第79回 「下肢拘縮患者の足褥瘡」

2015年7月16日

症例検討会

「寝たきり下肢拘縮患者の足に発生した褥創(皮膚潰瘍)3例について」

症例1

80歳代、女性。 日常生活自立度C2、要介護度4。
認知症、時間的に差のある左右大腿骨骨折で手術後に寝たきりとなり入院生活
高機能エアーマットレスを使用。 経口摂取で全粥1167Kcal、たんぱく質36g、
身長155cm、体重38Kg、BMI 15.8、Alb 2.5 栄養状態不良
両足背動脈は触知する

股関節・膝関節・足関節は拘縮
両足とも、第5趾外側に潰瘍+、外反母趾が見られる

ゲーベンクリームを塗布し吸収パッドでくるむ処置をしたが、悪化し感染を起こした。
ポジショニングに問題があるのではと検討したところ、食事などで上半身挙上時に、足の外足がマットレスにくい込んでいた。
ポジショニング等の変更として頭側上半身を挙上し、足底がつかないよう下肢の下にクッションを入れた。また、パンティーストッキングをはかせてズレ力を逃した。
また、ポケットを切開デブリードメントし、まずカデックス軟膏を用い、次にユーパスタ軟膏へ変更するなどで、その後5週間で上皮化が完成した。

症例2

80歳代、女性。
4年前に認知症を発症し、やがて寝たきりになった。
高機能エアーマットレス使用。経鼻胃管で800Kcal、たんぱく質32g。
身長140cm、体重35Kg、BMI 18.1。足背動脈は触知する。

左足第1趾内側に褥創を発症。ゲーベンクリーム処置をした。
仰臥位をとる時、両下肢とも屈曲拘縮し、下半身は右側に倒れている。
当初ゲーベンクリームで反応せず、ユーパスタ軟膏へ変更したところ感染が消退してきた。ソーブサンへ変更して感染は治まったと考え、アブソキュアへ変更したところ、骨が露出してきて深い褥創と分かった。
ポジショニングが問題ではと検討したところ、左足内側は、強くマットレスに押しつけられていた。クッションを両下肢の間にはさみ、足の潰瘍部を梱包シート(プチプチ)で包んだ。
この頃、足趾の腱が断裂したのか足趾がぶらぶらしており、露出した関節の骨が不安定となったため、テープを使って足趾を足底側に引っ張って固定した。
その1週間後に骨は肉芽で被われ始めた.そして1ヶ月後には表皮化が進行してきている。

症例3

80歳代、男性。
2年前事故で、肋骨骨折、硬膜下血腫で手術後寝たきりとなった。
肺炎を繰り返し、入院となった。
高機能エアーマットレス使用。
経鼻胃管で、1100Kcal、たんぱく質44g。
身長150cm、体重33Kg、BMI 14.4、Alb 2.6。
右足背動脈は触知するが、左足背動脈・膝窩動脈・腸骨動脈は触知しない:ASO
両下腿の皮膚は黄褐色で黒く、筋肉量は減少して細く、骨突出している。

右足の母趾根部と足背、左足の母趾外側に褥創を発症。
ハイドロコロイド(アブソキュアウンド)を用いたところ、2週間後に両足ともに悪化した。
プレタールの内服を開始し、ワセリン+穴あきフィルム+吸収パッドに変更した。
4週間後には肉芽は出現したが、関節の骨が露出した。
この時、足背の腱が断裂(自己融解?)し、ブラブラになって、第1趾が足底へ屈曲して関節腔が広がった。母趾にガーゼを引っかけて、足背へ持ち上げるように固定した。
この処置を行ってから3週間後には骨は肉芽で被われ始めた。

まとめ

足の褥創はエアーマットレスでは防げない。
体幹部と違い、循環障害(動脈閉塞)の影響を受けやすい。
足の創は、すぐに深くなり、靭帯や関節が障害される。
下肢の拘縮が影響し、足趾の変形もリスクになる。
足背動脈など、普段から足の動脈を触れる癖をつけ、できればABI等も測定する。
血圧を下げないことが重要で、ABIが0.5であれば、たとえ血圧が160でも、足では80しか無いことを意識し、安易に降圧剤を使わない。
ASOでは側副血行が保たれていることが多いので、脱水になって血液が粘稠になり、側副血行が詰まれば致命的になる。脱水の予防が重要である。
屈曲拘縮の方の背上げ時には、足がマットにくい込むので注意する

治療においては、足の骨突出部の皮膚が赤くなっているだけでも要注意で、フィルム材で安易に保護すると、かえって滑りが悪くなり圧迫が強くなる。そのため踵などにフィルム材を貼付するなら、その上からパンティストッキングの切ったものをはかせて、滑りを良くする。
以上のような考察も話してもらいました。

<質疑応答>

経鼻胃管が用いられているが、なぜPEGにしないのかとの質問がありました。
最近は、PEGを提案しても受け入れられず、経鼻胃管を使うことが大変多くなったとのことでした。マスコミによるPEGバッシングのキャンペーンがかなり広がっているなと感じました。

ポジショニングの考え方が質問され、この前のセミナーでは、拘縮の強い方の足を浮かせるのではなく、足底に体重をかけてあげることがよいとのことだった、との意見がありました。それに対し、足を浮かせないと写真のように足がマットレスにくい込んでいった。でも、浮かせてもすぐにクッションがずれてしまうことと、背上げをした時、全員が足を浮かせることはできていなかった。
そこで、足を浮かせることは諦めて、ストッキングをはかせたら良くなっていったとのことでした。
ストッキングについて質問があり、ストッキングはパンティストッキングが安くて滑りも良いとのことでした。パンティストッキングを鼡径部で切ってはかせるとのことでした。
さらに、保湿効果がよいので、乾燥した足全体にワセリンを塗り、その上からストッキングを大腿部まではかせるとしっとりとした肌になるとのことでした。これは以前やった「スキンテア(皮膚裂傷)」にも有効と考えられます。
そして滑りがよいので、足がマットレスにくい込むこともなくなり、治癒に向かったと思うとのことでした。
ちなみにストッキングの交換は、入浴時として、洗濯して再利用しているとのことでした。

ポジショニングの話しがPTからあり、拘縮の強い方では仰臥位でのポジショニングの他に、側臥位でのポジショニングがやりやすい。その際、足をしっかりベッドに押しつける動作を何回かやってから側臥位にすると、身体の力が抜けて良い側臥位がとれるとのことでした。

2例目につても意見が出て、梱包シート(プチプチ)を足に巻いていたが、あれも滑りがよくクッション効果もあるので、それが治癒に結びついていたのではないかとのコメントでした。
3例目では、動脈閉塞の方ではハイドロコロイドドレッシング材では悪化することが分かった。
靱帯が損傷して、足趾がぶらぶらになった場合は、足趾を固定した方が良いことが強調されました。また、動脈閉塞では、プレタールを用いることが勧められました。

相談タイム(足の褥創対策)

相談1 足趾に次々と増える褥創

足趾の爪の当たるところに褥創を発症し、足趾が当たらないようにコロを入れると、入れたところに新たに褥創ができ、ドンドン増えていくとの相談でした。
足背動脈を触れるのかとの質問に、触れず動脈閉塞があるとのことでした。
意見としては、血流改善薬(例えばプレタール)の使用が勧められました。
局所療法としては、感染がなければ、比較的安価なエスアイエイドを切って、足趾間に用いると良いとの意見がありました。
また、感染しているのなら、ユーパスタ軟膏を塗布し、足趾全体を食品用ラップで覆うと良いとの意見でした。しかし、ASOで感染するとかなり高率に切断になることを覚悟した方が良いとの意見でした。
ユーパスタは吸水作用が強いので、ラップとの相性がよいとの意見でした。
早速医師にプレタールの処方をしてもらい、エスアイエイドがあるので、それも使ってみるとのことでした。

相談2 踵の褥創にフィルムを貼った方が良いと言われたが、あまり勧められないのか

踵の褥創は、圧迫と言うより、必ずずれが関与している。フィルムを貼るとかえって摩擦が増え、その結果圧迫とずれがひどくなり悪化する。その証拠に、フィルムを貼って、次にみた時にまくれあがっているはずだとのことでした。
しかし保護も必要なので、対策としては、フィルムを貼った上からパンティーストッキングをはくと良いとのことでした。