第17回 「下腿の血管性潰瘍」

2004年9月16日

 症例検討1例目は、下腿の静脈還流障害による潰瘍の症例でした。症例は人の話を聞かない頑固な80歳代男性で、コントロールの悪い糖尿病があり、下腿の浮腫が著明な例でした。いろいろなドレッシング法を行うも、お菓子などを勝手に食べるなど糖尿病の管理は不良でした。インスリンを開始しHbA1cの改善傾向はあるものの、潰瘍の改善に乏しかったため、病院へ転院しての治療となったものです。
転院後は、管理が厳しくなり、間食の制限と足の挙上が厳格に行われ、潰瘍は治癒に向かったため、本人も積極的になって2週間ほどで治癒したようです。
 ディスカッションされたのが、カロリー制限が1200Kcalでは、軟飯にした場合量が少なくなるため、量を増やすために全粥にしただろうことや、噛む力が不足のためにキザミ食になっているだろうことが説明されました。また、再び介護施設に戻った場合、間食制限や足の挙上がうまく継続できるかの不安が話されました。これに対し、病識を持ってもらうようにし、差し入れの禁止などコントロールをしっかりしていきたいとの決意が述べられました。
 患者さんの楽しみや自由意志の尊重などを考えると簡単ではないと思われました。ただ、動脈性潰瘍と異なり、静脈性潰瘍の治癒の速さが際立っていました。

 2例目は、70歳代の、心室細動による血栓から左下肢の動脈閉塞を発症した例の、趾壊死潰瘍の治療について述べられました。ゲーベンクリームによって足趾の壊死が浮上ってきたところでデブリードメントと縫合が行われましたが、壊死の進行とともに創離解しました。再び潰瘍となってから、プロスタンディン軟膏とアルギネートを用いフィルムで密閉したところ、順調に治癒した例でした。発表者から、血栓予防の薬物療法をもっと積極的に行い、動脈閉塞の予防に努めるべきであったとの反省がありました。また、できてしまってからヘパリンやりプルなどを用いても、既に壊死する運命は変えられず、せいぜい壊死の範囲を少し少なくするのが精一杯との感想がありました。
 会場からは、動脈閉塞での外科的デブリードメントは最低限とし基本的に行わないほうが良いことが話されました。また、患者の安静度など難しくなかったかの質問があり、本来なら手術療法が第一選択であるも意識が低下し動けない状態であったために保存的にやったとの返事であした。
 最後の自由質問のコーナーでは、在宅の褥創もできてからの対応ではなく、予防的な早期の介入が必要ではないかとの意見がありました。そのためには、栄養状態の簡単な把握、リスクアセスメントの大切さが述べられました。さらにエアーマットレスなどの導入の判断について、会場の全てのグループへの質問がなされました。OHスケール、ブレーデンスケール等を使っているところもありましたが、ほとんどは印象で決められていました。反省として、やはり在宅での現状である「できてからのエアーマットレス導入」を「予防的導入」へと変えるためには、入院施設と同様、スケールを使いエアーマットレス導入の根拠となるようなものを示す必要性が示されました。むやみに導入すると、患者の介護度がさらにアップする危険性も指摘され、介護度を下げる根本的な発想も必要と考えられました。
 エアーマットレス導入によって褥創発症を低下させうる点について種々報告されてはいますが、スケールを用いた導入の利点について報告は無いと思われ、この点に関して当勉強会でプロジェクトを組んで調査することも今後の課題となりうると思われます。