第33回 「難治褥創・在宅の看取り」

2007年11月15日

1.難治褥創にも対策がある

 1例目は90歳代女性で、左大腿部骨折、認知症、左臀部褥創の方で、要介護5でした。ブレーデンスケールは11点で、痩せと拘縮があるとのことでした。Alb値は2.4、血小板値 13.7、Ht 34.7と低栄養でした。訪問看護は週1回入っており、皮膚科の往診による指示にて処置をしていたとのことです。
 右側臥位になることが多いのですが、褥創は左臀部に発症したとのことです。発症後2週間から訪問看護がスタートしました。まずエアーマットレスを導入しユーパスタ軟膏による処置が始まりました。創はどんどん改善し2ヶ月で表皮化治癒しました。

 2例目は80歳代女性で、全身拘縮があり動けません。ブレーデンスケールは9点で、発症後9日目から訪問看護が始まりました。既にアドバン(エアーマットレス)が使われていたのに褥創は仙骨部に発症したようです。  形成外科を受診し、その指示でアクトシン軟膏を使っていきましたが、治癒傾向はないとのことでした。
 3時間ごとの体位変換をし、姿勢保持には三角形クッションのナーシングパッドを使っているとのことでした。

 これらに対して、まず2例目ではアクトシンはどのように用いるのかとの質問があり、ガーゼを用いているとのことでした。それに対し、アクトシン軟膏は水溶性であり創面を乾燥させるので、ガーゼを用いるのは勧められず、軟膏を用いた上から直接フィルムでカバーすることを勧めるとの意見が出ました。
 ガーゼを用いると創面が乾燥するだけではなくガーゼが創面とくっついていつまでも表皮化しなかった経験があったためとのことでした。
 他の方から、軟膏に直接フィルムを用いるのであれば、フィルムにあらかじめ18Gピンク針で穴を開けてから貼付すると皮膚の浸軟予防ができるとのアドバイスがありました。
 しかし、さらに、アクトシンは表皮化に有効なものであり肉芽形成に適さない。この場合肉芽の盛上げが目的であるから、オルセノン軟膏やフィブラストスプレーを用いたほうが良いとの意見が出されました。この点に関し、形成外科の先生に指示を仰いでみると発表者は答えました。

 形成外科受診に関して、せっかく往診してくれる皮膚科医が居るのであれば往診してもらってはどうかとの質問が出されましたが、形成外科で以前褥創の手術をして治してもらった経緯で形成外科受診が行われており、難しいとのことでした。

 別の方から、褥創は以前乾燥させるのが正しいと思っていた。下腿で良くなったり悪くなったりを繰り返す汚い難治褥創に対し、1日2回よく洗浄した後食品用ラップのみを貼る方法を指示され、びっくりするくらいきれいに治った経験があった。本日の湿潤環境の講義を聞いてなぜ湿潤環境でなければならないのかがよく解ったとの感想がありました。また、その方はユーパスタ軟膏を用い、その上からデュオアクティブを貼って1ヶ月くらいですみやかに治った例もあると話されました。これも湿潤環境によるものだろうと思うとのことでした。

 提示された写真では褥創周囲皮膚に白くなったところがあり、以前褥創がありその治ったあとにまた褥創ができたのではないかとの質問があり、そうだとのことで、この形成外科医が処置して治ったのだとのことでした。
 それに対し、瘢痕組織の上に肉芽が乗りにくく、治るのにすごく時間がかかったり治らなかった例があり苦労していると会場より質問がありました。
 それに対し、深い褥創が治ったあとは瘢痕治癒といって硬い瘢痕組織の上に薄い表皮が乗り、この表皮には毛嚢や皮脂腺・汗腺が無く、表皮剥離でも治癒にはこれら皮膚付属器からの表皮化は望めず、創周囲からの表皮化しか起きない。
 したがって小さなものでも肉芽ができて周囲からの表皮化のため、3~4ヶ月を要する。まして大きなものでは5~6ヶ月はゆうにかかってしまう。また創の収縮も起きにくい。一見浅く見えても時間がかかるとのアドバイスが出されました。
 しかし、ちゃんと湿潤環境を意識すれば肉芽の盛り上がりや表皮化は初発例と比べても治るのに時間が余計かかるとは思えないとの意見が出ました。
 いずれにしても、瘢痕治癒した褥創の再発例は、治癒に時間がかかることは確かと考えられました。

 エアーマットレスについて疑問だがされました。アドバンが入っているのに褥創ができてしまったということは、予防が適切ではなかったのではないかとの意見でした。瘢痕治癒した褥創では汗や皮脂が出ず乾燥傾向になる。スキンケアが大切で、硬い組織の上に薄い表皮が乗っており、愛護的なケアが必要との意見でした。
 これに対し褥創が治癒した部位がそんなに脆いとは知らず、特別なケアはしていなかったとの反省が述べられました。
 具体的なケア方法について質問がありました。油性軟膏の塗布と、ズレ摩擦を避けること、および危険部位と認識して毎日皮膚を観察することが勧められました。そして異常があれば早期に対応することの必要性が述べられました。

 体位変換については、在宅で3時間ごとの体位変換はきついので、自動体位変換機能のついたエアーマットレスを使ってはとの意見が出されました。しかし、恐らく拘縮の強い例での自動体位変換は危険と思われました。
 また、ナーシングパッドが良くないのではとの意見も出されました。パッド挿入時や体位保持時にズレなどが起こっていることが考えられ、そのために褥創の横方向にポケットができたのではないかとの意見がありました。
 体位変換はきちんと30度とかにする必要はなく、肩や腰にそっとマクラなどを入れ、若干向きが変わる程度で良いのではとの意見がありました。
 以前話された、エアーマットレスの下にマクラを入れて傾けるという方法もいいかもしれません。

 このように多くの意見が出され、難治褥創に対して、いろいろな観点からの具体的改善策が示されました。

2.在宅での看取り

 ケアマネージャをしている発表者からは、まず居宅支援や居宅支援事業とは何かについて解説がありました。  そして50歳代男性とかかわりお別れまでの1週間についてドキュメンタリーのように経過を話して下さいました。
 切除不能な胃癌術後で、腹膜播種があり肝門部リンパ節腫大のために黄疸となっていました。抗癌剤も無効で経口摂取不良のために再入院となりました。補液やステロイド投与、制吐剤やデュロテップパッチ等が使用されました。
 入院13日目に病状説明が本人と家族になされ、末期癌であることは本人に話されましたが、余命1週間程度であることについては家族のみに話されました。
 本人も妻も家に帰りたいと願ったため、ケアマネ(発表者)に居宅支援の依頼が来ました。サービス担当者会議が開かれました。
 妻・看護師・緩和ケア認定看護師・訪問看護師・ケアマネによる構成で話しがもたれ、妻は「1日も早く自宅に戻してほしい」と訴えました。患者本人は状態が安定したら帰ろうと思っていたようですが、毎日状態は悪化していくため、土・日曜の外泊をまずしてみる提案が妻からなされました。しかし、週末は在宅支援事業が十分にできないため週末は避け一気に家に戻ることになりました。帰宅については妻から本人に勧めてもらい了承を得ました。
 吐気に対する持続皮下注射も在宅でうまくいくと解り、さっそく帰宅となりました。在宅支援診療所の往診医も見つかりました。2モーターの特殊寝台、点滴台、ポータブルトイレもレンタルし、自分での体位変換がができなくなるためエアーマットレスは避けウレタンマットレスが選択されました。
 問題は、帰宅した日は規定で訪問看護等が入れないことでした。そのため、家に入るときに動けなくなり裏口から帰ったのが妻の悔やみとなりました。しかし、本人は「家に帰れた」妻は「無事に帰れ一安心」とのことでした。
 帰宅後は、翌日早朝から点滴トラブルで緊急訪問看護の依頼となり、毎日早朝からの対応に追われたようです。
 昼間は患者さんが一人になるため、ヘルパーが入ることになりました。
 往診医が訪問するときには担当者会議が開かれました。
 帰宅4日目の早朝に永眠されました。
 4日間の帰宅でしたが妻は連れてこられてよかったとのことでした。式場へは入ってこられなかった玄関からの送り出しになったとのことでした。

 この発表に対し、以下のディスカッションがなされました。
 在宅での看取りはうまくいかない方が多いが、今回在宅の看取りができた要因は何かとの質問がありました。本人・家族が希望したこと、往診医が確保できたこと、24時間対応の訪問看護があったこと、サービスの調整ができたこと等、全ての条件がそろったことによるとの感想でした。

 会場から濃厚な在宅の看取りができてうらやましいが、これが4日間であったからよかったが、例えば1ヶ月くらい続いたらどうなっていただろうかとの感想が出されました。 長くなると医療スタッフもそうだが、家族はもっと負担がつらくなるとの話でした。

 ケアマネとしては、看護師のケアマネは医師に話すのに抵抗はないが、看護師以外のケアマネも多く、この方達は医師に会うにあたっては大変な心理的な抵抗感があり緊張する。是非医師の方は優しくケアマネに接してほしいという意見が出されました。

 また、在宅の看取りはマンパワーの問題だと思うが、このような人を訪問看護ステーションは何人くらい抱え込むことができるのかとの質問が出されました。医師はチームを組んでやっておられる方がおり、訪問看護も2ヶ所くらいで一人の方に取り組み、負担を分散することも必要だろうとのことでした。
 参考までに例えば230件くらい抱えている訪問看護ステーションが、280件くらい持つことがあり、休みが無くなってしまう。このような時には「そういうのを持ってこないで」と考えてしまうだろうとのことでした。

 特養で働く管理栄養士から、カンファレンスに参加すると目標は「在宅に返してあげたい」「なるべく看取りは家族で」という点が挙げられる。今後在宅の看取りが増えるにはどのような連携で行えばよいのか、また施設も訪問をしていかなくてはいけないと思うが成功させるためには何が必要かとの質問が出されました。
 それに対し、まずは医師が必要で医師がいないとダメだとのことでした。また24時間対応の訪問看護が必要で、それに地域のボランティアなどの介入が必要になり、これらをケアマネが調整していくことだと思うとのことでした。

 担当者会議を開けと言われるが、開業医の参加は難しい。ところで大病院の医師は、介護保険の事情をほとんど知らず、訪問看護指示書や主治医意見書を書いた場合でも、自分は専門医であり、専門分野しかわからないのでトータルでみるならかかりつけ医を見つけなさいと言ってしまう。なかなか医師との連携が取れない。との意見が出されました。
 それに対し、医師の卒後研修が義務化され、多分野をローテートすることが義務化したけれど、医療現場ではそれと相反する傾向がより濃厚になっている。つまり、より専門分化し、外科の世界で言えば、外科は手術のみをし術後の抗癌剤も内科専門医に任せ、さらに術後管理まで内科医が行うようになってきている。それどころか外科の領域でも例えば大腸外科医は大腸の手術のみで胃の手術や肝臓の手術すらしなくなっている。効率が優先され、より大量の患者を効率良く処理することが望まれている。
 そのようにして育った医師が50~60歳くらいで開業する。このような専門医師がトータルに人を診て判断することができるのだろうか。
 現在の医療の目指すものがよく解らなくなっている。在宅医療は今後必要と言われているが、状況は大変難しいものと考えられるとの意見でした。

 在宅の看取りというドラマのようなテーマでお話を聴きましたが、身の回りの世界でこのようなことが起こっていることに大変感銘を受けました。しかし、制度としては本当に存在するものの、この恩恵を受けられる方は大変な偶然が重ならないと無理ではないかという気がしました。
 偶然によるものではなく、もっと感動が薄くてもいいから、必然として受けられる医療や介護の保証も必要だなと感じました。