第55回 「終末期の下腿潰瘍や摂食障害の考え方」

2011年7月21日

症例検討会

<症例提示>
糖尿病の下腿下肢潰瘍~褥創

症例は50歳代男性で、糖尿病・閉塞性動脈硬化症・右下肢切断・高血圧がみられました。
施設に入居していますが、食事摂取不良等で、この2年間に2回、1ヶ月程度の入院を繰り返しています。今回も食事摂取不良で入院されました。入院当初CRP 15.4であったものが、1日で37.3に上昇しました。抗生剤の点滴が行われ、誤嚥し摂食できないため、絶食となりました。
入院前から左足趾には壊死様の部分がみられましたが、入院後壊死は拡大し、踵にも黒色壊死がみられるようになりました。
当初ゲーベンクリーム処置でいたが、壊死が拡大したためブロメライン軟膏処置になりました。
もともと食べるのが好きで、1日1600Kcalとっていましたが、ADLは全介助でした。
栄養は経鼻胃管にて、ラコール100ml×5であったものが、エレンタール120ml×6になっているとのことです。
現在足背や第5趾は黒色壊死して悪臭を出しているとのことです。膝下部分は紫色に変色しているようですが、意識が低下し痛みは訴えないようです。
この症例について、これからどうすればよいのか。また、途中どのようにすれば良かったのかについて質問されました。

血糖管理について質問がありました。
発熱は38~39度出ており、状態が悪くスライディングスケールを基本に、インスリン注射をしているとのことでした。結局血糖値は150~380位でコントロールされているようでした。

会場から、このように糖尿病でASOがあり足病変のある方の予後は悪く、2年以内に心臓などの病気で亡くなられることが話されました。
したがって、本人や家族の意向を聞き、何をやりたいのかなどよく聞いて全体的な対応法やスケジュールを決めることが大切との話しがありました。
それに対し、家族は延命を望んでいないことが告げられました。

このような例でのケアの基本として、感染を起こさないことと、痛みをなるべく取ってあげることが重要ではないかと意見が出ました。
感染予防として、イソジンシュガーが使われ、創を乾燥ミイラ化させて脱落をめざす治療が一般的であると話されました。しかしこの方法は、大変痛く、この方では当初痛みを訴えていたようなので、あまり勧められないとのことでした。
一般的ではないが、やはり感染予防のために、乾燥とは逆に創を湿潤にするゲーベンクリームをしっかりと用い、乾燥予防にラップまたはフィルムで密閉する方法が勧められました。
ゲーベンクリームを用いる方法だと、創面の乾燥が予防されるので、乾燥壊死部の拡大が起こりにくいことと、湿潤するために創部の痛みが減る利点が示されました。

足浴は良いのか悪いのかとの質問が出ました。
それに対し、創部を清潔に保つことは重要で、足浴は行うべきとの意見が出ました。また、足浴によって血行改善も期待できるとの発言もありました。
感染については、創周囲皮膚の汚染が創感染の原因となるので、むしろ足浴をして創周囲皮膚をきれいにすることで、感染予防になるとの意見でした。

ブロメライン軟膏処置について、これでよいのかとの質問がありました。
ブロメライン軟膏は水溶性軟膏であり、創面を乾燥させる作用があり、壊死組織の融解を目的に使っても気をつけないと、逆に壊死組織を増やす可能性が指摘されました。
つまり、ブロメライン軟膏を創面に用いた場合、必ずフィルム材で密閉しないと壊死組織のデブリードメントは起こらないと話されました。
この例では、ブロメライン軟膏にて壊死組織が拡大するとともに、抗菌作用がないためむしろ細菌感染の温床となり、創感染が進行しているのではないかと指摘されました。

禁食になって経鼻胃管で栄養投与されていることに関し、この方は食べることが楽しみであるので、摂食嚥下評価を行って、摂食可能な食形態があるのであれば、管理栄養士に作ってもらえば良かったのではないかとの意見が出ました。

現在はすでに手の施しようが無く、むしろ自然に任せるしかない状態と思われるが、基本的には、糖尿病のコントロールをし、足浴をしてフットケアをやり、ドップラー血圧計などで血流評価をして、血流が低下しているようなら血流改善を図るのが基本ではあると意見が出ました。つまり、手術をするなりステントを入れるなりということでした。
また、ポジショニングを工夫して踵など創部に圧がかからない工夫もすれば良かったのではとの意見が出ました。

相談タイム

相談

80歳代男性で、脳梗塞の既往があった人が、脳出血となり、食事を経口で取れない状態だとのことでした。経鼻胃瘻にて栄養をとっているが、PEGの挿入を検討するも、胃の上に腸が乗っており、また胃癌が見つかって胃瘻造設も中止になっている方とのことでした。
相談は、このような場合、胃を切る手術をして胃瘻は入れることができないのか。またそのような手術をしたり、または手術をしなかった場合、そろそろ病院を追い出されるであろうが、他の病院や施設は受け入れてくれるであろうかということでした。
家族は妻がいるものの、自分の世話もできない状態で、在宅でのケアは難しいとのことでした。離れたところに娘もいるが、常勤の仕事をしており、介護のために仕事を辞めるわけにはいかないようでした。

意識状態を聞かれましたが、詳しくは分からないけれども、意識はあるが食べられないとのことでした。

胃瘻については、今はPEGが有名になり胃瘻は内視鏡で入れるものという考えがあるかもしれないが、もともと胃瘻や腸瘻は手術でチューブを入れるものであった。したがって、胃の手術をするのであれば、その時同時に胃瘻や腸瘻を造ることはたいした問題ではないとの意見が出ました。
また、胃の上に腸が乗っていても、それを避ける方法はあるだろうし、あるいは首の方から食道を通して栄養チューブを入れる方法もある事が示されました。

会場からは、本人や家族の意向が最優先で、意志をしっかり聞くことが大切であろうとの意見が多いようでした。
また、高齢であり、体力を考えても胃瘻や経腸栄養ルートを造ったあとの回復ができるのか、むしろターミナルと考えた方が良いのではとの意見がありました。胃癌などとの共生を考えたり、希望をよく聞いてそれを叶える方向がよいのではとの意見でした。
いずれにしても、本人や家族の話をよく聞くことから始めるのがよいだろうとのことでした。

病院や施設が受け入れてくれるのかとの質問に対し、手術をし胃瘻が入っていても本人や家族に入院などの意向があれば、その意向に添うように対応することを基本としていると話す施設がありました。
この件に関し、はっきりとした意見が出ました。
手術をするような病院には、地域連携室があるので、そこで相談すれば次の病院なり施設なりを必ず探してくれるとのことでした。
しかし、家族や本人が、在宅でやりたいのか、病院へ行きたいのか、施設へ行きたいのか、明確に意思を表明しないと、地域連携室も動けず、結局何となく過ぎて、在宅の選択しかなくなるとのことでした。
ここでも、本人家族の意向をしっかり決めて、早めに地域連携室に相談することが悩みの解決になるようでした。
つまり、全てに関し今いる病院でもっと相談することが重要で、相談もせずに他のところの人の意見を聞いてもあまり現実的ではないようでした。

さいごに

今回は糖尿病で動脈閉塞のある方の下肢潰瘍を在宅でみることの難しさが分かりました。早期の積極的な対応が大切ですが、生命予後はあまり期待できないようです。
しかし、基本的な事項はきちっと押さえる必要がありそうです。つまり、糖尿病のコントロール、動脈閉塞の評価、下肢の清拭をしっかり行うことです。
局所療法に関しては、抗菌剤軟膏の使用が基本的ですが、イソジンシュガーを使って乾燥ミイラ化させるか、ゲーベンクリームを使って密閉湿潤させるかは、意見の分かれるところでしょう。
相談症例は、脳梗塞後で食事の摂れない方に胃癌が発見された場合の対応でした。今ある病院でよく相談することが大切で、その際家族や本人の望みを中心に対応していくことであり、家族としてははっきりと希望を表明することが重要と分かりました。