第54回 「褥創在宅連携のコツ」

2011年5月19日

症例検討会

在宅より持込みの褥創 -ショートステイ,デイケア,デイサービスとの連携不足により早期治癒が図れなかった事例-

<症例提示>

症例は90歳代男性で、BMI18.8, Hb13.3、 Alb3.8で要介護5の方でした。
60歳代の時、脳梗塞で左半身不全麻痺があり、高血圧、前立腺肥大症、認知症が見られます。
デイサービス、デイケア、ショートステイを利用され、週2回は自宅で過ごされています。主介護者は息子さんです。
まず、ショートステイで仙骨部に2cmの発赤を認め、デュオアクティブETを貼附されました。2日後に介助者に褥創の様子を伝え、受診などを勧めたようです。しかし、1週間後のショートステイ利用時には、前のドレッシング材がそのままとなっており、仙骨部を痛がりました。創部も3×4cmと拡大し中央が黒色になっていました。デュオアクティブCGFの貼付とし、エアーマットレスの導入、車イス背面へのビーズクッションの使用、体位変換の実施、プッシュアップ指導、ブイクレスやプロテインゼリーの摂取などが行われました。ショートステイ退所時には、ケアマネジャーに褥創を確認してもらったそうです。
介助者には、受診をしてもらうこと、車イスクッションがへたっているので交換の依頼、体圧分散マットレスのレンタル、車イス背もたれの使用などを提案されましたが、賛同は得られなかったとのことです。 デイサービスに対し、入浴時に褥創をみることを頼み、ケアマネ、相談員、看護師、栄養士にも知らせたようです。家族はキズパッドを貼るのみで受診はしませんでした。
次のショートステイでは、デュオアクティブETを貼るのみで様子をみることとなりました。ETで少し改善がみられ、キズパッドで保護されました。結局キズパッドとワセリンの使用にて5週間くらいで発赤はあるものの治癒に至ったようです。
この例では、立位での確認では発見困難な場所であり、入浴時のみに確認できたとのことです。ショートステイ時のみに確認ができ、連携不足でデイサービス等への連携が不足だったとの反省がありました。また家族の協力が得られず、受診ができなかったため、ドレッシング材などの全てが持ち出しになったようです。

<騒ぐことの大切さ>

このような報告に対し、結構早く治っているが、連携がうまくいっていないというのはどうしてそう思うのかとの質問がありました。
それに対し、最初デュオアクティブETを貼った時、そのまま剥がされず1週間後にはステージ3度に悪化していた。他の事業所で剥がしてみず、そのままになった。1週間後に大変と騒いだことで、他の事業所や他職種も関わった。
実はこの例は以前からずっと発赤があり、連絡していたがなかなか対応してもらえず、今回騒いだことで他施設などもやっと巻き込むことができた。以前からの長い経過中、ずっと連携ができていなかったことを含め、連携不足であり、ついにステージ3度になってしまったことで、連携不足が問題だったとのことでした。

他に連携不足を感じた経験がないかと質問したところ、会場から、自分のところではショートステイ、デイサービス、診療所などそろっているので、同じ組織であり、話し合いができて連携が取れうれしく思っている。問題は主治医が他の施設の場合、軟膏など持込がなく、使うものが限られ手しまうことが困るという意見が出ました。糖尿病で黒色壊死があり、基幹病院でデブリードメントしてもらい、その後の処置を月1回ショートステイの時にしている例があるとのことでした。この例では、黒色壊死がありデブリードメントのため受診することを家族に依頼してから、デブリするまで1ヶ月以上かかった。ケアマネを通じて家族に話してもらい、院長からも家族に勧めてもらった。病院からは訪問看護も入っていたが、ダメだった。結局偶然骨折で病院の整形外科を受診した際、ついでに褥創も受診となりデブリードメントが実現したとのことでした。
外部の主治医の場合、あまり口が出せず、かつほとんどが内科的なことで主治医となっており、褥創は専門外でありさらに話しにくいとのことでした。

外部との連携の難しさに対し、何か良いアイデアがないか質問した所、「騒ぐ」のが効果的とのことでした。「褥創ができた。大変」と騒ぎ、対策について皆で話し合うことで看護も看護師も家族も意識してくれる。発赤があったら原因を徹底的にアセスメントし、対策をたて実行するが、その時皆を巻き込み、目を向かせて、皆で考えることが大切とのことでした。その結果褥創が良くなってきたら、家族も協力的になるとのことでした。何しろ「騒ぐ」事が効果的とのことでした。
他に、「医師の関与は難しい。家族は医師に診せたがらない」との意見が出ました。家族は生活や仕事に忙しく、そのためにデイやショートを利用している。受診となると1日仕事を休み医療機関へ行き、かつ1回ですまず、最低でも週1回程度の受診が必要になる。それを考えると受診せず、何とかデイやショートで対応してもらいたいと考えるようだ。
少なくとも、往診での対応、できれば訪問看護師の介入のみでの対応が必要だと感じました。ただ現状においては、訪問看護師が介入するためには医師への受診と訪問看護指示書が必要です。

<キーパーソンはケアマネ>

ショートステイでの処置について、勝手に何でも塗れず、皮膚科受診してもらうことが前提になる。その処置の指示通りにするが、悪くなる場合もある。エアーマットレス、カロリー付加などを提案しても、あまり積極的になってくれない。ケアマネから提案してもらうと家族がよく聞いてくれることが多いとのことでした。いずれにしても連携のキーワードは家族の協力のようです。それにはケアマネが力を発揮するのでしょう。

現実的な対応として、ショートステイなどではまず持ち出しでハイドロコロイドドレッシング材などを使い、ケアマネジャーに状況を説明し、デイサービスにケアマネから情報を共有してもらうようにする。また外来通院は家族が連れて行かなければならないが、内科主治医は対応できない。内科には短くて2週間毎の受診だが、これでは褥創処置としてはタイムリーではない。訪問診療が必要で、訪問診療している医療機関でないとタイムリーではない。外来通院などはケアマネから家族に受診を促すことが重要。その際、「褥創処置があるとショートステイの利用ができなくなる(本当のこと)」等と脅して説得することも必要との意見が出ました。
また、「創傷被覆材は、デイサービスでは無理で剥がせないと思う」とのことでした。ショートステイで剥がしても貼る物がないとのことでした。何しろ、ケアマネに情報を伝え、ケアマネがしっかりと積極的に家族へ、医師への受診を促すことだとの意見でした。

在宅のキーパーソンはケアマネであり、クリニックでも褥創患者はほとんどの場合、ケアマネの紹介受診しているとのことでした。
また連携で大切なこととして、在宅ではいろいろな施設がかかわり、ケアの統一が難しいとのことでした。指示を出す医師を決めて処置法を統一し、それをケアマネが全施設へ伝えることが重要とのことでした。
医師の関与は必須で、医師が関与しなければ全ての処置用具は持ち出しとなり、統一も難しくなるとのことでした。連携には施設とケアマネが仲良くなり、話が楽にできる関係を作ることが前提で、ケースケースで違ってくるとのことでした。ここでも最近重要視されているコミュニケーション能力が求められています。

<高岡市の介護連絡帳>

癌ターミナルにおいては、「痛み日記」というものがあり有用だとのことでした。さらに、医療情報の共有のため、「褥創ノート」のようなものを作り、それを持ち回してはとの意見が出ました。「時々主治医」「ずっと主治医」など、その間だけ各科の訪問診療をしてはどうかとの考えが出ました。つまり、褥創に特化した一定期間だけの訪問診療をしてもらってはどうかとのことでした。
いずれにしても現在の診療報酬体型では、主治医は一人だけであり、いろいろな加算は主治医のみにしかないものが多く、診療所同士の連携はしにくい現状があることを指摘されました。
高岡市では、在宅の「介護連絡帳」があり、全員に1冊ずつ支給されることが示されました。これは高岡市の人には常識であり、高岡市以外の人は全く知らない制度です。この連絡帳はデイにもショートにも持っていき、同じ情報を全員が共有しています。褥創の状態や処置法もこれに書かれ、情報共有がされています。
実はこれは大変なことのようで、これを話すと全国どこでもびっくりされていました。先日高知の方にお話しした所、このようなものを作ろうと考えていた所で、是非これをまねてやってみたいとのことでした。
またこの会でももう少し掘り下げて紹介してみたいと思います。

<事前の情報提供と家族の意向を聞くこと>

ショートステイで預かった時に褥創が分かった場合、家族の協力が得られないとのことでした。であれば家族の協力を得られるようにしていくことが大切だとの意見が出ました。
医師へつなげていくのであれば、ケアマネを動かす前に家族を動かすことをもっと考えるようにしてはとのことでした。つまり家族と話して、何が問題で受診できないのかを聞く。
さらに言えば、事前に「発赤ができたら知らせてくれ」などの情報提供をして褥創について情報提供しておくことが重要。「皆でみている」ということを話して認識してもらう。
その上で発赤があったら「赤みがある」と話し、受診してもらうよううながしていく。できてからいろいろ話してもダメだろうなどの意見でした。
いずれにしても家族の気持ちを聞くことが大切で、その上で「自分たちはこのような処置をしたい」と伝えてこそコミュニケーションであろうとのことでした。

しかし、家族に情報を伝えることは難しい面も指摘されました。病院では家族に情報を伝えることは容易です。しかし在宅では難しく、ショートステイやデイでは、一般的に内部のスタッフと、送迎する人は異なります。家族に会うのは送迎スタッフであり、送迎スタッフでは褥創について熱心に話すことは無理でしょう。さらに送迎の時に家族に会えるとも限りません。
そこで、送迎の時に介護員が付いていって伝えるようにしている施設もありました。また相談員が電話する。ケアマネを通して伝える。などの方法も現実的にはとっていくことになるでしょうとのことでした。

<明日に向けて>

確かに、家族に褥創発症を伝え、医療機関を受診することの必要性を伝えることは難しいと分かりました。普段から褥創についての必要最低限の知識をお伝えし、褥創が発症した時にはどのように家族に伝えるのか、それぞれの家族毎にシミュレーションしておいて初めて、すみやかな受診に結びつきそうです。
少し対策が見えてきました。

この症例提示者は、1年以上前から発赤を繰り返し、危機感を持っていたが、今回一気にひどくなったために問題視し、それが対策に結びついたとのことでした。車イス用クッションの導入も大変であり、ようやく入れてもらったのだが、それがへたってしまっているとのことでした。
さらに今回の褥創悪化で、ようやくデイケアにも通っていることを知ったとのことでした。この一件によって、他の施設と情報を共有することやケアマネに知らせることの必要性が分かったとのことでした。
この点に関しては、高岡市のように「介護連絡帳」があれば、問題なく情報共有できたもとも考えられました。

病院でも医師に褥創を伝える時に、口頭よりも写真の方が分かりやすい。ケアマネや看護師でも、状態にあったケアをしてもらうために、連絡ノートを作り写真も添えることが勧められると意見が出されました。

相談タイム

相談

女性で、リウマチによって肩の痛みが強いため側臥位ができず、ベッド上では40度の頭側挙上で休んでいる。円背もあるとのことでした。脊柱わきに浅い褥創を発症し、デュオアクティブCGFを貼附するもずれている。どうすればよいかとの質問でした。
ベッドを40度にしないと休めず、枕はタオルにしている。エアーマットレスはプライムレボを使用中とのことでした。

これに対し、ズレを解除しないと治らない。頭側挙上をしたあとずれている。背抜きをしたり、足側の挙上も行っているかとの質問に、やっているとのことでした。
頭部や肩甲骨の下にも枕を入れないと不快になるとの指摘に、入れると痛がり拒否されるとのことでした。
しかし、安楽になるように枕を入れていくことの必要性が話され、たぶんブーメラン型の軟らかいものがよいのではとの意見が出されました。

ズレに強いドレッシングとして、本日の講演で話された、エスアイエイドやハイドロサイト薄型,メピレックスボーダーなども試すことが勧められました。

また、筋肉が減っており骨が突出しているようなので、筋肉の代わりにクッションを両側において圧を分散させてはとの意見が出ました。臀部でも、減った殿筋の替わりにクッションを両側に入れると痛みが楽になることも示されました。

また、エアマットレスの下に枕などを入れることで、ほんの10度ほど傾ける方法も示されました。側臥位にする時も、持ち上げる側にクッションを入れるけれども、反対側にも傾いた足などを支えるためにクッションを入れる必要が話されました。これを忘れると苦痛を感じることも指摘されました。

さいごに

今回は在宅での連携がテーマでしたが、家族への情報提供をいかにするかが重要と分かりました。連携は多職種間での情報共有についてはいろいろ話され,また問題にしてきましたが、実は家族が主体であり、アクションは家族が行うことについてはあまり意識されていませんでした。
褥創については、かねがね家族への教育がテーマとしてあげられてはいましたが、実際はほとんどされていませんでした。これからは在宅療養を始める際、褥創についても基本的知識の説明をしっかり行っていく事が求められます。