第48回 「肉芽の感染・ヨードと甲状腺機能・複数医師の在宅管理」

2010年5月20日

1.不良肉芽の局所療法

症例は70歳代女性。146cm体重31.5,BMI14.7の方で障害高齢者の日常生活自立度はC1で寝たきり。認知症高齢者の日常生活自立度は1でした。喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方でした。
イレウスが悪化してストーマが造設され、COPDも悪化して在宅酸素療法(HOT)をされていました。
呼吸不全のために入院されていましたが、ADLが低下し、寝たきりとなり、仙骨部に褥創を発症しました。その後転院してきたとのことでした。
仙骨部には大きさ7.5×6cmで、ポケットや壊死組織のない、白くぶよぶよした肉芽で被われたステージIIIの褥創がありました。
アクトシン軟膏でラップ療法が行われていたとのことです。
体圧分散用具はビッグセルとし、デュオアクティブによる局所療法が選択されました。

栄養は経口的に1325Kcalで、蛋白質58gでした。主食は全粥でした。
血液データは、WBC 7300, Hg 11.3, CRP 0.39, TP 6.6, Alb 3.8 でした。

デュオアクティブ処置にて、滲出液が多く、中心部はえぐれるように悪化してきました。2週間後、critical colonizationと判断し、イソジンシュガーガーゼを穴開きフィルム材で覆う処置に変更されました。5週間の治療によって肉芽が改善したため、表皮化を目指してアズノール軟膏に変更されました。
しかし、2週間後、再び肉芽がブヨブヨしてきたため、吸収作用のあるアクトシン軟膏に変更されました。2週間後、創は乾燥し易出血性となったため、再びアズノール軟膏に変更されました。
2週間後、再び肉芽はブヨブヨとした不良肉芽をなったため、モイスキンパッドの使用とし、イソジンシュガーも併用されました。
今度は良好な結果で、4週間後肉芽は改善し表皮化が進行してきたため、モイスキンパッドのみとしたところ、その2週間後ほぼ表皮化が完成してきたとのことでした。
この間栄養投与や栄養状態は変わらなかったとのことでした。
この例では、創と細菌の関係を4つの時期に分けた、wound contamination, wound colonization, critical colonization, wound infection の内、critical colonizationと考えることが重要であったとの感想でした。critical colonizationでは、淡いピンク色の肉芽色を呈し、滲出液が多い特徴があるようです。
治療として用いた、モイスキンパッドによる(広義の)ラップ療法が大変有用であったとのことでした。

会場からは、デュオアクティブの交換頻度について質問がありました。
溶けるのが速く、1日持たない状態であり、毎日の交換であったとのことです。

BMIが14.7と悪いのに、Alb値は3.8と大変良い値だったがどのように考えるのかとの質問に対し、まず栄養状態は悪くないと考えられるので、この症例の改善が思わしくないのは処置法が悪いと考えたとのことでした。さらに、カロリーも十分に摂れており、BMIよりも、実際どれだけ食べているのかの方が重要だと思うとのことでした。
リハビリもしっかりやっており、寝たきりにならない努力もされていたとのことでした。

会場からは、褥創が大きくて肉芽で被われ壊死組織が無く、縮小しない例は、ラップ療法でよくみられるとの意見があり、ラップ療法に特徴的ではないかとの質問がありました。これに対しては、会場ではラップ療法の経験者が少なく意見が出ませんでした。
しかし、結局ラップ療法の改良版である、台所の穴開きゴミ袋にパッドを入れる方法を商品化した「モイスキンパッド」という、ラップ療法(広義)で治ったことより、ラップで始まり、ラップで終わった症例とも言えるようでした。

「穴開きポリ袋・パッド・ラップ」あるいは「モイスキンパッド」の使い勝手について会場に意見が求められました。
「滲出液が悪さをしている創面にモイスキンパッドを用いたところ、浸出液の吸収がよかった。」「栄養がよかったので、モイスキンパッドがベストであったのではないか」との意見がありました。
それに対し、確かに栄養がよく皮膚が保たれている例に、「穴開きポリ袋・パッド・ラップ」は良いかもしれないが、栄養状態のよくない方にモイスキンパッドを用いた時に、周りの皮膚が浸軟した経験があるとの意見も出ました。
どのようなドレッシング法でも栄養状態が悪いと結果も良くないが、ラップやモイスキンパッドでも栄養状態の悪い時には特に注意が必要との意見でした。
デュオアクティブを用いた場合は、ずれたりえぐれたりしてよくなかったが、このようにドレッシング材がよく動く場合に、モイスキンパッドの方が軟らかくて周囲皮膚との粘着が少なくやさしい印象があるとの意見も出ました。
ワセリンガーゼにラップを用いていた時、悪臭が出て多量の滲出液が出ていた。それを穴開きポリ袋・パッド・ラップとワセリンにしたところ、滲出液のコントロールがしやすくなったとの意見が出ました。

イソジンシュガーを使っているが、創が乾燥したら止めるとのことだが、どのようなことを目安にすればよいのかとの質問がありました。
それに対し、乾燥してもイソジンシュガーを使い続けると創表面の細胞が死んで痂皮ができる。この時創がより深くなり悪化するので、その前に止めることが重要との説明がまずありました。そして止める目安として、交換の時にイソジンシュガーが残っているようなら乾燥と考えて止めるとのことでした。これには皆納得しました。

最初の創面において、肉芽の色が淡く、滲出液が多いとのことだったが、黒色痂皮に被われておらず、肉芽で被われた創面では、感染が起こっても化膿の4徴候は出ない場合があり、それでも筋膜下感染や骨髄炎などの重症感染が起こっている場合があり注意が必要とのコメントがありました。
この例では結果から見ると、幸いこのような感染はなかったようだ。それを考えると、最近ではこのような例では最初はイソジンシュガーで様子をみてから、滲出液などの状態を観察の後、デュオアクティブを使うようにしているとの意見も出ました。

この例ではイソジンシュガーガーゼ+穴開きフィルムが良かったようだが、なぜもう少し継続しなかったかと質問がありました。
この例では表皮化が進まなくなり、創の状態の変化がみられなくなったので変えたとのことでした。

<自由討論の時間>

  1. 甲状腺機能障害の方のイソジンシュガーは禁忌?
    高齢者でチラーヂンを内服中の方の創にイソジンシュガーを用いていたところ大変良好であったが、甲状腺機能異常の方にイソジンシュガーは慎重投与となっているため、止めてゲーベンクリームにした。これで良かったのかとの質問がありました。
    しっかりと答えられる方がいないため、調べて返答となった。しかし、正常にコントロールされている方では、あまり問題ないのではとの意見が出ました。

    ちょっと調べたところ、ヨウ素の長期間過剰摂取によって、甲状腺機能低下症、甲状腺腫などがおこる可能性があります。また、バセドウ病のコントロールが悪い方がヨウ素を多く取ると急激な甲状腺機能亢進症(クリーゼ)がおこりやすくなります。また妊婦がヨウ素を多量に取ると、胎児に甲状腺機能低下症がおこりやすくなります。
    以上のような点はありますが、かなり大きな傷に大量にイソジンシュガーを使わないとこのような心配は不要かと思います。いずれにしても甲状腺の治療中の方にイソジンシュガーを使用し、甲上腺機能が正常を維持していれば何の問題もないと言えます。
    ただし日本人はもともとヨウ素を多量に取る国民であることから、イソジンシュガーを長期間創に使用している場合は、血中甲状腺ホルモン量(FT3,FT4,TSH)を測定することが勧められそうです。
  2. 主治医以外が褥創治療する場合の保険請求?
    褥創の治療を依頼された場合、かかりつけ医と褥創治療医で、保険請求はどのようにすればよいのか。また、両方で治療した場合は請求できるのかとの質問がありました。
    これについては、説明がなされましたが、調べて答えることになりました。
    以下にその結果の要点を示します。

    「 H22.4月現在では、かかりつけ医でない褥創患者の往診時、往診に関わる費用以外に算定できるものの一つとして「C109 在宅寝たきり患者処置指導管理料 1,050点」があります。
     算定の条件は「在宅における創傷処置等の処置を行っている入院中の患者以外の患者であって、現に寝たきりの状態にあるもの又はこれに準ずる状態にあるものに対して、当該処置に関する指導管理を行った場合に算定する。」となっています。
     特に「かかりつけ医のみ算定する」等の記載がないことから、寝たきり患者への処置に関する指導管理を計画的・継続的に行っている場合は、異なる処置に関するものであればそれぞれの医療機関で算定可能のようです。
     この指導管理料を算定した場合は以下の項目(創傷処置(気管内ディスポーザブルカテーテル交換を含む。)、皮膚科軟膏処置、留置カテーテル設置、膀胱洗浄、導尿(尿道拡張を要するもの)、鼻腔栄養、ストーマ処置、喀痰吸引、介達牽引又は消炎鎮痛等処置)の処置料と薬剤料ともに指導管理料に含まれ医療機関は算定できません。もちろん創傷処置として使用した創傷被覆材や軟膏類も算定不可となっていますので施行の際には注意が必要です。詳しくは「医科点数表の解釈」に記載をご参照ください。
     但し、褥創に関していえば、「J001 4 重度褥瘡処置」(NPUAP分類III度及びIV度の褥創)は上記指導管理料には含まれず、別途算定可能のため、この処置に使用した創傷被覆材や軟膏類は算定可能となっています。」
  3. 褥創症例の相談:車イスでの褥創(創傷?)
    下半身麻痺で車イスで自走している方の坐骨部と仙骨尾骨部に創傷ができて、これが褥創か否かで問題になっている。また治療法が知りたいとのことでした。
    スキャナーで写真を取り込み、皆で意見を交わしました。

    症例は、マクログロブリン血症、多発性骨髄腫、胃癌末期状態で、仙骨尾骨部と両坐骨部に比較的浅そうな創傷がみられました。これに対し、会場からは全員が褥創との意見でした。
    この方は、ベッド上ではギャッチアップせず、起きている場合は車イスとのことでした。
    局所療法は、ハイドロサイト薄型にフィルム材を貼付しているとのことでした。しかし便秘と下痢を繰り返す便失禁の状態とのことでした。
    骨転位があり脊椎圧迫骨折のため、車イスでは硬性コルセットをしているようです。食事は自立しており全量摂取で栄養状態は悪くないとのことでした。
    エアーマットにしたところ、ベッドから転落して使っていないとのことでした。

    この例に対し、尾骨部や坐骨部は、ベッドで寝ている時には圧迫が加わらないところであり、ギャッチアップもしないのであれば、これは唯一の座位である車イスとの接触によるものであり、車イス褥創であると意見が出ました。
    会場からは、3つの褥創全てが浅く感じる。圧迫よりも特殊な圧迫やズレが考えられるとのことでした。そして坐骨と言ってもおしりのしわが寄るところにあり、車イスでずれて座り、車イスの端に坐骨のところがあたってできているのではとの意見でした。
    実際、硬性コルセットなどをしており、おしりがどんどん滑って落ちてしまうので、ひもで車イスに固定しているとのことでした。
    そうすると最初の「褥創か、創傷か」に立ち返ると、褥創であったとしても、圧迫の要素よりもズレや外傷の要素が強いと考えられました。
    「車イスで発症悪化し、寝ている間に改善する」を繰り返しているかもしれません。ズレが主体のため、浅い創傷となっており、皮下の損傷が少ないのかもしれません。

    「車イスを止めてベッドに寝かせれば2週間程度で治るのでは」との意見が出ました。
    それに対し、「この方をベッドだけに寝かしきりにすることはできない」との返事でした。

    ズレによる褥創との判断から、ズレに比較的強いロホクッションの使用が勧められました。いずれにしても車イス用クッションの使用が必須との意見でした。

    ところが明日初めて在宅へ戻るところだとのことです。在宅では車イスのレンタルとロホクッションのレンタルが必須との意見が出ましたが、お金がかかり車イスのレンタルは拒否されているとのことでした。
    明日1日しかないので、本人家族と、ケアマネジャー、訪問看護師でよく対策を話し合うことが大切と結論されました。

おわりに

本日は症例では、「不良肉芽」の問題が、新旧の「ラップ療法」との関連で話され、大変示唆に富んでいました。また、自由討論では、甲上腺機能とイソジンシュガーの問題、在宅での保険請求の問題、そして本日の講義のテーマであった車イスでの問題の応用のような症例相談と、大変興味深い問題について話し合われました。