生きています。しかしエネルギーとして蓄えられた糖質は一日ももたないので、次に脂肪が利用されます。新陳代謝用のタンパク質は筋肉を壊して利用します。このような仕組みで、人は水分さえあれば一ヶ月近く生き延びることができるのです。
 しかし、栄養不足の状態では治ったばかりの傷や傷んだ組織などのタンパク質も壊れます。寝たきりの人はもともと筋肉量が少ない上、仙骨部などの皮膚や皮下組織は圧迫が加わって傷んでいるため、一気に壊れて床ずれが完成してしまうのです。
 食事量減少が二、三日続くようであれば、栄養士や医師に相談して栄養療法を始めてください。もちろん床ずれ治療でも栄養改善が基本になります。
2000年06月18日(日)掲載
 
「床ずれの予防と治療」
 寝たきりの状態が長くなるとできる厄介なものに床ずれがあります。お尻の骨が飛び出したところ(仙骨部)にできることが多く、便や尿で汚れやすく、すぐに悪化して治りにくい状態になります。以前は「床ずれは治らない」と考えられていましたが、今では手間は掛かるものの治ることが分かってきました。治療にはまず、床ずれの原因を知ることが必要です。
 床ずれとは、体を動かせない状態で横になっていると、仙骨部など骨の飛び出したところの筋肉や皮膚などが圧迫のため血が通わなくなって腐り、潰瘍(かいよう)になった状態をいいます。従って予防や治療には、なんといっても骨の飛び出した部分に圧迫が加わらないようにすること(除圧)が大切です。これまでドーナツ状の枕(円座)を用いて床ずれのところを浮かすと良いとされてきましたが、これでは周囲に強い圧が加わることから、かえって床ずれが広がると分かり、今では使われなくなりました。
 正しい除圧の基本は、頻繁に体を動かすこと(体位変換)と、圧迫除去マットレス(エアーマットレス)を使うことです。エアーマットレスはある程度の厚みのあるものが必要です。自治体によっては高齢者に貸し出す制度もあるので、市町村役場に相談してみるとよいでしょう。個人的に購入する場合は、七〜十万円くらいが目安になります。床ずれの予防と治療において、原因療法となるエアーマットレスは必須の用具だと知っておいてください。
2000年03月19日(日)掲載
 
「ストーマって何?」
 ストーマとは癌(がん)や炎症・外傷などのため、おなかに作られた便や尿の出口のことです。俗に「人工肛門」とも呼びます。日本でストーマを作る手術は年間一万四千件くらいあり、ストーマを持つ人は九万人以上いると考えられています。ストーマを持つことで便や尿をスムーズに出せ、日常生活も普通に送れるようになります。
 ストーマから出る便や尿は、一般的に、おなかに付けた袋にためます。袋をおなかにつける技術は近年大変進歩し、入浴や激しい運動も可能になりました。ストーマ装具の使い方を指導する専門看護師も養成されています。
 しかし、ストーマ装具も万能ではなく、使いやすいストーマを作ることが大変重要です。なぜならストーマの位置や形が悪いと、便や尿漏れが起こりやすくなるからです。そのため、手術前にストーマの位置決めを行い、形も平坦ではなく突出したものを作ります。このように使いやすいストーマを作る努力は手術前から始まるのです。
 それでもいろいろな事情で、便や尿の漏れやすいストーマになってしまう場合があります。このようなとき専門看護師がいろいろと工夫して、何とか普通の社会生活ができるように指導します。
 手術で便や尿の排泄法が変わることは大変ショックなことですが、手術前から医師とよく話し合い、またストーマを持った後も専門の看護師のアドバイスを受けることが大切です。
1999年11月  (日)掲載
 
「キズは自然に治る」
 すり傷や切り傷は消毒して薬をつけますが、実はそんなことをしなくてもほとんどは治ります。私たちの体に自然治癒力が備わっているからです。
 この自然治癒力を活かすため、手当てをする上で大事なことがあります。(1)傷を洗ってきれいにする(2)正しく止血をする(3)傷の消毒をしない−ことです。犬や猫は傷をペロペロなめますが、これは傷の中の異物を除去しているのです。しかし、私たちの口の中はあまりきれいとはいえないので薦められません。家庭でまずやってほしいのは、流水で傷に付いたゴミをきれいに洗い流すことです。
 傷を洗った後はきれいなガーゼやタオルで静かに圧迫します。五分ぐらいで止血するはずです。出血部の血管は自然に収縮して血流が落ち、血小板などの働きで血は自然に止まります。
 最後に傷の消毒ですが、化膿した傷などひどいもの以外は消毒剤を使うとかえって感染が起きやすくなります。というのは、体には白血球が傷に集まり、ばい菌を殺す防御機構がありますが、消毒剤はこの作用を障害し、かえってばい菌が増えてしまうからです。
 中には自然治癒に反する薬剤もあるので注意が必要です。例えば、傷にパウダー状の異物を付着させる薬剤は、汚い血液をキズの中に閉じ込める上、かつ消毒剤を含むため、感染を引き起こします。国民生活センターからも警告が出ています。傷に対する正しい知識を持ち、私たちの自然治癒力をもっと信じたいものです。
1999年04月18日(日)掲載