第38回 「仙骨尾骨部の二重褥創と、感染した褥創」

2008年9月18日

1.足内側の難治褥創

90歳代女性。高血圧・糖尿病・アルツハイマー型認知症があり、自宅で転倒後次第に動かなくなり寝たきりになりました。四肢に拘縮があり寝返りもできません。身長163cmで体重は39Kgでした。左第1趾内側に褥創を発症しています。ミドルステイの利用でかかわる事になりました。週1回皮膚科受診しています。
当初フィブラストスプレーとゲーベンクリーム等の処置で少しずつ改善傾向にありました。しかし、7月に入って褥創周囲皮膚が暗赤色になり、下肢も全体的に冷たくなってきました。褥創も悪化し、関節腔が見えるような状態になってきています。栄養状態はAlb3.0前後で摂取カロリーも1400Kcal蛋白質50g台でした。HbA1cは6.5でした。
結局、発熱し全身状態が悪化したため病院への入院になったとの事でした。

これに対し、ゼリー食の変更があったがなぜかとの質問に対し、エンシュアゼリーは崩れやすかったので、エンシュアをリフランで固めてみた所、サラッとしてのど越しが良かったとの事でした。このような情報は医師や看護師には分かりづらいが、栄養士間で大いに横の情報交換をしてもらいたいとの意見が出ました。

中足骨と基節骨間の関節が創部に開いてしまっているが、感染した関節で、このようになると腱が切れているためにさらに関節が開き管理しにくくなるとの意見が出ました。そしてこのような時は、まずは関節を舌圧子などで固定し、関節内には絹糸を入れてドレナージすると感染が治まり関節が閉じて治ってくるとの発言がありました。

足の関節や骨が感染した例にイソジンシュガーを用いてフィルム材で密閉する方法を行なった所、基節骨が融解消滅して治癒した事があるとの経験も報告されました。

下肢の拘縮もあり、同部に圧迫があるのではとの質問に、ポジショニングに気を使い、モルテンのクッションをしっかり使って圧迫がかからないようにしたとの事でした。

冷房で足が冷えたのではとの質問に、この時期冷房が入り始め足が冷えてきたのでルーズソックスを用いて保温したとの事でした。その時ソックスによる圧迫の有無の質問に対し、圧迫は起こさないよう注意したとの事でした。しかしソックスでは風は通るので、吸収パッドで足を巻くと、例えばゲーベンクリームを塗布してそのまま吸収パッドを使うなどができるし、風も通さず優れた保温効果を示すので勧められるとの意見が出ました。

栄養に関する質問があり、カロリー・蛋白ともに計算ではストレス係数などを考えると不足していたとの反省が聞かれましたが、ハリスベネディクトの式には注意が必要で、ちょっとカロリーが多くなりすぎるのではとの意見が出ました。寝たきりになると筋肉量が著しく低下し、必要カロリーも当然減少するため、もっと必要カロリーが少なくなるとの意見でした。

この例は血流改善薬も投与されており、動脈閉塞があるのではとの指摘に対し、よくわからないとの事でした。7月の悪化時点で、動脈閉塞が進行したか、クーラーによる下肢の温度低下を起こしたかなどが話し合われました。

2.難治褥創2例

1例目:60歳代男性。対麻痺があり、また狭心症と糖尿病もみられ肥満しています。
車椅子での生活ですが、臀裂に対称的に褥創がみられました。プロスタンディン軟膏や、アズノール軟膏、ゲンタシン軟膏などが用いられました。便は摘便で妻が行なっており、便や尿で創部が汚染される危険は少ないとの事でした。局所療法によって治癒する傾向はあるものの、創周囲皮膚の浸軟が強く、また創自体も肉芽の色は必ずしも良好とは言えなかったようです。
患者の用いているクッションは10年以上使っており、へたって肝心の中央部は凹んでいました。新しいものへの変更を勧め、ロホクッションを注文されました。

これに対し、おしっこでの汚染で浸軟したのではとの質問に、尿の汚染はほとんど無いようだとの答えでした。創部の改善がみられましたが、ロホクッション使用も関係があったのかとの質問に、関係があるかもしれないとの事でした。しかし、一旦改善傾向の後で悪化し、再び改善傾向となっていました。

このような対称型の褥創には、東大の真田先生はハイドロサイトが良いと言っていたとの発言に対し、ハイドロサイトの使用経験はないが、ハイドロサイト薄型は良さそうであったとの意見があり、ハイドロサイトは薄型も普通型も創面とドレッシング材の間で摩擦が少なくそれが良いのかもしれないとの意見でした。
ハイドロコロイドドレッシング材が良かったとの意見があり、ハイドロコロイドドレッシング材ではズレがあると剥がれていくが、この剥がれはズレの存在を示し、これがあればよりズレに強いハイドロサイトとの考えもいいが、もう一つ、ズレを無くす工夫をする方がより重要ではないかとの意見でした。

このような対称型の臀裂褥創では、クッションが悪い例が有ったとの意見が示されました。また高知の下元先生は、車椅子などの移乗時や姿勢を直す時、介護現場で常識化しているズボンを持って引き上げる操作で、おむつが臀裂に食い込み、これが対称型褥創発症の原因になると指摘している事が紹介されました。この例でもそのような移乗などをしていないか確かめる事が勧められました。

離床時間、あるいは車椅子上にいる時間について質問がありましたが、情報不足との事でした。また、車椅子に乗っている所を横から撮った写真がありましたが、膝下の長さが合っておらず、膝~大腿部が浮き上がっているように見え、そのために臀部への圧が集中したと考えられるという意見も出ました。

2例目:70歳代女性。脳梗塞で入院した際、心肺停止になり、蘇生成功後搬送されてきました。気切、人工呼吸機管理、PEG挿入となっています。褥創が発症し治療されましたが、治療開始半年以上たっても仙骨部に径5mmの入口部をもち、20×16mmのポケットがみられました。治癒傾向がないため、電気メスにてポケット切開切除術が行われました。
ポケット切開後プロスタンディン軟膏などが使われましたが、創治癒は遷延したため、3週間後には生食ガーゼとフィルムによるシンプルな治療に変更になりました。
多少改善傾向にありましたが、アクアセルAG + フィルム処置にした所、現在創の大きさが縮小しつつあるとの事でした。

会場から、経過が長くなったあと切開に踏み切っても、肉芽が盛り上がってこない事をよく経験するとの事でした。これはcritical colonization ではとの事でした。このような例では、イソジンシュガー、カデックス、ゲーベンクリームなどを使うと良くなるとの事でした。この例もアクアセルAGで改善傾向にあるとの事でした。

長期間閉じないポケットでは、内部に筋膜などが壊死していることがあり、切開をして一見健丈な組織が露出しているように見えても、創面に良好な肉芽が出るのには結構時間がかかるのが普通で、この例ではちょうど肉芽が出てくる時期ではないかとの意見が出されました。また、壊死組織の除去には、エレース末や、ブロメライン軟膏が勧められ、この例のように生食ガーゼでもいいだろうとの意見でした。

以上、動脈閉塞の足趾褥創、臀裂の対称型褥創、ポケット切開後に肉芽の盛り上がりが悪い褥創など、よくみられるものの治癒に難渋する褥創の提示がなされ、いろいろな方向からのディスカッションがなされました。