第22回 「坐骨部褥創・疼痛による褥創」

2005年11月17日

 症例検討会は2例で、脊損の方の坐骨部褥創と、腰椎圧迫骨折による疼痛が原因で褥創になった例でした。

坐骨部褥創

 1例目は「長時間座位の高齢者の褥創」でした。90歳前後男性の方で、50歳頃に高所より転落し脊髄損傷となった方です。膀胱瘻・腰椎圧迫骨折・大腿骨頚部骨折・坐骨骨折などが次々と起こりました。坐骨部に2年位前から褥創を発症し、1年位前から訪問看護が始ったようです。
 大変頑固な性格で、難聴があり筆談もうまくいかなかったようです。下半身の知覚障害があり、疼痛も掻痒もなく褥創に対する関心が無いようです。脊髄損傷ですが室内歩行が可能なようです。昼はこたつ等に入りっぱなしの長坐位をとり、それが原因で左坐骨部にステージIVの褥創ができています。
 体圧分散にはあまり協力的ではなく、車イス用の除圧クッションをいろいろとためし、現在は座布団から、ヒーリングパッドとインテルジェルクッションの組み合わせにしておられます。イスの生活は拒否していますが、最近ヒップアップはしてくれるようになったとのことです。
 局所療法は、基本的にオルセノン軟膏とフィルムドレッシング材です。
 この症例に対し、生活パターンの変更が必要かどうかについての質問が出されましたが、会場の多くの方は生活パターンを変える必要はないとの意見でした。栄養についての質問があり、「3食しっかり食べており、栄養には問題が無いと思い検討は行っていない」との返事でした。それに対し、今は良くても栄養評価はしたほうが良く、栄養や摂食嚥下に危険要因があれば、状態が悪くなれば問題化する可能性があり、事前に問題化を予想できるというメリットもあるので是非やったほうが良い等の意見が多くありました。
 「40年間褥創無くやって来たのが、急に難治性の褥創を持つようになったきっかけがあるはずだ」との意見がありました。恐らくADL低下、リハビリ、栄養悪化等、何かきっかけとなる要因がわかれば、今後の方針もたつのではないかとのアドバイスがありました。
 頑固との事だが、円座をクッションにしたり、いろいろな写真を撮らせてくれたり、いろいろなクッションで体圧を測定させてくれたりと、結構やらせてくれているがどうして受け入れてくれたのかとの質問がありました。これに対し、本人が気にしている右下肢のしびれの原因と関連させてお願いすることで、いろいろやらせてもらえたとの話でした。
 また、表情や、座った姿勢などの写真を撮って見せてあげた事がきっかけで褥創部の写真も見ることを拒否していたが見るようになってきたとのことでした。
 「頑固な方への対処法」について会場から質問がありました。これに対し、「コミュニケーションをとることが基本で、頑固という特徴のみを取り上げず、一つでも受け入れてもらえると後はスーと受け入れてもらえいる」という意見がありました。これに対し、確かにこの例でも回数を重ねるごとに打ち解けてきて、一つ受け入れをすると、そこから受け入れが進んだとのことでした。また「話をする時、顔や表情・しぐさを見て、間を置いてゆっくり話す」「うまく褒めてあげ、持ち上げると受け入れてもらえる」「大きな声で怒鳴られたり、拒否されたら深入りせず引き下がり、また来ますといって出直す」等の現場の意見が出されました。また、「こちらのペースにしない」「好きになり、できれば尊敬する」「笑顔が一番」などの意見も出されました。
 局所療法については、坐骨部の褥創は、意外と会場にいる方で経験された方は少ないようでした。経験者からは、便失禁との関連があったとの経験話がありました。坐骨部の褥創は浅いものは結構みるが、深いもので、かつうまく治療されてこのように深いエクボ状になったものをみる機会はさらに少ないとの意見がありました。エクボ状の褥創は、乾燥・浸軟・悪臭化等、いろいろと変化するので、それに合わせて、軟膏類を使い分けることが勧められました。また、「坐骨部の褥創は治癒しにくく、たとえ手術しても筋肉が萎縮し再発しやすいことが示されました。従って、この例のように良くコントロールされた坐骨部の褥創は治らなくても良いのではないか」との意見が出されました。この意見に対し、症例提示者からは、ホッとしたとの感想が出されました。

疼痛による褥創

 2例目は「床上安静の度に浅い褥創を発症する高齢者」の例でした。80歳代の方で、アルツハイマー病、脳梗塞、心臓弁膜症等の基礎疾患の方です。腰椎圧迫骨折のため床上安静となり褥創を発症。体重も50Kgから43Kgまで低下したようです。褥創はステージII程度のもので、亜鉛華軟膏とガーゼ処置で治癒したようです。帰宅に向けて歩行練習が始り、行動が広くなった時また転倒にて腰椎圧迫骨折となりました。床上安静によって仙骨部に褥創発症。ソルベース軟膏、アクリノール亜鉛華軟膏によって褥創は治癒。しかし、認知症が悪化し、帰宅とはならず施設への入所となったようです。
 これに対し会場からは「仙骨部ではなく尾骨部に近い。床上安静というよりギャッチアップによるズレが原因ではないか」とか「整形外科の患者が内科病棟に来ることがあり、痛みで体位変換や背抜きができないと、一晩で褥創を作ってしまうことがある」などの意見が出されました。これに対し、発表者からは「当時はズレに対する意識がなく、この勉強会でズレ対策、背向きの必要性を知った。この例では確かに背抜きをしなかった点に問題があった可能性がある」とのことでした。しかし、また別の意見として、腰椎圧迫骨折では、体位変換・背抜き等は痛くてあまりできない。体圧分散を考える必要があるとの指摘がありました。別の施設からは、エアーマットレスの台数が足りず、腰椎圧迫骨折などにエアーマットレスは回ってこない。との意見がありました。
 これに対し「腰椎圧迫骨折にエアーマットレスを入れると、体位変換ができるのにできなくなってしまう。ウレタンマットくらいで十分だと思う」とのことでした。また、他からは「褥創予防に、ワセリンを仙骨部に塗布したり、ラップを貼っているが、大変効果がある」との意見でした。「それでは体圧分散にならない」との意見が出ましたが「もちろん体位変換やスポンジを骨突出部に使っている」との返事でした。ワセリンやラップが褥創予防効果があるとすれば、ズレ・摩擦対策としての効果や、高齢者に特有の乾燥皮膚対策として有益な可能性があると考えられました。
 いずれにしても、腰椎圧迫骨折の方では自分でどれだけ動けるのかを評価し、動ける人ではエアーマットレスは不要で、せいぜいウレタンマットレスの導入で良く、褥創好発部位の観察が大切であることが指摘されました。
 別の意見としては、消炎鎮痛剤や睡眠剤によって動きが少なくなり、褥創発症につながる可能性が指摘されました。しかし、概ね強力な鎮痛剤は長期間使うことはなく、むしろ胃潰瘍の発症が危惧され、使う量の制限があるようでした。消炎鎮痛剤による胃潰瘍のため、食事摂取量が減る危険が指摘されました。