第30回 「下肢屈曲拘縮褥創例と在宅再発褥創例」

2007年5月17日

<下肢屈曲拘縮による褥創>

 脳梗塞・ペースメーカーを使用している80歳代女性で、身長150cm、体重30.1kgでした。尿路感染症で他院入院したところ、右第1趾、右第4趾、右第5趾、右下腿外側後方、右足外側、右足背等に褥創を発症し、紹介で入院されたとのことです。栄養はPEGで行われており、1日900Kcalでした。Alb 3.0、CRP 1.11、総Chol 199など、少し低栄養ですが極端ではなかったようです。糖尿病はありませんが、動脈は触れにくいためASOが疑われるとのことでした。
 右上下肢に麻痺があり、痛みを感じません。右足は屈曲拘縮がみられますが、車椅子に座ることができます。

 処置はイソジン消毒が行われ、右下腿の深い潰瘍はイソジンシュガーで少しずつ改善し表皮化が周囲からおこっています。右第1趾はイソジン消毒のみであり、ミイラ化が進行しています。足背と右足外側は当初ブロメライン軟膏とラップ療法が行われましたが、創周囲皮膚の発赤が強くなったため5日で中止し、ゲーベンクリームにしたところ表皮化してきました。

 このような例に対し、右下腿外側後方に褥創ができた理由として、「拘縮のある下肢を伸ばそうとしてマクラを入れると、却って膝が縮まり枕がずれて同部の圧迫となって発症する」との意見が出されました。特にASOがあると褥創が更にできやすいとのことでした。「このような例では足を伸ばそうとするのではなく、両側の大腿部間に枕を入れて下肢を外旋するようにすると自然に膝も伸びてくる」との意見でした。
 別の意見として、「ベッドをギャッチアップし、膝のところもベッドを屈曲させ、そこで患者を30度くらい傾けるとうまく修まって膝の拘縮を予防できる」とのことでした。また「マッサージを、たとえ1日数分でもやることが良い」との意見もありました。問題はベッド上にじっと居させるのではなく、ADLを上げて拘縮を予防することが大切で、車椅子に乗れるのであれば、その時間を延ばすようにしたほうが良いとの意見がありました。

 局所療法に関しては、 イソジンシュガーガーゼは乾燥するのでお勧めではなく、ゲーベンクリームにしてはどうかとの意見がありました。また、最後の表皮化の部分では、水溶性軟膏のアクトシン軟膏ではなく、油性軟膏のアズノール軟膏の方が良いとの意見がありました。
 この例では、屈曲拘縮の治療のために膝に枕を入れる意味はなく、両大腿部間に枕を入れて股関節を開くことが重要であるとの意見に対し、多くの方が賛同されました。

<在宅再発褥創での問題点>

 80歳代女性で、大転子部骨折後寝たきりになったようです。仙骨部と両大転子部に褥創がありました。今回は仙骨部褥創の経過報告で、感染とポケットを伴うものでした。認知症がみられ介護者の手をつねるなど暴力行為を行う方です。栄養は主食は軟飯で副食はキザミ食が出されており、1日1100Kcal、蛋白質40g摂取されていました。
 ショートステイは月に10~12日、デイサービスは1~2回/週利用されています。局所療法、高機能エアーマットの導入等で約7ヶ月で治癒しました。
 しかし、治癒後1ヶ月で再発しました。局所療法はクラビオを用いフィルム材で密閉固定で行われました。
 再発の原因として考えられたのは、在宅では高機能エアーマットレスを使っていたが、ショートステイでは薄手のものしか使われなかったことです。また、施設での入浴時ドレッシング材を着けたままであったこと、患者家族、医師、ケアマネ間で情報がうまく伝わっていなかったこと等の問題点が分かりました。
 対策として、ショートステイでのエアーマットレスは高機能型を用い、リクライニング車椅子を止めチルト式にしてもらうこと。ケア方法の統一のため、やり方はケアマネに伝え、変更の時もケアマネから各担当者に伝えてもらうことにしました。
 在宅においてしっかりケアプランを立てると、ケアに関わる人が多くなり、その間の連携が難しく却ってぎくしゃくしたものになりがちです。ケア方法の統一のためには、簡単で継続可能な方法を提示することが大切だとのことでした。

 ADLについて質問に対して、ほとんどベッド上に寝たきりで、食事の時のみ車椅子に座るとのことでした。食事は自分で摂っているが、ベッドでは寝返りも自分では行えなかったようです。
 医療系のケアマネか福祉系のケアマネかとの質問に、福祉系のケアマネとの返事でした。この返事に対し、ケアマネを通して伝えてもらうのでは又聞きになり、却って不正確になるのではとの質問がありました。それに対し、全然知識の無い家族が創処置しており、それよりも知識のある福祉系のケアマネに対しては、何度も分かるように話せば正確に理解してもらえると思うとのことでした。
 ケアマネに話したあと、うまくいったという情報よりも、言われたとおりやってもうまくいかないとか、できないとかを話してほしいのだとのことでした。
 このようなケアマネへの伝達は、看護師や管理栄養士が行っているとのことでした。

 ショートステイでエアーマットレスを使用してもらえない場合、在宅で使っているものを使えないのかとの質問に、そうしてほしいが必ずしも運んでくれない場合が多いとのことでした。
 在宅では、早期発見ができず、このような感染した深い褥創になって始めて慌てて高機能エアーマットレスということが多い。何とかもっと予防という発想へ持っていけないのかとの意見がありました。これに対し、特に福祉系のケアマネにその傾向が強いとの指摘がありました。
 ケアマネを通してといっても、エアーマットレスの要・不要の判定や、どのエアーマットレスを使うかなど、自分で判断できず聞いてくる。「このようなケアマネが全体のケアの中心になれるのか、また多施設の間で板挟みになるのでは」との質問がありました。
 それに対し、エアーマットレスの必要性や機種に関しては、家族にエアーマットレスの必要性を話し納得してもらったら、ケアマネに家族が了解している事を伝え、業者から現在可能なエアーマットレスの種類を示してもらい、その中から1~数個を選択してリストを伝え、最終的な機種決定はその中から業者の扱いやすいものを選んでもらうようにしているとのことでした。
 同様に処置法なども、やり方を分かりやすく教えて理解してもらうようにしており、ケアマネが困ることはないのではとのことでした。しかし、これらは原則であり、直接施設や訪問看護ステーションに処置法を伝えることもあるとのことでした。しかしいずれにしてもケアマネに全く伝えずにということはしないとのことでした。

 ショートステイなど施設で褥創発症や悪化があれば、家族が怒るのではないかとの質問に、患者・家族は大変弱い立場で、強く出てショートステイを断られるのが最も不安であり、褥創再発に不満はあっても「絶対に文句は言えない」と言っていたとのことでした。
 これに対し、施設では逆に「患者に大変気を使っており、褥創を発症しそうな方では情報も不足気味で、むしろ気を使っているのは施設側の方である」との意見も出ました。
 結局、患者も施設も気を使っている構図が浮かび上がりました。このような無駄な気遣いを無くすには、情報をもっとスムースに流れるよう連携をしっかりやる必要性が強調されました。
 在宅では実際はケアマネからの情報よりも、直接施設や訪問看護ステーションから情報をもらう方が多いかもしれないとのことでした。しかし、情報の窓口を一つにすることが大切と改めて強調されました。

 情報のやり取りがスムースに、かつ正確に、しかも全員に伝わることは大変なことだと改めて感じました。これら素晴らしい連携を達成するには、ケアマネがしっかりすることが何よりも大切なのだろうと思われました。このことはそんなに簡単ではなく、またそれだけでよいとも思えませんでした。この施設間の情報交換は、在宅では大変大きなテーマであることが改めて知らされました。
 この件に関し意見が交換され、会場では大変な盛り上がりとなりました。