第34回 「ADLと食事姿勢」

2008年1月17日

1.ADLからみた病院と特養の違い

症例提示

 症例は、特別養護老人ホームへ入所された90歳代の女性の方です。要介護度4で、日常生活自立度A2、認知症日常生活自立度1、ブレーデンスケール16で、身長137cm、体重37Kg、BMI20の方でした。下肢筋力は低下し膝が屈曲して、押し車で自力歩行されていました。
 入所後は、車イス使用とし、自立体位変換は可能ですが、介護で体位変換スケジュールのため介護での体位変換となりました。栄養は1400Kcal、蛋白質50g,食事以外の水分500~700mlで全量摂取でした。当初のAlb4.0、Hb12.8でした。

 仙骨部に小さな褥創がありました。局所療法はソーブサンとガーゼ、フィルム材が使われました。1日2回の交換が行われ、臀部をこすらないように注意されていました。VクレスやCZポチなどの補助食品が付加されておりました。しかし、仙骨部の褥創は拡大していました。
 患者さんは肺炎を発症し病院入院となりました。退院されてくると褥創は縮小していました。病院での処置法や栄養投与法についての情報提供はありませんでした。

 現在プロスタンディン軟膏を使用し、ガーゼ、フィルム材を使用されています。栄養投与は同様で全粥・軟菜となっています。Vクレスも投与されています。褥創の状態は変化なく縮小していません。
 この症例では、体位変換を1日11回行なっているとのことでしたが、時間を決めて入所者全員に同じように体位変換しているとのことでした。

ディスカッション

 この症例に対し、会場からは、病院などでは普通に食事を出しさらに補助食品を出しているが、コストがかかる。入所中や入院中でも大変だが在宅にいくと、コストが高いために家族が中止し継続が困難であり、普通の食事でもっと何とかならないのかとの質問がありました。
 それに対し、1400Kcalの食事は魚や肉などある程度入れてあり、ビタミンC付加のために野菜なども摂るとこれ以上は無理で、補助食品を加えないと必要な栄養を補えないとのことでした。
 しかし、ペースト食(ソフト食)にし量を押さえてカロリーや栄養素を多くする方法ではどうかとの質問がありました。実はそのようにしているとのことで、施設ではソフト食にすることでコストも安く栄養も多くできているが、その方法を在宅でやってもらうと「1食しか作らないのは手間が大変」と受け入れてくれないとのことでした。
 冷凍にしてはという意見に対しては、家庭では食品をいっぱい作って冷凍にして使うのはなじまないとのことでした。この点に関しては、もっと一般に広がるようなレシピを作って広めていく必要性を感じました。また、確かに最近の補助食品ブームも良いのですが、もっと原点に戻り普通の食事の工夫で栄養素を補う方法も進める必要を感じました。

 会場から、介護施設と病院での違いが指摘され、病院ではたとえば肺炎を治すため患者を寝たきりにさせて動きを封じるために、褥創などはよく治っていく。しかし、動きが封じられているため、ADLが低下する。この例ではどうだったかとの質問があり、確かにこの方は病院から帰ると褥創は改善していたが、ADLは低下していたとのことでした。
 介護施設では、車イスに乗るとか椅子に座るなど、より日常生活に合わせた生活を目指されており、そうすれば当然仙骨尾骨部の褥創の治癒はしにくくなる。ADLを取るのか、傷の治癒を取るのか貴重な問題があることが分りました。
 このことを考えると、結構動くことができ、褥創もかなり浅い状態で悪化せず現状を維持しているのであれば、これでも良いのかという考え方もあるのではとの意見も出ました。

 一律の体位変換について質問があり、自力で体位変換できる方にも一律の体位変換はよくないのではないか、また体位変換によって却って皮膚のシワがおこり褥創の原因になることもあり、体位変換を過信するのはよくないのではとの意見がありました。
 それに対し、確かにすぐに自分でマクラをとったり、動いて自分の好きな姿勢になったりとあまり意味のない例が多いとのことでした。でも少しだけでも体位変換で圧迫が除去できればという思でやっているとのことでした。体位変換については必要性を含め再検討してみるとのことでした。

 またエアーマットレスについては不足しているが、現状は本人が買ったものが多くなっているとの事でした。この点に関しては、最近では動ける人にエアーマットレスを使うと、動きを制限し却って良くないとの情報もでてきているのと同じで、体位変換も動ける人に強制的体位は良くないと思われ、同様に再検討を勧める意見がありました。

 以上、病院での栄養投与や局所療法が優れているとのイメージがありましたが、実は病院では強制的に体圧分散が行なわれているだけで、ADLは著しく低下し、生活という面ではかえって劣っている可能性が発見されました。
 また体位変換についても本当に必要なのかよく考えてみる機会を得ました。

2.食事姿勢

症例提示

 70歳代男性で、脳出血後遺症、高血圧、糖尿病の方です。脳出血が2度おこり、四肢麻痺がありADLは全介助とのことです。中心静脈栄養をされており、Alb3.3、Hb10.7で入院されましたが、中心静脈カテーテル自己抜去されたため食事開始したとのことです。日常生活自立度C2、ブレーデンスケール12。糖尿病食1200Kcalを全量摂取されています。紙おむつ管理で特殊入浴を週2回されております。昼食時はリクライニング車イス使用でした。体圧分散マットレスのピュアレックスを使用されていましたが、褥創発症のためアドバンへ変更となっています。局所療法は、ゲーベンクリームやイソジンシュガーなどを使用されガーゼ固定となっています。極度に多い滲出液がみられ、栄養は1600Kcalヘと増量しましたが、ポケットの拡大と切開とを繰り返し、しだいに悪化傾向にあります。栄養は1800Kcalまで増量されましたが、Alb値は2.5、2.2と更に低下しています。HbA1cは5~6%で糖尿病のコントロールは良好です。
 このような症例について、症例提示者から、ポケット切開の時期が遅すぎか、切開法はよいのか、なぜどんどんポケットが広がるのか、などの質問がありました。

ディスカッション

 会場から、滲出液が大量の場合は何と言っても感染、特に深部感染を疑うとの意見が出され、CT scanを撮って骨破壊など創部の広がりを判定をし、深部感染があれば細菌感受性テストをし、有効な抗生剤を2週間くらい投与が勧められました。また、ポケット切開は思いっきり行ない、全て開放するようにしポケットなどの残りを作らないことが大切との意見が出ました。この例では軟膏を用いガーゼ1~2枚をあてその上からオムツを用いて厚くならないようにしているとのことでしたが、滲出液が多いときはカデックス軟膏を用いてピンク針で穴を開けたフィルム材を貼付するほうが良いとの意見も出ました。

 ポケットの拡大に関して、ズレの関与があるだろうとの指摘があり、食事の時の姿勢が聞かれました。リクライニング車イスはずれが起こるため中止し、ベッドギャッチアップにて食事をしているとのことでした。この時足も挙げて30度くらいで投与と話してあるが、実際は介助さんが足上げをしなかったり、誤嚥を恐れて60度あるいはそれ以上にしているとのことでした。また背抜きが必要と分り介助さんに教えたが忘れることが多そうだとのことでした。
 それに対し、30度を超えると急にズレ力が増え、また体圧も増加する報告があり、最大でも30度で止めたほうが良いとの意見がありました。また、角度を低くし、頭の下にマクラを入れて首を屈曲することで、食べやすくなり、また気管と角度がつくため誤嚥しにくくなるとの意見がありました。
 更に会場から、座って食べている方で誤嚥の多い方に対し、STと一緒に嚥下造影をしてみると、90度では却って気管に入っていた。60度、30度と下げていくと、後方にある食道へ入りやすくなり前方の気管への誤嚥が減ってきた。このような検討からSTの指示で30度にして首を曲げて食べるようにしたところ誤嚥が著明に減ったとの話しがありました。
 会場からは、誤嚥して褥創が悪化すれば却って長期にわたって人手がいるので、ここは医師や看護師その他関係する人が一堂に集まって、食事の時にどのようにすればよいのか患者さんに食べてもらい、最善の方法をマニュアル化し、それが徹底されるまで介助さんと一緒に食事介助を行なってはどうかとの意見が出され、検討するとのことでした。

 局所に関し、創部から膿が多量にでる場合はフルニエ、あるいは壊死性筋膜炎と診断し、完全に切開しデブリードメントをする。手術場でないと完全に切開できないくらいに深く広く浸潤していることが稀ではないとの指摘がありました。いずれにしても切開は小さすぎるとの意見が大勢でした。

 別の意見として、アドバンを使っているのに悪くなっているのは驚きとのことでした。創部をみると体圧管理不十分が考えられ、エアーマットレスが故障していることも考えられるとの意見でした。また、食事をする時に低圧にして圧変換モードにすると、マットレスが動くためからだがずれていく、ギャッチアップするときは高圧で固定に設定することが勧められました。さっそく故障かどうかの判定と、食事の時には圧設定を変えてみるとのことでした。

 足が拘縮している場合は、例え高機能エアーマットレスを使っていても信じられないくらいの高圧になっている場合がある。一度体圧を測ってみてはどうかとの指摘がありました。拘縮の強い方では、足の方にクッションを入れるなど圧を逃がすことが大切との指摘がありました。

 今回のように、あまりひどくない褥創が短時間に感染したひどいものに一気に変わることは稀なことと考えてよいのかとの質問がありました。それに対し、肺炎になって2~3日食事を摂らなかったり、あるいは外泊をして帰ったときにエアーマットレスのスイッチが1日入っていないなど、忘れてしまうくらいのイベントでも、それが原因で一気に褥創が悪化することはむしろ通常のことですとの説明がありました。そして生活全般に気を配り、ちょっとした出来事が積み重ならないように、ちょっとした変化を見逃さず早期に対応することが大切との意見がでました。

まとめ

 現在進行形の褥創に対し、いろいろな意見が出て、この例だけではなく皆が現在あるいは近い将来、また過去に経験した例でハッと思うことばかりでした。

 今回は、栄養について勉強しましたが、実はADLとは何なのかとか生活という観点から病院と介護との違いなど改めて考えてみる機会になりました。
 また、難治例を通じて食事姿勢の重要性など、いずれも生活そのものに対するケアの仕方をどうするのかということの重要性を感じました。