第35回 「ストーマケア技術・褥創と脱水栄養」

2008年3月20日

1.腸管ベーチェット病患者のストーマ周囲皮膚障害

<ストーマケアで専門家との連繋が望まれた症例>

症例提示

 症例は病院で治療中の10歳代の女性です。生後2ヶ月から発症した腸管ベーチェット病のため、小腸ストーマになっています。一日1500~3000mlの排液があります。ストーマ管理困難なため、せっかくの入学も出席日数が足りなくなり、病院入院の上、養護学級への通学となっています。
 使用装具はアシュラセルフプレートER 40mmで、手術した病院での選択を踏襲しているとのことです。ストーマは軽度突出していますが、ストーマ周囲には全周性に1~2cmのビランがみられ疼痛が著しいようです。ツーピース型の装具の面板は1日2~3回の交換が必要になるようです。
 学業成績は良いのですが、隠れて食べるなどがみられ、またストーマ閉鎖を望んでおりセルフケアへの熱意に乏しいようです。病院の看護師のストーマケア技術は未熟とのことでした。

ディスカッション

 このような例に対し、装具交換時はストーマ周囲皮膚を石鹸で洗い、濡らした不織布ガーゼでふき取るのが良いとアドバイスがありました。
 面板のストーマ口の質問に対し、ストーマ外来を受診した際、面板のカット時はビラン部分を出して開けるようにとの指示があり、そのようにしたらだんだんビラン部の大きさが大きくなってきたとのことでした。
 「写真ではビランなのか粘膜なのかはっきりしない」との質問に対し、「この部は触ると痛みが強い」とのことから、粘膜ではなくビランであると結論されました。
 会場からは、ストーマ外来の指導は間違っており、ビラン部は創傷と考え、ハイドロコロイドドレッシング材などで覆い、便の付着を避け、表皮化を図るべきとの意見が出ました。また、コンベックス装具を用いることも提案されました。
 デュオアクティブなどの創傷被覆材で覆い、その上から凸面装具の使用が良いだろうとの意見で、表皮化まで毎日の交換が必要とのことでした。
 いずれにしても、ストーマケア技術で便漏れの無い生活が可能であろうとの意見が出ました。そのためには、「皮膚・排泄ケア認定看護師」のいるストーマ外来の受診を勧められました。
 ストーマケア技術を使うことで、便漏れの無い生活が可能となり、学校への通学も可能になるかもしれない事が示されました。
 別の方から「ストーマを持つ人は自分の不幸を考えるようだが、ケアがうまくいくとストーマを気にしなくなり、ストーマを持ったことに感謝するようになる例を多くみている」との話もありました。いずれにしても適切なケアを受ける事が大切との意見でした。

2.難治の仙骨部褥創

<尿路感染対策や局所療法の変更を勧められた症例>

症例提示

 80歳代女性で、パーキンソン病、糖尿病、高脂血症、神経因性膀胱、尿路感染症のある、寝たきりの方の仙骨部褥創について提示されました。
 身長は148cm,体重49Kgとの事で、全粥の1/3を経口摂取し、中心静脈栄養も併用されているとの事でした。現在インスリンはノボリン30Rを、朝16単位、夕8単位用い、中心静脈には28単位のノボリンRが入っているとの事でした。
 8ヶ月程度の入院経過中、アルブミン値は、3.0~3.2程度でした。HbA1cは入院当初は7.4、最近は8.5とコントロール不良です。投与栄養は、食事とIVHの合計でエネルギーは1318Kcal、水分は1494ml、蛋白は50gとのことでした。
 局所療法は、陰圧閉鎖療法、イソジンシュガー療法、ティエール、ゲーベンクリームなどと、月2回の褥瘡検討会で検討され変更されていったとのことです。多少の改善はあるものの、あまりはっきりとした改善はみられていません。

ディスカッション

 このような例に対し、会場からは体圧分散に関する質問があり、アドバンを使用中で拘縮もあるとの返事でした。
 栄養摂取量についての質問があり、投与カロリーに変化がないのにHbA1cが悪化しているのはおかしい。おそらく最初は経口摂取量が少なかったのが、最近多くなったのではないか、あるいは糖尿病の状態が悪化したのだろうとの質問がありました。それに対し栄養投与量は変わらないとのことでした。
 摂取栄養量が変わらなくても、感染があるとインスリン抵抗性となり、糖尿病のコントロールが悪くなる。糖尿病のコントロールが悪くなると感染がよりおこりやすくなるという悪循環になることが示されました。そして、感染のコントロールをまず優先し、糖尿病の悪化についてはインスリン量の増加が必要との意見が出ました。
 それに対し、インスリン量は大量に用いられており、これ以上無理とのことでした。

 褥創からの滲出液についての質問があり、そんなに汚くないとのことでした。したがって深部感染は否定的で、褥創による発熱は考えにくく、やはり尿路感染によるものとの意見が出ました。
 この時、「膀胱留置カテーテルが用いられている時は100%尿路感染がみられ、感染の広がりを抑えるには膀胱内圧を高めないことが大切」との発言がありました。「この時重要なのは、尿量を増やすことであり、尿量は1500ml以上を保つことが原則だ」とのことでした。摂取水分量1400mlではいかにも少なく、これでは尿量は700ml程度しか出ないはずであり、褥創から滲出液があることを考えると、もっと少なくなってしまうとのことでした。
 尿の濃縮が起こり、カテーテルが詰まりやすくなる。尿のカテーテル詰まりの原因は塩類尿であり、塩類の結晶ができてしまうとのことでした。単純レントゲン写真をまず撮り、膀胱部分に結石が写るようなら除去が必要とのことでした。
 また、結石が写らないようなら、クランベリージュースを飲むと沈殿が少なくなって詰まりにくくなるとのことでした。
 さらに、介護力があるようなら留置カテーテルを抜去し間欠導尿が勧められるとのことでした。ただし、この場合は1日6回以上の導尿が必要でスタッフのマンパワーがいるとのことでした。

 改めて食事の質問があり、この方の経口摂取を増やせるのではとの意見に対し、もっと食べられると思うとの印象でした。管理栄養士と相談し、中心静脈栄養の量を減らしながら、経口摂取量を増やし、経口摂取のみに持っていくことが勧められました。

 局所療法については、陰圧閉鎖療法のスライドでは吸引チューブがポケット内へ入っており、これではチューブは詰まって密閉が保てなくなり、やり方が違うとの指摘がありました。またティエールを週2回の交換ではポケット内に感染が起こり創治癒遅延になる。穴あきフィルム材を貼るだけでもよいだろうとの意見が出されました。また、別の方からアクトシン軟膏をこのような例にはお勧めではなく、オルセノン軟膏の方が良いのではとの意見でした。
 また、ポケットが長期化し、辺縁部のまくれ込みがあることから、外科的にポケット周囲を切除切開することが勧められました。切開の後はしばらくイソジンシュガー軟膏を使うことが勧められました。

 密閉吸引法について質問があり、どのような褥創に使っているのか、またいつ止めるのかとの質問がありました。これについて私が見解を述べました。
 密閉吸引法は中くらいの大きさの褥創の場合はポケットがあり、内部に壊死の無い時で、治癒が遷延している時に使います。小さな褥創にはあまり使いません。あるいは巨大な褥創で、やはり感染や壊死の無い時に創のサイズを早く小さくするために使います。
 密閉吸引法をいつ止めるかに関しては、中程度の褥創ではポケットが無くなって創辺縁部からの表皮化が始まった時期、あるいは巨大な褥創のサイズが一般の局所療法でも容易にできる程度になった時です。密閉吸引法はチューブをつなぐことから活動性を制限し、他の方法でも治癒速度が変わらない状態になったら継続せず変更を原則にしています。

 同様に、密閉吸引法でポケットの内部が深く壊死があるかどうか判定不正確の時はどうするのかとの質問がありました。
 ポケットが深い時は内部に壊死があることが多く、またポケット褥創に関する調査では、4cm以上のポケットでは保存的療法での治癒は望みにくいことから、まずはポケットの切開切除を行っています。そして旧ポケット内の感染を消退させ、壊死組織を無くします。その時点で切開後の三角形の部分の癒着が悪いなど、治癒遷延傾向があった場合に密閉吸引法を行っています。したがって壊死組織の無いことを確実に診断して行っています。深いポケット褥創に密閉吸引法を行うことはありません。

 密閉吸引法と他の方法で治癒速度はだいぶ違うかとの質問がありました。
 密閉吸引法を行う時は、従来の方法で治癒が遷延している場合であり、密閉吸引法で初めて治癒が進みます。したがって治癒速度の差ということになると、治癒しないものと治癒が始まったものとの差となり、無限大の差とも言えるように思います。
 このように、少なくとも私にとっては密閉吸引法は限定した使い方になっています。

3.まとめ

 今回の症例提示は、現在進行中の難治例の提示でした。いずれも会場から改善への重要なアドバイスが多く出され、提示された症例の今後に期待される内容でした。
 ケア方法の変更によって、今後どうなったかを知りたいと思いました。良い結果が出ればと思います。