第26回 「認知症と褥創」

2006年7月20日

 今回は4例の症例が提示されました。
 いずれも認知症がからんだ症例でした。

 第1例目は「認知症の骨折ギブスによる褥創例」でした。
 特養では看護師・栄養士・介護士らが力を会わせて褥創を作らないよう頑張っているが、それでもできてしまった褥創でした。90歳台の女性で、高度老人性認知症、脳梗塞後遺症、慢性心不全の方で、認知症で週2回程度見られる夜間異常行動のためにベッド柵に足を挟み、左脛骨・腓骨骨折を起した例でした。提携の病院を受診したところギブス固定をして戻されたようです。もともと体重は28.3Kg、BMI 15.7と羸痩の強い方でした。食形態の工夫や介護力によって体重36kg、BMI 20まで改善させていた方でした。ギブスをまかれ、53日間ギブス巻き直しがなかったようですが、骨癒合は不良のため、ギブスカットをしたようです。その時踵部・外顆部・足背部に褥創ができており、感染はしないものの黒色痂皮ができ治癒に難渋しているとのことでした。ギブスシャーレにし、入浴をし、イソジンゲルとガーゼ保護による治療とのことでした。動きがひどく治癒が見込めないため、現在はギブスシャーレもやめて包帯固定のみとのことでした。

 この症例に対し、ギブスシャーレにするなら、踵などの部に厚めの綿などを入れるのではなく、逆に褥創部以外に綿などをあてて褥創部は何も無い方が良いのではとの意見がありました。あるいはギブスシャーレではなくシーネ固定の方がよいとの意見もありました。さらに、この部位はもともと癒合の悪い部位であり、最初の受診で返すのではなく、入院して骨癒合を図るのが適切であったとの意見もありました。これに対し、高度認知症は病院では受け入れたがらない。また、ケアは特養の方が上手く、病院では対応できないためではないか。などの意見も出されました。いずれにしても、認知症の方の入院は多くの病院ではなるべく避けるようにしている実態が明らかになりました。
 さらに、53日間もギブスのまき直しをしないのはおかしく、大体長くて1ヶ月でまき直しをしないとゆるゆるになってしまうとの意見が出されました。
 この例では、長期に緩いギブスを巻いていたことが骨癒合不良の原因であったとともに、局所に高度な圧がかかり褥創発症にもつながったと想像されました。
 ただ60日近くギブスを巻いて効果が無いくらいであれば、初めからシーネにしておけば褥創の発症もなかったのにとの思いは強いものが伺えました。

 高度認知症の方では、訴えに色々と特徴があり、この方においても急に食べ方が少なくなりおかしいと思っていたら、骨折していることが後で解り、食欲低下の原因は痛みによると解ったようでした。この方は骨折後2Kgの体重減少となりましたが、回復したとのことでした。

 局所療法については、消毒は止め、創面を乾燥させることも良くないと意見が出されました。それに対しデュオアクティブなどは、特養では医師も看護師もいないため、毎日病院へ通わなくては使えず、不可能とのことでした。そこで、油性軟膏やクリームを用い、フィルム材を貼ることで創面に湿潤状態を作る方法を基本とすることが勧められました。しかし、月1回来る皮膚科医はそのような方法はとらず、看護師がほとんどいない状態で介護職が処置法を変更することはできないとのことでした。

 2例目は「食事摂取低下を繰り返す方の褥創」でした。
 これも90歳台女性で、胃瘻・両膝変形性関節症・両大腿骨大転子部骨折の手術後の方でした。摂食障害のために胃瘻が造設され、仙骨部に褥創が発症したようです。ゲンタシン軟膏・クロマイP軟膏・バラマイシン軟膏等が使われ、離床も進み、会話もできるようになり、接触嚥下訓練で食事量が増えたようで、褥創も治癒した例でした。一時的にアルツハイマー病が進行し食べられなくなってもまたしばらくすると食べられるようになったとのことでした。認知症の方では、何らかの原因で突然食べなくなることが多いとのことで、何か気に触ることとか、何らかの原因があるだろうが、意志疎通ができないため原因はわからないことがほとんどで、その間は胃瘻から入れたり点滴をしたりしてしのぐと、また食べるようになるとのことでした。

 この点は認知症に特徴的とのことで、勉強になりました。
 局所療法に抗生剤や抗菌剤入りの軟膏を使うのは勧められず、耐性菌を作る原因になるので止めたほうが良いとの指摘がありました。

 3例目は「認知症の方のいわゆる仙骨部の難治性褥創」でした。
 90歳台女性。脳梗塞・水腎症・左上腕骨骨折の方で、仙骨部の褥創の出現と治癒を繰り返していたが、ある時から1年半以上治らなくなり難治性褥創と考えた例でした。この方はリハビリやレクリェーションにも参加し入浴もしている方でした。左仙骨部にも小さな褥創を発症しましたが、熱発にて車椅子に移乗しなくなったら褥創は治癒に向かったとのことでした。体力低下・嚥下低下で経管栄養に切り替える等が行われましたが、結局死亡された例でした。局所療法は清拭のみでツッペガーゼをテープで固定するのみとのことでした。

 難治性の原因として、会場から便や尿による持続的な汚染が原因のことがあり、尿汚染を無くしたら治ったとの意見がありましたが、この例ではバルーンカテーテルが入っており汚染は便によるものがたまにあるのみとのことでした。仙骨部というより尾骨部であり、車椅子でズレることが原因ではとの意見があり、会場でもおおかた同様の意見でした。局所療法としてはガーゼは線維が硬くズレが起こった場合創面を傷つけ、また滲出液を吸収しても創周囲皮膚を浸軟させるため勧められず、むしろ何も使わない方法が提案されました。デュオアクティブなどを用いると却って貼り替えの時に新生表皮を傷めることがあり、油性軟膏やクリーム剤を塗布し、直接おむつをあてるようにすることで皮膚および創面の湿潤状態が適当になることが提示されました。

 食事摂取不良時には、脱水が隠れていることがあることと、その時口の中が乾燥し食べ物がへばりつくためさらに食べなくなるとの指摘がありましたが、認知症では精神的な要素で食べないことが多いとの発言がありました。ここでも認知症では精神的な原因、ちょっとしたことで食べなくなるのが認知症の症状と考えていることが強調されました。かなり議論はありましたが、いずれの原因と考えても、カロリー不足や水分不足には点滴などで補う対応は同じでした。

 4例目は「胃瘻漏れに対する右側臥位による褥創」でした。
 90歳台女性。老人性認知症・廃用症候群・尿路感染症・摂食障害の褥創症例でした。もともと仙骨部に褥創がありましたが、仙骨部の二つの褥創のうち大きなほうは治癒しました。しかし、胃瘻が漏れるとのことで右側臥位でゆっくり注入するようにしたところ、右腸骨部と右第5趾部に褥創を発症し、悪化しました。口へも逆流が見られることもあるとのことでした。胃瘻周囲からの漏れはひどい時は大きな紙おむついっぱいになる位とのことでした。注入速度は、600mlを2~3(~4)時間で入れ、ギャッチアップは45~60度とのことでした。

 これに対し、漏れはバンパーが強すぎる場合に起こると聞いており、バンパーを緩めて胃瘻がくるくる回る程度にしてはとの意見が出されました。あるいは、1回造影してみる。深く入れて腸瘻にする。1mlを2Kcalにして量を少なくし、足りない水分は輸液で補う。などの意見が出されましたが、固形化については通過障害があると吐くなど却って危険なため最後の手段と考えたほうが良いとの意見が出されました。
 さらに、右側臥位は逆流性食道炎の場合は、むしろ禁忌といわれており、仰臥位や左側臥位の方が逆流しにくいことの方が多い点が述べられました。さらにギャッチアップ角度は30度くらいの方が良く、これ以上にすると却って腹圧が高くなり逆流や漏れが起こりやすくなるのではとの意見が出ました。
 やはり、他施設を受診してでも胃瘻からの造影をし、通過障害の有無や、体の向きと漏れや逆流の有無、適切なギャッチアップ角度などを調べてもらうことが最も勧められました。

 今回は偶然認知症にまつわる症例という特徴がありました。認知症の方に特有な状態を知ることが褥創ケアに必要なことが痛感されました。また栄養の問題は大変重要であることも実感しました。