第59回 「ガーゼよりオムツ直接で」

2012年3月22日

症例検討会

<症例提示>

相談結果の報告

まず、1月の当研究会で相談した症例についてその後の報告がありました。
その時ワセリンを塗り、サランラップを切ってまわりをテープで留めていた例に対して、「テープを貼らなくてよいのでは」「ワセリンのみでオムツでよいのでは」などの意見がありました。また、ズレの原因は胃瘻から1日3回、ベッドを挙上してゆっくり滴下するため、ほとんど水平になることがなかったことであろうと説明されました。
半固形化はできなかったが、ワセリンを塗るのみにしたところ、仙骨部はきれいになった。胃瘻も,朝と夕のみにして、カロリーを多めにして、横になれる時間を多くしギャッジアップ時間を少なくしたとのことでした。
皮膚トラブルについても、ミックス軟膏は作れなかったが、風呂上がりにすぐにワセリンを塗ったところ、カサカサにならなくなった。
それまではカサカサになりかゆくなってから塗っていたとのことでした。
身体のポジショニングに関しては、難しくてできなかったとのことでした。
褥瘡委員会は,それまでは褥創に感染がおこった時のみ感染対策委員会として開いていた。それまでは、褥創は難しくて分からないとしていたが、予防していこうということになり、「ベッドの方向を変えてみよう」など、介護さんが自分たちも意見を言うようになり、「予防的な発想」「原因を考える発想」を持つようになり、意見を言ってくれるようになったとのことでした。

症例1

昨日から関わっている80歳代女性。多発性脳梗塞、うっ血性心不全、アルツハイマー型認知症の方で、要介護度4で、日常生活自立度はA2、認知症高齢者の日常生活自立度IIbでした。糖尿病食16単位の常食とのことでした。
胆石の手術をして帰ってきたところ、左踵部に褥創があった。手術時から「へん」であったと申し送りされた。4.5×4.5cmの褥創で、アクトシン軟膏にガーゼ処置が指示されている。
滲出液が多く、シーツを濡らすとのことで、吸収パッドを巻くことにした。
前は、歩行器で歩いていたが、荷重をかけると痛みがあり、車イス対応をせざるを得ない。施設医から指示をもらって処置しているが、アドバイスをもらいたいとのことでした。

症例2

やはり80歳代女性で、老年性認知症、直腸癌術後の症例です。要介護度は5で、日常生活自立度はJ2、認知症高齢者の日常生活自立度はIIbです。主介護者は息子で、2カ所のデイサービスを週5日間利用している。穏やかだけれど、認知症があり対応が困難である。
左腸骨部に褥創があり、治ってきており、処置もない。「乾燥しているから治った」と言われる。創部には赤みがあり、本当にこれでよいのか聞きたい。
認知症で歩いており、褥創に対しては、各デイサービスなどでは、その時々の対応をしている。病院に行くとフィルムを貼られ、いつ換えるとの指示もない。
寝ると同一姿勢でずっとそのままである。
ステージアというマットレスを導入したところ、2~3週間で、写真のように改善した。また悪化すると困るので、アドバイスをもらいたい。

以上のような発表に対し、意見や質問が行われた。

症例1について

まず、アクトシン軟膏とガーゼ処置でいいのか。ガーゼの厚みで圧迫になるのではないかとの質問があり、フィルム単独の貼付にしてはどうかという意見があった。
ガーゼと軟膏指示は、総合病院からの指示であり、良くないのが分かっていても医師からの指示がまだなので、「2日目だしこれでいこうか」となっている。医師に言ってみようと思うが、何を提案して良いのか不安とのことでした。
それに対し、おかしいと思えば止めればよいのではないか。まずは軟膏を止めてはどうか。アクトシン軟膏はよく使われるようだが、マクロゴールの軟膏基剤が入っており、最近使わなくなった。というのは、創部が乾燥し、ガーゼも創にはりついしまう。壊死組織が黒くなり、乾燥してくるようならアクトシン軟膏を止める。さらにフィルムのみにしてはどうかとの意見もありました。
このような足の潰瘍には,ゲーベンクリームが一番良いのではないか。写真の白いのは壊死組織であり、壊死組織は感染をおこしやすい。抗菌作用のあるゲーベンクリームや、滲出液が多いならユーパスタ軟膏などを使ってはどうかとの意見がありました。

ガーゼは滲出液を吸うが保持できず、水分を創周囲皮膚に放出して皮膚の浸軟をおこす。またガーゼは皮膚に固着し創面を傷める。むしろガーゼを使わず吸収パッドを直接創部に使ってはどうか。滲出液が多いなら感染がかぶっている可能性があり、ユーパスタ軟膏を勧める。また滲出液が少なくなったらゲーベンクリームを、さらに少なくなったらフィルムを直接貼ってはどうかとの提案がありました。

歩いていた人でも、病院で手術をすると術後2~3日でもベッド上安静になる。糖尿病のある方では、この短期間のベッド上安静でも褥創を発症する率が高くなる。歩いた方がよいので、このような例には「足袋」というのがあり、これで歩行してもらってはどうかとの意見がありました。
同様に、褥創ができやすい仙骨部に褥創ができていないことからエアーマットレスが使われたのではないか。エアマットを使っても踵の褥創は防げないと言われている。踵の褥創の原因は、ベッドのギャッジアップが原因であり、必ず「足抜き」が必要である。手術をした病院では、足抜き、体位変換、また褥創好発部位の観察をしていなかったのだろう。
逆に言えば、この症例には、ギャッジアップ時の足抜き、体位変換、創部の観察をしっかり行うことが大切であるとの意見がありました。
それに引き続き、ギャッジアップやギャッジダウン時の足抜きは必須だが、どうしても忘れることがある。そのために創部を滑りやすい素材である吸収パッドなどで覆うのはよい方法だと思う。また、他に踵褥創の原因として車イスを忘れてはいけない。
車イスには靴を履いて乗っているかとの質問に、靴を履いていないとの答えでした。車イスは足乗せが硬く、裸足で乗ると予想外の強い圧迫が加わる。さらに移動用車イスなどではサイズがあっておらず、かつ座り心地が悪いので、ドンドン身体がずれていく。そうなると踵部分への圧迫はさらに強くなる。サイズのあった車イスに乗り、靴を履くか、逆に車イスの足乗せの部分にクッションを置くかする必要があるとの意見がありました。

発表者からは、病院へ入院後も情報交換をもっと行い、連携をとれば良かったかとの発言があった。

症例2について

創部を触ると痛みを訴えるのか、また触って熱感はあるのかとの質問に、認知症がひどくて会話が通じない、また受け持ちでなく触っていないとのことでした。
「創部が赤くなっており、大丈夫か」の質問だったが、問題なのは皮下で創感染がおこって蜂窩織炎になっているかどうかである。感染徴候を「化膿の4徴」と呼んで、「発赤」「腫脹」「熱感」「疼痛」の4徴候があげられる。いずれも創感染徴候である。写真では「発赤」があり、「腫脹」が少しあるようにも見える。ここに「疼痛」と「熱感」がみられるようなら、感染褥創となり、厳重なケアが必要になるので、このような質問が出るのだとの解説があった。
疼痛は、認知症で会話できなくても、触って痛みの反応はするので、それで分かるはずとのことでした。
オムツのギャザーが褥創部にかかっているようだがどうかとの質問に、この部分にはギャザーの端はあたっていないとの返事でした。
ここでも、オムツは中央部は吸水性があるが、端のところの1/4くらいはビニールなどと同じで、全く吸水性がない。これが皮膚にピタッとあたっていると、皮膚からの水蒸気が貯まって皮膚を浸軟させる。これは皮膚のバリアー機能を落とし、皮膚感染や創感染をおこしやすくする。このような場合、フィルム材を貼付するのも対策の一つと説明があった。
フィルム材は水蒸気を通すが、オムツとの間で水となった水分は通さない。したがって、湿ってふやけやすい環境下の皮膚にフィルムを貼ると、乾燥して浸軟防止になることが示された。

日中歩ける人なのに、臥床すると動かないのかとの質問に、日中は歩いており、何となく立っている。排泄は紙パンツの中に失禁する。昼間歩いたり立ったりしているために、寝たら疲れてその姿勢のまま動かないとのことであった。
臥床時の体位について、このように同一方向でずっと動かないが、何か良い方法はないのかとの質問があった。
この方は在宅の方で、家の者が手をかけない。体位変換もしないとのことでした。それでエアーマットレスを入れて同一体位でも治り始めたのではと思っているとのことでした。
家人が通りかかった時に、腕の位置を変えるだけでも圧迫部位が変わるので、何とかこのような簡単な方法をやってもらえないか提案してはとの意見があった。

相談タイム

<相談症例>

特養なのだが、2例の1年以上治らない褥創についての質問であった。
1例は、脳血管障害で片マヒ、経管栄養で800~900Kcal、仙骨部に1cm位の褥創があり治らない。
2例目は、脊髄損傷の方で四肢がマヒして動けない。病院へ入退院を繰り返している。経口摂取で1000Kcal程摂っている。仙骨部に1cm程の褥創があり治らない。
これらの症例に関し、栄養をあげて良いのか悩んでいる。アルブミン値は正常である。肉芽を盛り上げる方法はないかを聞きたいとのことでした。

それに対し、アルブミン値が正常でも、水分が足りないために、見かけ上濃くなっているだけではないのかとの意見がありました。
それに対し、脱水はないとのことでした。
会場の管理栄養士からは、もう少し栄養を足して様子をみてはどうか。ビタミンやミネラル強化のドリンクを追加した例では、皮膚の状態が良くなった例があるとの意見でした。本当は1400~1600Kcal投与したいと思うが、医師は800~900くらいで良いとよく言う。
実際は、100~200Kcal位入れてはどうか。実際には、経管栄養であり、総量の問題があるのであれば、1.5倍の濃さのものを使えばよいだろう。さらにドリンクタイプのものを注入してはどうかと思う。他の施設ではよくやっているところがあるとのことでした。
経口の場合は、バランス(株)のプロテインゼリー、飲める方ではブイクレスで強化して様子をみたいとのことでした。

慢性関節リウマチでステロイドを飲んでいる人で、1cm位の潰瘍を治すのに、1年かかった。どうやって治したかというと、慢性難治創ではグロースファクターが出ていないので、創部をゴシゴシ歯ブラシでこすって、グロースファクターを出した。そのたびに大出血したが、そうやってようやく治せたとの話が出た。
実際は、アクトシン軟膏とガーゼ処置は止めて、アクアセルAGを使い始めたところとのことでした。
その話に関し、慢性難治創が治らない理由として、3つの事のいずれかの関与が考えられるとの発言があった。
治りにくくしている理由として

  1. グロースファクターのバランス異常
  2. 創内でタンパク分解酵素の活性亢進
  3. クリティカルコロナイゼーション

1に対しては、グロースファクター製剤であるフィブラストスプレーの使用が勧められた。
2に対しては、十分な創洗浄を行うことがあげられた。つまりチューブと注射器などを使って創深部までしっかりと洗浄することである。また吸水作用の強いドレッシング材の使用も効果が期待できる。
3については、抗菌作用のあるドレッシングの使用が勧められた。1~2週間と決めて、ユーパスタ軟膏やカデックス軟膏の使用が勧められ、期限を決めずに行う場合は、銀の作用を期待して、アクアセルAGやアルジサイトAg等を使用する。
また、切開することで、これら全てを解消することができることより、切開の適応も考慮するのがよいとの解説があった。

まとめ

今回も、いろいろな褥創対策を、原因から考え、栄養や環境、スキンケアなど、いろいろな視点から見ていくことが提案され、楽しく勉強できました。特に栄養に関しては、どの施設でも十分考慮されていることが素晴らしいと感じました。