第104回 「難治の仙骨尾骨部褥瘡・尿取りパッドと生理ナプキンの違い」

2019年9月19日

症例検討会

難治の尾骨部褥瘡症例

前回症例相談の時に提示し意見をもらった症例のその後について提示です。

症例

80歳代男性。難治性尾骨部褥瘡、両下肢不自由、糖尿病、慢性心不全
身長161cm、体重52kg、BMI 20、要介護5

経過

  • 12年前に脳梗塞を発症したが、後遺症なく治癒
  • 10年前に急性冠不全のためステント留置となり、以後抗凝固薬(アスピリン、クロピドグレル)を内服
  • 約1年前に自転車で転倒し帰宅後意識消失しているところをヘルパーに発見され緊急搬送入院。多発外傷と肋骨骨折、膀胱炎にて膀胱カテーテル留置となった。
  • 9ヶ月前に転院してきた。

立位でふらつきはあるが、なんとか車いすに移乗できる。認知症は軽度みられる。
食事は糖尿病食1600kcal、WBC 5320, CRP 1.9, Hb 9.6, HbA1c 6.7, 食後血糖228
NTProBNP 2200

来院後の褥瘡

尾骨部に4×2cm Stage 3, 創底には赤い綺麗な肉芽+ソーブサン+穴あきフィルムで処置開始

  • 6ヶ月前、4ヶ月前と、肉芽があがってきた
  • 4ヶ月前に老人保険施設へ転院
  • 2ヶ月前に発熱と褥瘡悪化で再入院

肉芽は乾燥し壊死していた。
カデックス軟膏を使用し穴あきフィルム法が行われていたが、フィルムはすぐにはがれて創はむき出しになっていたとの申し送りであった
褥創周囲皮膚は赤くこすれたあとがあり、移動するとき、臀部を擦りながらしていることが推察された。

  • 転院後、肉芽は悪化しポケットが肛門に向かって延びてきた。
    ここで前回の研究会に提示され、相談し切開が勧められた。
  • 培養提出にて、MRSA等多剤耐性菌があり、バンコマイシンのみが感受性あった。
    骨盤CT検査で、尾骨の下にairがあり膿瘍を形成していた。
    ポケット切開を実施し、生食洗浄、ユーパスタ軟膏とガーゼ充填、フィルムで密閉し、その上から幅広粘着テープでおさえた。
  • バンコマイシンによる下痢がひどく、創部の汚染がひどかった。
    潰瘍底には肉芽が出てきたが、尾骨は腐骨となって除去され、残った骨が露出していた。
  • 現在、ポケットは頭側へかなり延びており、先端部皮膚は発赤し、同部を押すと痛がり膿が押し出されてくる。

ポケット内に圧をかけて洗浄し、ユーパスタ軟膏を塗布しガーゼを充填しフィルムで固定し、絆創膏で押さえている。

考察

骨に至る褥瘡である。そもそも褥瘡の発症がなぜ起きたのか分からないが、自転車で転んだときに臀部を強打したことが原因ではないかと思う。動くことができず膀胱留置カテーテルで安静にしていたことも、問題であったか。 ADLの改善にて、転院後車いすへの移動が増え、創部へのずれ力が強くなりポケット形成したのではないか。
ポケット内の壊死と感染がある。ずれがあるので切開すると丈夫な皮膚がなくなることが懸念され、ポケット切開するかどうか迷っている。
皆様の意見を聞きたい。

ディスカッション

入浴しているのか?  している
リハビリは?
   継続している。平行棒で歩行訓練をしている。足はふらつくが立てる。移動は臀部を擦りながらやっている。
創の状況は?  尾骨は腐骨となって除去され、膿瘍は開放化した。
食事は?  しっかり食べている。
糖尿病のコントロールに関し、モニターをもっと頻回にしてはどうか。

大きく切開した方が良いのではないか?
悩んでおり、切開すると収拾がつかなくなるのではないか。切開したところにまともにずれと圧迫がかかってしまう。もっとひどくなるのでポケット内部の壊死組織はできるだけ切除している。

移動時のずれ・摩擦対策が優先ではないか。理学療法士や作業療法士から移動の仕方などを指導してもらってはどうか。
移動するときは声をかけてくれるよう話しているが、自分でやりたい方で、いつも動いており、声をかけてくれず勝手にずれながら動いている。
よく動くことは良いことである。自立心があることも良いことなので、やはり本人に動き方を指導することが大切ではないか。
傷の写真を見せたことがあるか?  ない。
写真を見せてひどいことを認識してもらい、移動が原因と話して対策をしっかり伝え、移動の訓練をしてもらってはどうか。
移動の時にスライディングシートなどを使ってはどうか。また使い方を療法士に指導してもらってはどうか。

車いす乗車時にずれは無いのか? 車いす乗車時もスライディングシートなどを敷いてはどうか。移動時や車いす乗車時にスライディングシートを敷いて良い結果を出した人がいる。
車いすはどのような車いすを使っているのか?  移動用の車いすを使っている。
であれば、車いす乗車時にずれて座っている可能性がある。ちょうど頭側にポケットと発赤が延びており、車いす乗車時にこの部に圧迫とずれが生じているのではないか。
確かに、リハビリのために車いすに乗るようになってからポケットができ始めたかもしれない。リハビリを開始しないときはポケットは無かった。
ADLの改善と褥瘡の治療は同時にしようとするとうまくいかない。難しい。
姿勢保持が不十分な方の車いすに関し、出来れば座面にティルトがかかるものが好ましい。しかし、この方の場合、前方が持ち上がったクッションを用い、かつスライディングシートも併用することで、仙骨部のずれを解消し、ポケット縮小に持って行けるかもしれない。そのような前提の元、ポケット切開も選択してよいのではないか。
いろいろな意見が出て、検討するとのことでした。

相談タイム

尿取りパッドと生理用ナプキンの違いについて意見が出ました。両者は高分子吸収体の性能に違いがある。尿取りパッドは水をよく吸い表面がサラッとなる。尿失禁などにはこちらを使う。
生理用ナプキンは、血液を吸収するようにできており、水分の吸収は少なく尿失禁では蒸れやすく皮膚障害がおこりやすい。高齢者女性では、尿失禁に対し生理用ナプキンを使いがちであり、注意してみてあげる必要を指摘されました。