第65回 「訪問リハビリは希望を叶えるリハビリ」

2013年3月21日

症例検討会

<症例提示>

「大腿骨頚部骨折術後寝たきり超高齢者を変えた訪問リハビリ」

症例:

90歳代後半男性。
もともと要介護度1であった方が、転倒にて左大腿骨頚部骨折し、人工骨頭置換術を受けて3ヵ月後に帰宅したが、寝たきりとなり、要介護度は4となった。寝返りは自立。起き上がりは一部介助。端座位は自立という状態であり、訪問リハビリによる改善を期待された。
トイレは筒状のポータブルトイレがベッドのわきに置いてあり、90歳代の妻の一部介助であった。認知機能は、ごく軽度の記憶力低下のみであった。仙骨部に硬結を伴う褥創があった。
被介護者の希望は、「自力で起き上がり、トイレを一人でできること」であり、妻の希望は、「排泄を一人でできること」であった。
訪問すると、ベッド柵が両側にあり、オーバーテーブルが乗っていた。そのため、テーブルが邪魔で寝返りもしにくく、上にずり上がらないと横になってベッドに座ることができない状態であった。
L字のベッド柵を提案するも、妻が拒否。そこで、かさばらないユニバーサルグリップを提案したところ、了解を得た。柵を外し、このグリップを使うことで、自力でベッドに座ることができるようになり、ポータブルトイレにも移乗できるようになった。
ポータブルトイレは不安定であったので、イスとしても使える家具調の木製ポータブルトイレにしたところ、そこに座って食事もできるようになった。
2ヵ月後には、排泄は自立。人が来たらベッドから起き上がり、挨拶するまでになった。
現在の目標は、「一緒に食堂まで歩いて食事をすること」となっている。

この症例を通じて考えたことは、たとえ90歳前後の超高齢者であっても、諦めずアプローチすることである。まずベッド環境を改善することから始める。
「妻に迷惑をかけたくない」というような本人や、妻の希望を聞いてそれに添ってやっていく。見ためが良くて使いたくなる福祉用具を導入していく。一気にいろいろ導入すると信頼関係を壊すので、少しずつやってくことが大切であった。

開場からの質疑応答

会場からはどのような人が訪問リハビリの対象かとの質問に、どのような人でも対象で、「外に出たい」「仕事を復活したい」など何でも良い。要支援くらいであれば行けるとのことでした。
また、費用は20分1単位で305円だが20分では不十分で、2単位40分で610円の支払いになるとのことでした。

手すりはどのように取り付けるのかとの質問に、置いてあるのみで、ベッドにつけるのではない。ベースの部分が広く重いので簡単には動かない。この例ではベッドの足を乗せているので絶対に動かないとのことでした。ソファーの横にも付けられるとのことでした。
費用は、月200~300円くらいのレンタルとのことでした。
L字のベッドにつけるような柵もあるが、このベッドに付かなかったのと、妻が拒否したのでこれを考えたとのことでした。オプションで小さなテーブルも付くが、家の人が「要らない」といったので撤去したとのことでした。
会場からは小さくて使い勝手が良さそうとの話し声が聞かれました。

訪問リハビリはどのようなリハビリなのか、機能訓練や生活リハビリのどれに当たるのかとの質問がありました。
機能訓練は受け入れられやすい。例えば介護をしている妻が肩関節痛を訴えた時、夫にやっている運動を妻にも有用なように変えて、夫婦でやるよう勧めたところ、両方で改善がみられた。これはサービスで行ったが、大変喜ばれた。
その他の例として、例えば1ヵ月限定のリハビリもあった。「1ヵ月後に法事があり、仏壇が2階なので、2階に5分であがれるようにしたい。」また「法事が終わった後、10分の間に2階から下まで降りられるようにして欲しい」との要望だった。階段の上り下りの練習をいきなり始め、家人に介助法も教え、すぐにクリヤーできたこともある。在宅は希望をかなえるリハビリである。

施設でのリハビリは、可動域訓練で終わってしまう。職員も本人もモチベーションが上がらない。どうすればよいのかとの質問があった。
それに対し、「リハスタッフしっかりしろよ」と言いたいとの答えでした。また、初めはモチベーションを保つために、単純で効果ガがすぐに上がるようなものをやると良いとのことでした。
またリハスタッフは先生と呼ばせない方が良い。自分がしてあげるのではなく、手助けするという感覚が大切である。
ユニフォームも大切で、白衣では先生と呼ばれ、気楽でなくなる。

会場から意見が出ました。
褥創ケアもリハビリも、もっと在宅の現場で治すことが必要ではないか。
褥創も入院して、栄養を付け、WOCNがアセスメントと対策を行い、言語聴覚士やその他の職種のものが加われば、ほとんど100%の褥創は治ってしまうだろう。しかし、ずっと何年も入院を続けるわけではなく、在宅へ戻る。であれば、在宅の現場で生活しながら、褥創の予防をし、できた褥創の治療をしていく。その際、生活を変えるのか、生活を続けながら他のところで改善するのかが重要と分かってきた。
リハビリも、脳梗塞後など、機能訓練を行い発症前の状態へ早く戻すことは重要だが、戻らなかった場合、外来通院し、同じようにリハビリを続けていっても、生活の場とかけ離れており、モチベーションが上がらないだろう。
その時、在宅で何をしたいのかを知り、在宅の様子もみることで、福祉用具使用や家の改造を含めた総合的なリハビリによって、本当の社会復帰ができる。
半身不随だから全てを諦めるのではなく、それでもしたことがあるのであればできるようにするのがリハビリではないか。
また、石川県で対麻痺の方が「パラグライダーをやりたい」と希望され、リハビリ訓練することで、かなり短期間で可能になったとの話しも聞いたことがあるとのことでした。

障害があってもやりたいことをやる。それを可能にするのが訪問リハビリのようでした。
なお、アピールとして、「この研究会は作業療法士の生涯教育のポイントになるので、是非作業療法士の方に声をかけて欲しい」との発言がありました。

相談タイム

相談1.真菌症例にゲーベンクリームの使い方

講義の中で、褥創周囲皮膚真菌症の人へのゲーベンクリームの使い方について質問がありました。
抗真菌薬は、アスタット、アトラント、ニバジールなど、いろいろあり、どれでも良いでしょうが、まず皮膚に真菌クリーム剤を塗り込む。次にゲーベンクリームをたっぷりと塗り、オムツや尿取りパッドで直接被うと説明されました。交換は、オムツを替える時にまだゲーベンクリームが残っていればそのまま、残っていなければゲーベンクリームを追加塗布。石鹸で洗うようなら、真菌クリームも塗り直すとのことでした。

相談2.動脈閉塞の足へのフィルムの貼り方

足の褥創潰瘍にゲーベンクリームを塗った後、どうやってフィルムを貼るのかとの質問でした。
ゲーベンクリームを潰瘍部に着けた後、18G注射針で穴を開けた大きめのフィルムで足の指を全て含めた形でべたっと貼り、横の方は合わせておしまいと話されました。
穴の多さは、2~3mm間隔という方や、1cm間隔という方など、さまざまで、適当でよいとの意見もありました。
フィルムを貼った後は、大きめの尿取りパッドや、シート状の吸収パッドで足全体を覆い、ブーツ状に覆うとのことでした。
利点は、
①動脈閉塞の足は温めても冷やしても良くなく、保温のみが一番良いため、このように吸収パッドで大きく覆うことで保温になる。
②穴開きフィルム材から漏れ出る滲出液をうまく吸収してくれる。
③ゲーベンクリーム塗り直しの時に汚れたパッドをそのまま吸収体として足の洗浄が行えて経済的。
との理由でした。

相談3.難治性の仙骨部小型褥創

仙骨部に褥創があり、1cm位と小さいが3ヵ月以上治らず、中心は黄色の壊死になったり赤い肉芽になったりを繰り返す。
壊死はグラニュゲルで肉芽になり、アクトシンで表皮化をはかると黄色壊死になる。ポケットも2~3mmのものができる。とのことでした。

それに対し、いろいろな質問があり、その答えです。
褥創は仙骨というより尾骨部であり、水平に寝ている時にあたる部分ではなく、食事でギャッチアップする時に圧迫とズレがかかる部位のようでした。
寝返りはできず、ベッドをギャッチアップして経口で食べている。介助で食べているが、目は閉じたままで反応は余り良くない。
四肢は多少拘縮があるとのことでした。やや肥満気味である。
体位変換は、水平に寝ている時のみで、15度くらい。車イスには半月前くらいから乗せている。

出た意見としては、
食事姿勢の時は、膝の下だけではなく、大腿部、下腿部、足裏など、広い範囲で圧を受けるようにすると良い。
恐らく、考えているように、ギャッチアップ姿勢が問題と考えられるが、関わっているスタッフ全員、あるいは4~5名の代表者が集まり、原因を考え、次に対策まで話し合いをしながら考えてはどうかとの勧めがありました。
一人が対策をたてても、他から見向きもされないかもしれない。しかし皆で対策を考え合意したら、それぞれが持ち帰り全員で統一したケアができるだろう。その上で、また2週間後などに評価をし、良ければ継続、悪ければまた話し合うなどしていってはどうかとのことでした。