第73回 「多職種で行く在宅チーム医療」

2014年7月17日

症例検討会

「施設入所オストメイトのストーマケアから広がった連携~褥創治療に至るまで~」

<症例呈示>

90歳代女性。直腸癌でS状結腸ストーマ。要介護2
グループホームに入所したが、しだいにストーマセルフケアができなくなり便漏れをするようになった。施設の介助者が装具交換をするようになると、便漏れがひどくなり皮膚障害を起こしてストーマ外来を受診した。
まず、便漏れを起こすと皮膚障害が悪化することを告げた。そして、介助者の見やすい透明な装具にし、やり方を覚えれば簡便なワンピース型装具に変更した。
その時お尻が痛い痛いと訴えたため、お尻を見たら仙骨尾骨部に褥創を発症していた。
褥創の治療を開始することとなったが、発症の原因を探すためグループホームを訪問し、原因を調べることとなり訪問診療が開始となった。
我々は、医師、看護師、管理栄養士、作業療法士のチームで訪問診療を行っている。訪問の前に電話にてできるだけ情報を収集し、問題を抽出して予想を立てて訪問する。
提案するケアは、なるべく簡便で継続可能な方法を提示している。関係する各サービス機関にも伝達する。高岡市では「介護連絡帳」があり、そちらにケア方法について記載する。
訪問後も、ケアがうまくいっているかなどについて電話連絡をしている。

本例では、それぞれの専門職が共同してアセスメントと介入を行ったので、褥創ケアについて、それぞれの職種ごとに経過を報告している。

看護師

体が小さいことから、イスが高く足が浮くため浅く座り、いわゆる仙骨座りになり、ズレと圧迫で褥創を発症したと考えた。摩擦を逃がし滑りやすいドレッシング材として、ハイドロサイトADジェントルを選び、高さの合った椅子の購入、栄養状態の改善の提案をした。4ヵ月後、発赤が強くなってきたので、感染徴候を考え、ゲーベンクリームを塗布し、ガーゼを使わず直接紙オムツがあてるようにした。 その結果、瘻孔状の褥創は、治癒はしないが痛みは無くなり、悪化もなく経過している。

管理栄養士

当初体重は39.3Kgであった。気管支炎や肺炎で、時々発熱するが、その時に食事摂取量が減る。半年前くらいに発熱で入院したが、その時33kgまで減少した。 グループホームでは8~9割食事を摂取している。1日900Kcal、飲水は好まないが1日800~1500mlとなっている。発熱のとき水分を摂らないので、OS-1やOS-1ゼリーを摂ってもらっている。また、食事量が減った時は、ラコールなどの栄養剤処方を依頼した。家族には、カロリーメイトゼリーなどを買ってもらった。 水分は進んで飲まないため、施設職員から声かけをしてもらっている。最近食事量がかなり減ってきたので、カロリーが高いエンシュアHの処方をしてもらった。1日1本は飲んでいる。

作業療法士

初回訪問時、ベッドが組み立て式の簡易ベッドだった。低いので起き上がりにくく、立ち上がる時も手すりがなくてシルバーカーにつかまって立ち上がっていたため、危険性があった。介護保険でのベッドレンタルができないため、レンタル業者と相談し、ベッド・マットレス・L字バー込み込みで、途中交換しない条件で、月1000円の自費でレンタルすることとなった。
施設のイスは普通の高さだったが、この方の膝下は30cmであり、イスの高さは45cmで、奥行きも深いため、仙骨座りにせざるを得なかった。ザブトンで奥行きがカバーされていたが、椅子購入で検討した。ネットで、座面が最低22cmまで下げられるイスを6000円で売っていた。家族は購入してくれたため、これを持ち込んだ。問題は、背もたれがぐらぐらして危険なことであった。これは日曜大工が得意な職員が良い角度で固定してくれた。使用しているシルバーカーは、自宅からの持ち込みだが、体調が悪いとふらふらした。その時は車輪を固定するようアドバイスした。力がだんだん弱まってきたので、施設にあった歩行用具を使わせてもらうことにした。

以上の発表が行われた。

ディスカッション

会場からは、何が大事だったかの質問がありました。
それに対し、褥創は仙骨座りが少なくなり座位姿勢が良くなったことで、治っていないが痛みはなくなったことが示されました。また、担当者に正しいケア方法を示すことが大切だったとのことでした。そして、何かあった時は即連絡してもらうことだとのことでした。
また、チームで行くことが良かった。その場で多職種が話し合い、問題点から対策まで、その場で行えた。モニタリングも一括してできた。良く状況が分かることから、迅速に他の職種にも連絡できたなど、チームで行くことの利点が語られた。

チームで行くことの問題点はないのかについて、多職種の大人数で訪問するため、利用者の方に戸惑いが見られることがある。また、最近はケアマネも福祉系の方が7~8割になっており、医療機関との連携になれていない方が多く、チームで訪れることへの驚きや恐怖があるかもしれないとのことでした。

「今回はイスの工夫だったが、車イスで食事をすることはないのか、その際の注意点は」との質問がありました。
車イスでは、ザブトンやパッドを置くことで調整している施設がありました。車イスで食事をする場合は、できればモジュール型の車イスが好ましいが、高額なので、施設では難しいだろうとの意見もありました。
車イスは足乗せが有り、小さな方でもテーブルでの食事が可能になるとの話しがありました。それに対し、車イスは後ろに倒れるように座面が傾斜しているので、テーブルで食事がしにくい。座面の後ろにザブトンなどを入れて前傾にすると食べやすくなるとの意見がありました。
以前車イスが圧倒的に不足している施設にいたことがあり、その時、レンタル業者と相談し、さびた車イスやシートに傷がありレンタルできない車イスを安く買い、いろいろなサイズをそろえたとの話しがありました。

この症例を通して感想が聞かれました。
施設職員の声かけの努力によって水分摂取が保たれていた。水分摂取が少なくなると肺炎等で熱が出ることから皆がんばっていたことが素晴らしかった。
在宅では、一人の人がケアを担当すればケアの統一ができるが、デイサービス、ショートステイなど、いろいろなサービスを受ければ受けるほど、一つのケアを伝えることが難しくなる。それぞれの担当者から、うまくいかないなどの疑問の声が届けば、分かるがあまり知らせてくれないと、どうなっているのか分からない。もっと疑問の声をお互いぶつけ合うと良い。
在宅では、ケアの統一と相互の連絡が重要とのことでした。
最後に、この方はキュートでかわいい方でした。かわいらしい方は関わる方も親身になり易く、介護はキャラクターに左右されるかもしれないとの意見が出ました。
我々も、年を取ってくるとかわいくしないと良い介護を受けられないかもしれないので、かわいく年取っていきましょうということで締めとなりました。