第103回 「スキンテア症例・尾骨部褥瘡・入浴の順番」

2019年7月18日

症例検討会

予防しようスキンテア

スキンテアとは

スキンテアとは摩擦・ずれによって、皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷です。
発症原因は、テープの剥離時、転倒、ベッド柵にぶつける等で、いずれも皮膚に摩擦とずれや圧迫が起こると発生します。好発部位は上肢と下肢で、四肢に集中しています。
日常生活自立度がC1およびC2で6割を占め、栄養状態が不十分な人に多く、また麻痺や拘縮のない方でより多く発生しています。病院と施設で8割、在宅で1割です。
2018年より、入院時に行う褥瘡に関する危険因子の評価にスキンテアが加わりました。

当院の経験

当院でのスキンテアの原因は、転倒や作業中にぶつけたなどが多かったが、こちらで指摘するまで気がついていない例もありました。皮膚の状態は乾燥している例が多かった。
来院されたときの処置の状況は、フィルムを貼付、ステリストリップで固定等でした。来院前の処置としては、高齢者の皮膚は脆弱なので、絆創膏を貼ったりフィルムを貼るなどは勧められません。
当院では、高齢者の脆弱な皮膚に対しては、シリコン製のテープやフィルム材を使い、貼るときおよび剥がすときはやさしく行っています。
当院でおこなっている処置は、皮膚が汚れていれば、流水で石鹸を使って創周囲皮膚を洗浄します。次に生理的食塩水を使い縮んだ皮膚を伸ばして、元に戻します。細く切ったステリストリップで固定します。さらにその上から、シリコン製のドレッシング材、例えばハイドロサイトジェントル銀でカバーするか、シリコン製のフィルム材(ジェントルロール)で被います。その上から、通常の伸縮包帯で軽く圧迫します。

予防的ケア

高齢者の乾燥肌には、保湿剤を使うようにします。低刺激性のローションタイプを用います。また肌を露出しないよう、長袖、長ズボンを着用してもらいます。アームカバーも勧めています。
車いすなどでは、フットレストのパイプ部分にカバーを付けることも必要に応じてしています。
ポジショニング時には、スライディングシートやスライディンググローブを使い、愛護的なケアを指導しています。
スキンテアは身近な病気ですが、防ぐことができます。

ディスカッション

ドライスキンの高齢者に、軟膏、ローション、クリームなどどのように使い分けているのかとの質問がありました。
会場からは、軟膏はべとつくのでつい強くこすりつけてむしろスキンテアの原因になる。多くの人が担当する介護施設などでは、軟膏ではなくローションが良い。
その場合も、ケチって薄く塗り込むのではなく、多めにつけてあまり何度も擦らないことが大事とのことでした。
ただローションはあまり長持ちしない印象なので、1日3回くらい塗った方がよい。長持ちを考えるのなら、軟膏が勧められる。軟膏もワセリン単独だとべたつくし、つい塗り伸ばしたくなるので、ウレパールとレスタミン軟膏をワセリンと混ぜて使うと使いやすくなる。例えば、高齢者では皮脂腺を塞がないように、ワセリンを30%ぐらいにし、ウレパールやレスタミン軟膏の量を多くすると良いとのことでした。
ベーテルやセキューラMLなどのローションタイプは、高齢者皮膚用になっているので勧められる。しかしヒルドイドなどは、保湿剤の持ちとしてはあまり長く持たない印象とのことでした。
ここで、よく褥瘡ケアや便失禁のかぶれに使われるセキューラPOは油性であり、保湿剤としては使わないことが強調されました。紛らわしいので注意しましょう。

ステリストリップについて質問があり、ステリストリップを使うと血液を吸って汚れるので、1日、長くても2日くらいで剥がしているとの質問がありました。
これに対し、会場からはステリストリップは細い製品をさらに半分に細く切って、2~3mm幅にし、長さも短くして用いている。間隔は1cmくらいにしているとのことでした。またずっと剥がさず、自然に剥がれるまで、だいたい1~2週間以上貼付しているとのことでした。
日本創傷・オストミー・失禁管理学会が出しているベストプラクティスでも、ステリストリップの使用は推奨していないが、恐らく太いステリストリップを貼り、隣との間が狭く使用していることから、滲出液や血液がテープの下に溜まり、剥離や感染の原因になるためだろう。細く短く切ったものを使えば、そのような心配はないとのことでした。
大切なのは、皮膚を戻したあとは、伸縮包帯で軽く圧迫することだとのことでした。

皮膚の戻し方に関して質問があり、前に指導されたようにキシロカインゼリーをつけて戻すと、皮膚が簡単に戻るのでやりやすいとの発言がありました。
これに対し、キシロカインゼリーは皮膚を戻すときの痛み軽減目的であり、軽く表面麻酔がかかったら、生理的食塩水を使って皮膚の乾燥を改善し、手袋の指や無鉤ピンセットなどを使って皮膚を伸ばしていき、皮膚欠損が無いように皮膚を戻していくとのことでした。この時皮膚が多少くっついていても全て剥がし、皮膚の下を生食でよく洗浄して血餅や汚れなど異物をしっかりと洗い流すとのことでした。
2日くらい経って、傷の端に乾燥した皮膚がまとまっているような例でも、細胞間液と同じ組成の生理的食塩水をたっぷり使いながら戻していくと皮膚が生き返って軟らかくなり、表皮欠損部を被うことができるとの話しであった。皮膚欠損をそのままにしてドレッシング材で覆っても良いが、たとえ死にかけている皮膚でも自分の臓器で被った方が良いと思うとのことでした。
実際、最大で2日間放置されたスキンテアを戻してみたが、生着したとのことでした。
かなりマニアックな方向になってきたため、一旦ディスカッションを終了することになりました。

相談タイム

  • 難治性の尾骨部褥瘡例
    80歳代男性で、下肢に麻痺があり歩行障害があってお尻でいざって移動している方です。糖尿病があり、脳梗塞の既往もあります。狭心症で冠動脈ステント手術後であり、抗凝固剤が使われています。妻は認知症で施設入院し、結果として独居生活をされていました。
    歩行できないけれども自転車に乗れるようで、自転車で転倒し、多発外傷と多発肋骨骨折となりました。自力で帰宅し、家で倒れているところを発見され救急搬送で、入院加療となりました。入院中に褥瘡を発症し、治療のために転院されてきました。
    尾骨部に深い褥瘡があり、治療にて肉芽が盛り上がりサイズも縮小したため、老人保健施設へ転倒となりました。
    しかし、2ヶ月後褥瘡は悪化し、ポケットを伴う感染褥瘡となったため、再入院となりました。ポケットは肛門のすぐ際まで延びており、切開すべきかどうすれば良いかとの質問でした。
    ディスカッション
    なぜ尾骨部にできるのかとの質問に、ベッドから車いすに移るときなど、何度言ってもお尻をずらしながら移動するのが原因だろうとのことでした。
    それに対し、改善できないなら、スライディングシートなどを敷きっぱなしにし、ずれを少しでも減らしてはとの意見がありました。
    切開について質問があり、すでに痔瘻となっている可能性もあるとの意見がありました。痔瘻になっていようがいまいが、このポケットは切開して洗浄しないと治らないとの意見がありました。
    切開の方向についての質問があり、ポケットの長軸方向の切開が勧められました。切開すれば肛門との交通(痔瘻)があるかどうか分かる。痔瘻なら、肛門との最短距離で最小の切開を置くとのことでした。
    軟膏はユーパスタ軟膏とアズノール軟膏のMix軟膏を用い、アルギン酸カルシウムドレッシング材を軽く充填して、1日2回ほど交換してはとの意見でした。便が出ればドレッシング交換していくことで、創の収縮を図れるだろうとのことでした。
  • 感染症患者の入浴順番
    介護施設だが、ワッセルマンの人、肝炎の人、MRSAの人などいて、入浴順番をどうするか悩んでいる。今の所、ワッセルマンの人、肝炎の人、MRSAの人の順にしているが、意見を聞きたいとのことでした。
    会場からは、うちでは入浴ではなく全てシャワー浴なので順番は関係ないとの意見、全て1回でお湯を入れ替えているので順番は関係ない、との返事があった。
    創傷の立場から意見があり、汚いキズが有るとお湯が汚れるので、綺麗な創傷、ちょっと汚れやすい創傷、かなり汚い創傷の順に入り、一番汚れた状態でお湯を抜くのが合理的との意見がありました。
    質問者からは、傷はないのだとのことでした。
    そこで、まずはっきりしているのは、ワッセルマンと肝炎の方は入浴では感染の可能性は考えられないので、順番を考える必要は無い。MRSAも傷がないのであれば、関係ないのではとの返事でした。
    それに対し、便からMRSAが出ているとのことでした。会場からの意見としては、便失禁があるのなら、MRSA関係なくまずいのでは、便が出たらお湯は入れ替えになるので、MRSAは関係なく、便失禁する方が最後でしょうとの意見でした。
    会場からは尿失禁はとの質問があり、尿は無菌と考えられるので、無視すれば良いのではとの意見がありました。知らなければOKとの意見でした。
    そこで、会場からは、うちでは感染症の方は終わったら水を抜き簡単に滅菌処理をするとのことでした。
    最終結論としては、スタッフみんなで話し合い、理論的には問題なくても、感情的な問題があり、納得できる方法が良いだろうということになりました。一人でも感情的に納得できないようなら、手間がかかっても、全員が納得できる方法が良いだろうということになりました。

まとめ

今回はスキンテアの話しは、簡単に終わるかと思えば、かなりマニアックな点に問題があり、まだコンセンサスや、ベストプラクティスへの過程の段階と認識されました。褥瘡も個別にいろいろ問題があり、また入浴の順番も理論と感情のギャップもあるだろうということを改めて気付かされました。