第68回 「繰り返す転倒骨折後褥創と在宅連携」

2013年9月19日

症例検討会

「火傷治癒後、同一部位に褥瘡が生じた症例」

<症例呈示>

90歳代女性。高血圧、アルツハイマー型認知症、骨粗鬆症。
既往に、交通事故で骨盤骨折と片腎摘出、両膝人工関節置換、大腿骨頚部骨折、乳頭癌。息子夫婦と同居している。
身長143.2cm、体重45.9Kg、BMI22.4。摂取栄養 1540Kcal、タンパク60gで、軟飯・軟菜。
日常生活自立度C1、認知症高齢者の日常生活自立度IIb、要介護2。デイサービスを利用していた。

ベッドから落ちて転倒し、右大腿骨骨折したが、手術適応無しとの判断で介護療養型医療施設に入院してきた。両殿部と背部に貼付型カイロによる水疱がみられ、その後潰瘍化した。背部のものは治癒したが、臀部のものは褥創と判断できる状態となった。
CRP 9.14、Alb 3.7であった。アクトシン軟膏処置とし、後にゲーベンクリーム処置、再びアクトシン軟膏処置として、しだいに褥創は改善し治癒した。CRP 0.73、Alb 3.8。約1ヵ月余りで在宅へ退院した。
その後、自宅で臀部から尻餅をつくように転倒し、第12胸椎圧迫骨折し、自宅療養困難で再び入院。脱水、尿閉、尿路感染がみられた。入院前は、前回と同じ両殿部に褥創を発症していた。CRP 8.49、Alb 3.7であった。ギャッチアップを20~30度とし、ベッド上でケアした。当初アクトシン軟膏を用い、その後ハイドロサイト、再びアクトシン軟膏で処置を行い、約1ヶ月半後に、自宅退院された。
退院にあたり、ケアカンファレンスを行い、訪問看護、訪問入浴、ヘルパー導入をすることとし、在宅主治医を捜し往診を依頼した。この時、日常生活自立度C2、認知症高齢者の日常生活自立度IIb、要介護2で、変更申請中であった。
退院後、2日目に永眠された。

質疑応答

会場からは、1回目は車イス、そして歩行器としていたが、なぜ2回目は、いつまでもケアは全てベッド上で行っていったのか。車イスになぜしなかったのかとの質問がありました。
それに対し、実は車イスに乗せたところ意識が無くなったエピソードがあるほど、全身状態が不良であった。退院2日後になくなってもおかしくない状態であったとのことでした。

局所療法について質問があり、ほとんどがアクトシン軟膏使用であった。アクトシン軟膏を塗布し、小さなガーゼをあて、その上からオプサイトを貼付したとのことでした。
体圧分散寝具については、1回目の入院ではプライムレボ、2回目の入院ではアクアフロートマットレスを使ったとのことでした。

会場からは「転倒のリスクが高い方が多いが、皆さんはどのようにしているのか」との質問がありました。
低床ベッド、グリーンマット(5cm位の吸収マット)、ベッド柵などの設置。頻回訪問などの対応をしているとのことでした。
グリーンマットについては、会場からコメントがあり、自分で動ける人には却って危ないので、ベッドから転落する可能性のある方に使用しているとのことでした。
動ける方に対しては、薄めの滑り止め効果のあるワンダーマットを使用しているとのことでした。
「グリーンマットを使って転落したが大丈夫であったことはあったか」との質問に対し、そのような経験はまだしていないとのことでした。しかし、このような対応は、ケア側に多少の安心感を与えるとともに、家族などに対し好印象を与えるのではとの意見でした。
以前いたところでは、動いて転倒の危険のある方には、部屋中絨毯を敷き詰め、その上に直接マットレスを敷いたとのことです。ハイハイなどで動き回るのはOKとし、部屋から出て来たら、「きたないので部屋にも戻ろう」と部屋に戻ってもらったとのことでした。
転倒体操をやっているところがあるとの話も出ました。転倒体操は、殿筋の筋力アップ体操で、みんなで楽しくやっているとのことでした。

眠剤や安定剤により、夜間もフラッとして転倒する場合があるのではとの質問がありました。
夜間に薬で抑えることはほとんどしなくなったとのことです。もうろうとなることがあると、一切そのような薬は中止となる。しばらく暴れても自然に静かになる。薬で抑えることはしなくて良いとのことでした。
夜暴れるからとのことで、抑制帯をするなどは本末転倒のことのようでした。また、最近ベッドから離れると警報が鳴り、職員が駆けつけるという機器が進歩していますが、このようなものを使っている施設はありませんでした。利用者の意見を調べると、このような機器は、利用者にとって、抑制帯と同じく大変不快なようでした。
また、日中しっかり起こしておくことで、夜間ぐっすり寝てもらうとのことでした。
それに対し、介護施設では日中起こしておくことは可能だろうが、在宅では日中誰もいなくなることが多く、日中に寝て夜間に起きることがあるのではとの意見がありました。それに対しては、誰も対策について意見が出ませんでした。
しかし、富山の施設では、夜のデイケアがあり、夕食前から受け入れて、朝帰るとの事でした。日中介護にがんばれるが、夜はゆっくり休んで英気を養いたいという方の需要があるとのことでした。

夜間頻尿も転倒に結びつくと思われるが、何か対策はあるかとの質問が出ました。
トイレに関しては、ポータブルトイレがおいてあると、夜間一人になった時、本当は介護援助が必要な方でも、一人でしようとし、気がついて急いで駆けつけることがあるとのことでした。
日中も「自分でできる」という気になり、失敗する方がいるとのことでした。
ポータブルトイレについては、自分でできる人、介護援助でできる人、日中はポータブル・夜間はオムツの方、下着下げを手伝ってあげればできる方、力なくヘタッと床に座ってしまう方、等々 いろいろな方がいて、対応が全て異なるようでした。
排尿はかなり難しいという印象でした。

こんなに状態の悪い方を在宅へ返すにあたって、いろいろ障害があったと思いますが、なぜうまく在宅へ移行できたのかとの質問がありました。
本人は「どうしても自宅へ行きたい」と願い、家族は「できれば何もしないで欲しい」と希望していた。また自分たちは「何とか傷を治し良くしたい」と思い管理していた。
家に帰る希望はよく分かっており、家族から話しをよく聞いて、必要なサービスを話し合い、訪問看護、入浴サービス、ヘルパー、往診しくれる医師を捜して、退院となったとのことでした。

「病院などから在宅への退院を、うまく行うポイントは何か」との質問がありました。
家族がどのような介護ができて、何ができず、またどのような希望があるかよく聞くことが重要とのことでした。 退院時のケアカンファレンスを開くが、その前に家族からよく意見を聞くことが大切である。医師が「そろそろ退院」といったら、どのようなサービスを受けたいか家族からよく聞く。そしてケアマネジャーに家族の希望を伝えた上で、ケアカンファレンスを開いてもらうことが大切とのことでした。
家族の意向により、ケアマネジャーはケアカンファレンスに、訪問看護師、ヘルパー、福祉用具専門相談員など、必要なサービスに関わる方に声をかけるとのことでした。
こう書いていて、余談ですが、ここで、管理栄養士、OT、PT、ST、歯科衛生士などの関与が、外されてしまうのだなと感じました。

淡々と話された症例提示には、実は施設内で、および本人・家族との緊密な話し合いがあったのだとわかりました。

相談タイム

<症例相談>

90歳代後半の女性で、下腿に白色の壊死が付着した潰瘍があり、ゲーベンクリームを塗布し穴開きフィルムを貼っている。Alb 2.4下腿には浮腫があるとのことでした。長期間経つが治る傾向が見られない。仙骨部にも褥創があり、そちらは同じ処置で治ったがなぜかとの質問がありました。

下腿に拘縮があると、意外に圧迫がかかっていることがあり、それが難治の原因となることがある。圧迫はどうかとの質問がありました。
下肢は伸展拘縮しており、同部には圧迫の可能性がないとのことでした。

次の可能性として、動脈閉塞があるのではとのことでした。仙骨部が治り、下腿が治らないのであれば、下腿のみに治りにくい要因があると考えられる。頻度的に多いのが、閉塞性動脈硬化症(ASO)という、動脈が狭くなり、血流が低下する状態である。
まずは、足背動脈を触れてみる。触れなければ可能性が高い。触れれば、動脈閉塞の関与は否定的である。
足背動脈が触れなければ、次に膝の後ろを流れている膝窩動脈を触れてみる。これが触れないようなら、下腿潰瘍は治らなくても仕方ない。むしろ悪化せず長期間保持されているのであれば、素晴らしい処置と言えるとのことでした。

ASOであれば、一般的には乾燥化させる「ミイラ化」が選択されている。乾燥により創は拡大していく。かといって乾燥化を避けるために、油性軟膏や創傷被覆材で湿潤環境を保つ方法では、血流低下があり壊死組織があることから、創感染は必発で危険である。
そこで選択するのが感染に強く、かつ湿潤環境を維持するゲーベンクリームを使用した穴開きフィルム法である。つまり質問された方の行っている方法は、保存療法としてはベストな方法であろうとのことでした。

今考えるのですが、低栄養も関与している可能性があり、内臓や代謝に問題がないようであれば、カロリーと蛋白の付加が必要と思います。

<DESIGN-Rについて>

DESIGN-Rをつけるにあたって、創部の回りがしわしわで、シワがかぶさった状態でサイズを測るのか、シワを引っ張った状態でサイズを測るのかとの質問がありました。
それに対しては、「側臥位なので、上に引っ張って、創部の一番自然な状態としてサイズを測ってはどうか」との意見がありました。
その他に、潰瘍があり、その周囲に消退しない発赤があった場合、潰瘍のサイズを測るのか、発赤を含めたサイズを測るのかとの質問があり、「発赤の含めたサイズを測るのだ」との見解が示されました。

<円背の方に入れるクッションの代用品>

円背の方の背部から頭部へ入れるクッションは、大きなものが必要であるが、専用のものは高価で購入してもらえない。代用品はどのようなものがあるかとの質問がありました。
専用品と代用品を用いた場合では、やはり専用品を用いた方が成績は良いようなので、その点を説明し、施設であれば是非購入が好ましい。また、在宅であれば、お金が出せるようであれば、是非購入を勧めてもらいたいとの意見でした。
しかし、代用品としては、布団を使っているとのことでした。布団で大きく体を受け、その下に硬めの枕やザブトンなどで形を整えるとのことでした。
毛布ではどうかとの質問に、円背がきつくなければ大丈夫だろうが、毛布ではちょっとボリュームがたりないのではとの意見でした。体への接触は軟らかいものの方が良く、軟らかい物を体と接触させ、その下に毛布などを敷き込んでも良いのではとの意見でした。
ポジショニングは褥創予防・治療には大変重要なのに、介護保険では利用できない。体位変換用枕は介護保険が使える。細かい運用は自治体によるので、実はポジショニング枕も介護保険が使える地域がある。高岡地区でも、皆さんが一致して要望すれば介護保険が通るようになるかもしれないとのことでした。

おわりに

今回は淡々とした症例提示でしたが、ディスカッションでは本当に現場での日々のコミュニケーションの積み重ねがあるからこそだとわかりました。病院から在宅、そして病院、また在宅、しかも看取りまで。このような流れが自然なものなのだと感じました。
質問タイムでも、貴重な意見が聞かれました。