第69回 「勉強会で全スタッフのケア向上」

2013年11月21日

症例検討会

「治癒遷延した再発褥創に対する取り組み」

<症例呈示>

80歳代女性。要介護度5。脳梗塞後遺症、意識障害、発語無し、会話不能。
MBIは20.2、 日常生活自立度 C2、認知症高齢者の日常生活自立度 IV。寝返り不能。
食事はミキサー食で、副食はすり身。嚥下能力はある。1000Kcal, タンパク 35g, 水分1000ml
全介助で摂取。体重は維持しているため、現状の食事量としている。
紙オムツを使用し、尿意の訴えはない。 ケアは,左右の体位変換のみ。
体圧分散寝具は、モルテンのナッソー使用。

経過

3月に在宅で仙骨部褥創を発症し、A病院に入院。低栄養で治癒しないとされ、B病院へ転院。デブリードメントが再び行われ、その後サイズは縮小。
7月に当院の医療病棟へ転院。 翌年1月に治癒した。
それから2年後の12月に、仙骨部褥創が再発。仙骨部の皮むけから始まった。
1ヵ月後には、褥創は深くなり、デュオアクティブを用いたが、目に見えた反応はなかった。3ヵ月後にデュオアクティブからアクトシンに変更したところ、急にポケットを形成した。
対策に苦慮し、この研究会に出て勉強するとともに、相談した。

再発難治化後の経過

当研究会からは、創周囲皮膚に感染徴候があるかどうかの判定が重要と学んだ。創をよくみると創周囲皮膚に発赤と熱感があったためゲーベンクリームをたっぷりと使用することにした。
また、研究会で学んだ圧迫・ずれなどの外力の因子を多の職員に教えた。圧抜きの必要性を知らない職員が多かったため、勉強会を開催し、ギャッチアップ時と、移動時の圧抜きを行った。当初はビニール袋の盲端を開き、円柱状にして用いた。また、ビニール袋に手を入れて圧抜きを行った。多職種でも皆で話し会いをしている。管理栄養士からは、傷の状態に合わせて、たんぱく質や亜鉛の付加が行われた。
リハビリからは、筋肉が緊張し、胸の前で手を組むタイプの拘縮に対し、筋肉の緊張を取るようなポジショニングが行われた。
これらの取り組みとともに、ゲーベンクリーム使用後、10日目くらいでポケットは消失し、創の収縮もみられた。ゲーベンクリーム開始18日目に治癒した。
症例を通して、創傷被覆材や薬剤の選択の難しさを感じた。デュオアクティブETやハイドロコロイドドレッシング材を,まず貼付しようとしていたが、もっとドレッシング剤の特徴を勉強する必要があると感じた。
創周囲皮膚の観察力を向上させなければと思った。
外力排除に対する意識の低さを感じた。ずれ力や圧力の排除の必要性は,関わる全ての人が理解して実施ことが必要である。
今後への展望としては、仙骨に関しては、OHスケールなどで評価して,マットレスやクッションを増やしていく。目指すは褥瘡ゼロである。

<質疑応答>

ここでアドバイスをもらったことを、すぐ実践したり、多職種で協力するなどして治癒をももたらしたことなどが参考になった。病院でもこれだけのことをするのは大変だ。多職種の連携、ギャッチアップの仕方など、色々な要素があり、それらを行うのは、病院でも大変であり、在宅でするのはもっとしんどい。
当院でも、他の職種の人に協力してもらわないと、創傷が治らないことをつくづく感じる。

発表者の病院では、このようなアプローチを全ての患者にやっているのか。また誰がリーダーをしているのかとの質問があった。
それに対し、発表者がまとめ役をしたとのことであった。また、他の患者については、全員には対応できていない。しかし、この方をきっかけに、スライディングシートを使用し始め、リクライニング車イスへの移乗にも使ってみようなどのヒントが上がってきている。また、仙骨部の赤くなった人を見つけると、圧迫がかかっているのではと考え、対応が早くなった。
会場からは、「全員にこのような多職種での関わりをする必要はなく、褥瘡のある方や、危険因子のある方を選んで関わればよいのでは」との意見がありました。

ゲーベンクリームを多量に使っていたが、創は小さく、あれほど多く使う必要があるのかとの質問がありました。
それに対し、この研究会の講義で、たくさん使うことが大切で、長時間たっぷりとゲーベンクリームが創面に接触していることが大切と説明されていたからとの返事でした。
会場からは、軟膏が少ないとガーゼや吸収パッドにすぐに吸われ、創面には何もなくなる。軟膏が創面に接触していてこそ、効果がある。少なめの量と、多めの量で迷ったら、より多めの量を選んだ方が良いとのアドバイスがあった。多めに使って問題は起きないが、少なめだと効果がないとのことでした。

スライディングシートをよく病院が買ってくれたとの質問がありました。
それに対し、初めはビニール袋のお尻を切って、スライディングシートの替わりにし、またビニール袋に手を入れて、圧抜き手袋の替わりにしていた。しかし、これでは勉強会でのニュアンスが伝わりにくく、自分のポケットマネーで購入して、勉強会や患者さんに使っているとのことでした。
それに対し、これだけの素晴らしい発表だったので、是非これを院内で報告し、そこに病院長にもいてもらって、必要性を話したら買ってくれると思うとの意見が多く出ました。

この研究会に来ている方のところでは、どれくらい使われているのかとの質問があり、挙手を行ったところ、発表者を含めても、圧抜き手袋は2施設。スライディングシートは3施設しか使われていなかった。
講習会に行くと、スライディングシートをお土産にくれるところもあるとの情報もありました。

相談タイム

症例1(創面の石鹸洗浄について)

背部の褥創に対し、他病院で植皮術が行われたが、うまく生着せず、転院してきた。パーキンソン病があり、円背・拘縮がある。
質問は、病院からは石鹸洗浄し、ソアナースパスタを使用するという指示であった。石鹸洗浄は本当にして良いのかとのことでした。
それに対し、ビオレUという石鹸を使い、皮膚を洗浄したが、テープやフィルム貼付部がビランし都合が悪かった。そこで、リモイスクレンズという洗浄剤に変えたところ、テープやフィルムを貼付しても皮膚炎が起きなくなった。との返答でした。

ところが、質問は、「創内に石鹸を用いるのか」であることが分かり、それに対しては、「創内には石鹸は用いない」という説明がされました。
石鹸は界面活性剤であり、生きた細胞、つまり創内に用いると、創傷面に障害を与えるためとの説明でした。
創周囲皮膚には石鹸洗浄を行い、一部創内に石鹸が入っても仕方ないが、極力避ける方が良いとのことでした。石鹸で洗ったら、微温湯で皮膚の石鹸を流し落とすが、その時その微温湯で創内も洗うと良いとのアドバイスがありました。

そこでもう一度、ビオレUであっても皮膚は傷むので、やはりリモイスクレンズ、あるいはベーテルFを用いることが勧められました。

症例2(ASO下肢潰瘍壊死へのゲーベンクリーム有用性)

80歳代の女性で、多発性脳梗塞による廃用症候群と下肢動脈閉塞のある足壊疽の処置法について質問がありました。
「病院からの紹介では、プロスタンディン軟膏処置であったが、イソジンゲルによりミイラ化するようにとの指示が書いてあった。足壊疽に対し、傷は湿潤がよいのか乾燥がよいのか。」との質問でした。
というのは、動脈閉塞のある下肢潰瘍に対し、壊死部分には何も用いず、壊死の移行部にゲーベンクリームを用いる処置を行った。その結果、同部に肉芽ができてきて壊死部を遊離し、最終的に薄皮1枚になったのでこれを切ったところ、創面は全面肉芽に覆われた。引き続き同様の処置を継続したところ、周囲から皮膚が伸びてきて、最終的に表皮化し創面は治癒した。とのことでした。
この方法の方が、ミイラ化より良いが、なぜミイラ化を勧めるのかとのことでした。

それに対し、一般的にミイラ化が勧められているが、ミイラ化すると感染の抑制になるかもしれないが、創部の拡大と疼痛をもたらす。かといって単純に湿潤環境にすると、血流障害のある部の壊死を湿らせることとなり、感染が必発となる。
そこで、創部に湿潤を保ちつつ、銀の静菌作用を持つゲーベンクリームを用いると、湿潤環境を保ちながら感染の予防になるからとの説明であった。銀は細胞のDNA複製を障害するため、細胞増殖の速い細菌にはより強力な障害を与える反面、創面の一般の細胞には影響が最小限で済むためである。

質問者は、局所だけではなく、「栄養状態を改善する」「脱水にしない」「血圧低下させず、むしろ高血圧を維持する」「膝を屈曲拘縮させず、なるべく伸ばす」「血小板凝集抑制剤の投与」「心電図を適宜取り心臓をモニターする」ことに注意しているとのことでした。

この質問(発表)は素晴らしく、是非学会で発表するとともに、論文化して雑誌に掲載することが勧められました。また、動脈閉塞の壊死を伴う足潰瘍に対するゲーベンクリームの有用性を広めていこうと決意が語られました。