第27回 「難治悪化褥創」

2006年11月16日

 今回は3例の症例が提示されました。
 いずれも大変治療に難渋し、改善があまりみられなかった症例でした。

 第1例目は「脊損の方の難治褥創」でした。
 脊損の方で治療に抵抗性の仙骨部褥創例の報告がなされました。この方は40歳代の時、事故で脊損となり首から下の麻痺がみられるとのことです。現在80歳代で女性の方です。仙骨部褥創発症時には敗血症性ショックになったとのことでした。状態が落ち着いてから転院されてきたようです。Hb 12.4、Alb 3.3と栄養状態はそれほど悪くなく、全粥を介助で全量摂取し1600 Kcal摂っているようです。

 創部の湿潤度を測定しながら軟膏を調剤して使用する局所療法がおこなわれています。湿潤度が80%くらいの時はイソジンシュガー軟膏にデブリサンを混合しベスキチンとガーゼで被覆してフィルムでカバーする方法をとったとのことです。湿潤度が68%程度になるとオルセノン軟膏にテラジアパスタを混合したそうです。
 創のサイズは減少傾向にありますが、創内の各所に白色壊死が出現したり消えたりし、また肉芽が盛り上がると思えば、逆に薄くなるなどの変化がみられています。厚みのあるエアーマットレスを使用しているとのことで、体位変換は1.5時間ごとにおこない、左右90度側臥位を用いているとのことでした。2.5ヶ月間の経過では、あまり変化がみられません。

 この症例に対し、食事姿勢が質問され、ギャッチアップ90度に近い状態とし、ひざ下に軽く枕を入れて1時間程度で食べ、その後、30分くらい挙上した仰臥位になっているとのことでした。
 創面の肉芽が薄い点や、白色壊死の出現は、軽いD in Dと考えられ、圧迫の関与があると思うとの意見が会場から出されました。食事姿勢を考えると、この時の圧迫が褥創治癒遷延に関係していることが指摘されました。
 ドレッシングに関しては、ズレのあるときにうまくズレを逃がしてくれるハイドロサイトを勧める方がいました。

 浅いポケットの形成を認めることから、ズレの関与も指摘されました。車椅子などに座らせ、ポジショニングをしっかりしての食事摂取が勧められました。この点に関して理学療法士などの意見を聞いて姿勢保持法の検討が勧められました。

 第2例目は、「閉塞性動脈硬化症の下肢難治褥創」でした。
 症例は80歳代女性で、糖尿病、脳梗塞、四肢麻痺があり、全介助の方です。全粥ミキサー食を1200Kcal、蛋白質54g摂っておられます。左下腿外側に潰瘍が出現し、しだいに悪化して進行しました。アズノール軟膏とラップやプロスタンディン軟膏を使用したようです。感染が広まったため一時的に基幹病院へ入院の上治療を行い、その後再入院となって帰ってこられました。当初3.2あったAlb値も、2.9まで低下しました。
 9ヶ月後には壊疽が広がり黒色になり、腐敗臭が強くなりウジ虫もわいたようです。このときはAlb 1.8でした。切断も検討されましたが、そのまま治療を続け、10ヶ月後に亡くなられました。

 この例に対し、褥創発症時には発熱が無かったかとの質問があり、あったとのことでした。
 栄養士に食事量について質問があったが、HbA1cの値をみるとこれ以上の栄養投与は勧められず大体適切ではないかとの意見でした。
 栄養が十分投与されても、このように下腿には重症の創傷があるとここからかなりの蛋白漏出があり、そのためにアルブミン値が低下したのではないかとの指摘がありました。大きな創傷や感染創がある場合、エネルギーが消費されたり蛋白漏出があるため、もっと多くのカロリーと蛋白質投与が必要であろうとの意見が出されました。

 閉塞性動脈硬化症の存在の有無の質問では、動脈閉塞有りとのことでした。血流改善薬の投与について質問があり、パルクスを投与したがむしろ悪化したとのことでした。
 これに対し、脱水があるときプロスタグランディン製剤を与えると、血圧が低下し、また側副血行が塞がり、むしろ虚血肢への血流が低下し有害となることがあるとの指摘がありました。この指摘に対し、血圧は低く、脱水もあった可能性が示唆され、もっと輸液を行ったうえでのパルクス投与が良かったであろう事も示唆されました。

 ASO合併の創傷では、小さな創傷でも治癒が難しく、感染が起こればどんどん悪化することが指摘されました。壊死組織を積極的にデブリードメントしたほうが良いという意見がだされましたが、虚血肢では外科的デブリードメントは最小限にする必要性が指摘されました。

 下肢の回外の強い例だとのことでしたが、足を内側に向けるときは大転子から大腿部の外側にクッションを置く方法が紹介されました。例え左側臥位になるときでもこのクッションを左側に入れる必要性が示されました。また、膝の屈曲も曲げるよりも延ばしたままにすることが勧められました。いずれにしても下腿部外側に極度に高い圧がかかりやすいことが指摘されました。

 第3例目は「大転子部の難治褥創」でした。
 90歳代の認知症の方にできた難治性の左大転子部褥創でした。4年も前から褥創が治らなかったようですが、認知症が進み在宅が難しくなり入院されました。
 食事は車椅子にて介助で全粥ミキサー食を全量摂取し、1150 Kcal、蛋白質52.5gでした。エアーマットレスはビッグセルを使っており、Alb値は3.7と栄養状態も悪くはありませんでした。
 ハイドロコロイドドレッシング材を使ったところ、ポケットが急に広がり中止とし、ポケットの外科的切開が施行されました。カデックス軟膏やユーパスタが使われましたが、再びポケット形成してきたため、再度ポケット切開がおこなわれました。その後ヨードコート軟膏が使われましたが、肉芽には白色の軟らかい壊死が薄く付着しています。

 この例に対し、浸出液のコントロールをすることで治癒が進むだろうから、イソジンシュガーとデブリサンを混合することが勧められました。しかし感染は無いと考えられることから、アルギネート材や、創の大きさぎりぎりのハイドロコロイドドレッシング材の使用も勧められました。
 大転子部には筋の付着部が重層しており、大きめのハイドロコロイドなどで密閉すると、行き場を失った滲出液が筋肉の間などを容易に広がるため、ポケット形成しやすくなる点が指摘されました。したがって滲出液がすぐ漏れるようなドレッシング法がよいとの意見でした。

 ポケットの切開時にはポケット辺縁部の皮膚は肥厚し線維化が強いだけではなく、グロースファクターのインバランスがあり創治癒が遷延するため、ポケット辺縁部は全周性に1ないし2cmの切除が好ましいとの意見がありました。
 この例でも管理栄養士は食事量が少ないとは言えず適切であるとの意見でした。食後のうがいや歯磨きをしているかとの質問に対し、しているとのことでした。
 体圧分散、栄養投与ともにあまり問題が指摘できなかったことから、局所療法の変更がポイントと考えられました。

 今回は3施設からの報告でしたが、いずれも現在難治で治療中であったり、悪化してついに死亡した例など、いずれもいわゆる難治例でした。