第46回 「アルツハイマー型認知症に発症した褥創例」

2010年1月21日

1.認知症進行で寝たきりになるも、入浴にて治癒が進んだ褥創例

症例は80歳代女性で、夫と二人暮らしで、二人ともアルツハイマー型認知症の方でした。 7年前に頻尿になり泌尿器科に入院した既往があります。その頃から徘徊や失禁、意味不明の言葉がみられるようになり、外出して家に帰れないことも起こるようになりました。
5年前頃から昼夜を問わず徘徊し、包丁を放さないなどの問題行動を行うようになりました。
3年前に入院となりました。声かけにうなずくのみで、下肢筋力の低下から歩行は困難でした。脱水と栄養不良がみられましたが、入院後は1日1600Kcal、蛋白質70gの食事を全量摂取しています。
関節拘縮があり、2年前から仙骨部にビランがみられ褥創を発症しました。スクロードパスタ処置が行われました。黒色化し、1年半前にはポケットを伴う4×2.5cmの褥創になりました。ゲーベンクリーム処置に変更になりました。
褥創発症と悪化の原因は、バルーンカテーテルは挿入されていましたが、尿漏れで皮膚をかいたのがきっかけでキズが悪化したこと、寝かせきりにしないため車イス乗車となっていたが、その時の圧迫・ズレ・摩擦が生じていたと考えられたこと、および食事摂取量の低下などが考えられるとのことでした。
この時、Alb 3.0、Hb11.1、体重40Kg でした。身長は145cmです。プレーデンスケールは14点でした。
基準入浴は週2回ですが、スキンケア重視のために、週4回の入浴に変更されました。
半年前には褥創入口部は縮小しピンホール状となりましたが、ポケットが少しみられます。この時Alb 6.3、Hb 14で、体重は52Kgでした。
経鼻胃管による栄養投与は1日1500Kcalと、追加で水分800ml/日投与されています。
ウレタンマットレスをアドバンに変更されました。創処置は、1日2回、スクロードパスタを用いてガーゼで押さえ、フィルムで固定されました。
入浴によって創傷治癒が促進したことを評価し、また車イス移動時にも自然な体位を試みたこともよかったと話されました。
最後の感想として、入浴によるスキンケアは大変重要であり週2回を4回にしたことがよかったとのことでした。壊死組織があっても入浴とシャワーで取れていたとのことでした。
また日常生活の中で、常に予防的ケアに努めているとのことでした。

会場からは、週4回の入浴はきつくないかとの質問が出ました。
それに対し、全員ではなく、褥創の人には回数を多くしているとのことでした。
またどのように入浴を行っているかとの質問には、ケアーバスやネットバスがあり、車イスに座れる人は、職員が介助して一般の風呂に入れているとのことでした。
湯船に入っている時間についての質問に対し、大体5分以内だとのことでした。
また、皮膚の洗い方に関しては、全身シャンプーを用いていおり、綿のタオルも使っているとのことでした。
皮膚の弱い人には、特別なものを用いているとのことでした。乾燥皮膚については、本人持ちの軟膏をつけているが、良いものがあれば教えてほしいとのことでした。
入浴介助には、衣服の着脱に3人、入浴には2人が行い、午前中に10人ほどお風呂に入るとのことでした。

現状において、投与カロリーは1100Kcalと減らしているが、体重が57kgと増加しており、対策はよいのかとの質問がありました。
寝たきりで動かないと、代謝が低くなり、必要エネルギーが減るため蛋白質崩壊がおこって、筋肉が減り脂肪が付いていくとの指摘がありました。そのため、手足などを動かすなどの運動をして、中心性肥満を予防しないと心不全などを起こしてくるとの発言がありました。
蛋白質が不足した時も筋肉崩壊が起こり、カロリーが充分あれば、脂肪が増えていく。カロリー、蛋白質の両方が必要との意見がありました。同様に、カロリーとしては1200Kcal、蛋白質40g程度の投与がよいのではとの複数の意見が出ました。さらに中性脂肪や総コレステロール値などの測定が勧められました。

2.認知症があり右半身麻痺の方の左腸骨部難治褥創

症例は80歳代女性で、肺結核とアルツハイマー型認知症の方です。
1年前に入院されましたが、左腸骨部に褥創を発症し、現在も難治の状態が続いているとのことでした。
入院時Alb 2.5でした。抗結核薬を1年間使われ、最近終了となりました。
中心静脈カテーテルが挿入されていましたが、最近抜去となり、現在経鼻胃管による経験栄養で、1000Kcal投与されているとのことです。
処置はゲーベンクリームを使用され、半年前にデブリードメントが行われたとのことですが、処置はずっとゲーベンクリームを使用していたとのことでした。
拘縮があり、左手をよく動かし褥創のある左腸骨部をひっかくので、家族の了解のもとミトンによる抑制を行っているとのことでした。入浴は週1回で、陰部洗浄を毎日行い、週1回清拭を行っているとのことでした。
なかなか治らないので、アドバイスがほしいとのことでした。

会場からは、処置法と経腸栄養の具体的な点の質問がありました。
処置はゲーベンクリームを塗布し、折りたたんだ1枚のガーゼを用い、その上からフィルム材を貼っているとのことでした。栄養剤は1000Kcalで、Vクレス1本も投与しているとのことでした。水分の投与はこのほかには行っておらず、尿量は1000~1200ml/日とのことでした。ベッド上寝たきりで、エアーマットレスはビッグセルエアマスターを使用しているとのことでした。

創周囲皮膚が白色になっており、これは新生表皮ではなく過剰な湿潤による皮膚の浸軟であるとの指摘がありました。また、肉芽の色が白っぽく元気なくなっているが、これはゲーベンクリームの銀によるダメージではないかとの意見でした。創からの滲出液が多いので、クリームではなくユーパスタなどの水溶性軟膏が勧められるとのアドバイスがありました。

体位についての質問に対し、左腸骨部の褥創なので、右側臥位を取らせるが、すぐ手を持っていって動くので、治癒が図れないように思うとのことでした。
それに対し、右手を動かさず左手を動かすのであれば、右半身麻痺があるようで、その場合麻痺側を下にすると不安が強く、左側臥位になっているのではとの質問に、そうだとのことでした。

9時方向にポケットがあり、この場合ズレはどっちの方向に働いているのかとの質問がありました。
これに対しては、左腸骨部の褥創を側臥位にして枕を入れてさらに左方向へ押しつけるようにすると9時方向にポケットができるのであろうとの意見でした。しかし、いろいろかケースが考えられるので、フィルムなどを貼付してどの方向に剥がれていくかをみるのが一番はっきりするとの意見がありました。
いずれにしても、ポケットの持続には圧迫とズレの両方が働いており、体位変換の時に、ズレが起こっていないかチェックすることが勧められました。

右に麻痺があるとすれば、仰臥位と左側臥位が適切であろうとの意見でした。そして、体圧分散効果の高いエアーマットレスのようなので、あまり激しく側臥位にせず、軽く無理のない程度の側臥位にしてはどうかとの意見が出ました。

フィルムについての質問があり、IV3000が使われているが、なぜ安いロールタイプのフィルムを使わないのかの質問がありました。それに対し、感染対策委員会から未滅菌のフィルム材を使わないよう指示があったからとのことでした。それに対し未滅菌でかまわないとの意見が出ました。
しかし、正論は未滅菌のフィルム材であっても、創傷に直接使ってよいと記載のある製品は2~3しかないはずで、ましてや未滅菌のフィルムは、ガーゼ固定用のテープ扱いで、直接創面には使ってはいけないことになっているとのコメントがありました。
局所療法としては、いずれにしても軟膏を使用しないで、フィルムに穴を開けて直接創面に使用してはどうかとの意見が出ました。

肉芽の白っぽいところは、バイオフィルムの可能性がありクリティカルコロナイゼーションかもしれないので、穴開きフィルムで覆う場合、カデックス・ユーパスタ・アクアセルAGなどを併用してはどうかとの意見が出ました。
過剰の滲出液を吸収する目的に、白十字社から出ているモイスキンパッドなどの使用も勧められました。

現在の投与カロリーと水分量が少ない点が指摘され、総カロリー投与を1200Kcalとし、そのうち蛋白質は40g以上、総投与水分量は1500ml以上にするよう勧められました。

以上のような提案が会場からなされ、さっそく実行してみるとのことでした。結果はまたこの研究会で発表してもらうことになりました。

さいごに

本日は、スキンケア・ズレや摩擦・栄養といった基本的な事項が十分話し合われ充実した内容でした。基本的な事項ではありますが、一例一例に当てはめると、決して対応は容易ではなく様々な意見があり、解決も一様ではないことが分かります。