第62回 「創の洗浄・坐骨部褥創」

2012年9月20日

症例検討会

<症例提示>

創の洗浄とポジショニング

80歳代女性。要介護5。身長155cm、体重41.3Kg、BMI 17.2、日常生活自立度 C2、ブレーデンスケール 8点。
胃瘻栄養で、1日 1000Kcal、水分1200ml。
経過は、2年前に脳出血を起こし、その後2回脳出血にて寝たきりとなって、経管栄養を行っていた。1年前より仙骨部褥創を発症し、切除されてからの紹介で初回入院された。
当初、エキザルベ軟膏に紙おむつを使用されていたが、壊死組織を切除後、イソジンシュガーにモイスキンパッド使用しフィルムでカバーとなった。
褥創周囲皮膚が発赤しビランとなってきたため、ワセリンと亜鉛華軟膏を混ぜたものを使用開始した。しかし、さらにビランは拡大したため、皮膚乾燥目的にイソジン消毒をしたが、さらにビランは拡大した。
全ての軟膏や消毒は止め、洗浄のみとしておむつをあてるだけにした。これにしてから皮膚のビランは改善し、褥創も縮小した。しかし、浅いがポケットは残っていた。
7ヵ月前に、呼吸状態が悪化し、総合病院へ入院となった。
ここで、PEGが挿入されたが、褥創悪化にて切開手術が行われた後、3ヵ月半前に2回目の入院をされた。
来院時は、オルセノン軟膏に紙おむつとの指示であったが、しばらくしてから、ゲーベンクリームに紙オムツとなった。
創は小さくなってきたが、やはり1.2cm位のポケットを伴っている。

この間の方針としては、「疼痛の緩和をすること。家族にも経過を知ってもらうこと。委員会で話し検討していくこと。」を基本とした。
当初バルーンによる尿管理を行っていたが、尿漏れするため抜去した。尿量は700~800mlであったが、創部には紙オムツをあて、尿が潜り込まないよう股ぐりをしっかり塞ぐようにした。おねしょシーツなどは使わず、厚着をせず、汗が出れば下着をすぐに交換した。
四肢は拘縮し、寝たきりである。時に小さく返事をする。姿勢は仰臥位を禁止として、左右に体位変換を行った。体交枕など、しっかりと使っていった。栄養剤注入時は30度ギャッチアップした。
マットレスは、無圧マットレスを止め、ディスポのエアーマットレスを使用した。栄養はプロテインなどを入れる栄養介入をした。
以前は褥創が多く、またポケットのある例が多かったが、最近はこのような勉強会で新しい情報を入れることで、褥創は大幅に減ってきている。
このような取り組みで、この症例の褥創は、現在小さくなっている。
褥創は患者や家族にとり苦痛であり、適切な処置で元のきれいな身体に戻してあげたい。

皆さんに聞きたいのは、今までの処置法について意見を聞きたい。
また、ポケットがあるが、どうしたら良いのか。ゲーベンクリームを含め全てを止めて、洗浄と紙オムツだけにしても良いのか。
また、現在はシャワー浴のみにしており、フィルムを創部に貼って洗浄の後、フィルムをはがして創処置をしているが、入浴はしても良いのか、また、その場合はフィルムを貼って入るのかを聞きたいとのことでした。

<ディスカッション>

創処置法の経過について質問があり、初めは紙オムツを使っていたのが、モイスキンパッド使用となった。これによってびらんが発生し始めたようだが、そのあとからイソジン消毒が始まったようだ。どのように考えてそうしたのかとの質問がありました。
紙オムツより良いかと思いモイスキンパッドを使ったが、皮膚が赤くなったので、今度は皮膚を乾燥させようとしてイソジン消毒をした。またイソジンシュガーを使ったが、かえって皮膚の荒れはひどくなり広がっていった。
そこで、これらの軟膏を止め、基本に戻そうと思った。そこで、消毒も止めて微温湯による洗浄のみとして紙オムツを直接あてるだけにしたとのことでした。

あのビランは真菌感染か細菌感染だと思うが、消毒がかえって皮膚を荒らし皮膚感染がおこったと思う。そこで全て止めるというのは、素晴らしい決断だと思う。
創面は湿潤にすることが重要だが、創周囲の皮膚は乾燥が必要である。皮膚が傷んだときは、創面の湿潤よりも皮膚の状態を改善することが重要なのだろう。そのことによって皮膚の感染が治癒し、その結果創面にも良い影響が出たのだろうとの意見がありました。

創の洗浄について質問がありました。
真田先生によると、創周囲皮膚の細菌と創面の細菌が同じであり、創周囲皮膚を酸性の石鹸で洗浄することを勧めている。この例では洗浄はどうしていたのか。
また、創面にはワセリンや亜鉛華軟膏を使っていたが、亜鉛華軟膏をとるのは大変で、ゴシゴシこすることになり、それが皮膚を傷める原因になっていたのではないのか。また、その時石鹸を使うと、それも皮膚を傷める原因になっていたのではないかとの質問がありました。

亜鉛華軟膏の量は少なく、ワセリンの量を多くしていたので、こすらなくても取れたとのことでした。また亜鉛華軟膏とワセリンを使った時期は短かったとのことでした。
洗浄には石鹸は使わず、微温湯のみで洗浄していたとのことでした。

それに対し、前々回の研究会では創周囲皮膚にたとえ酸性の石鹸でも、使うと皮膚障害を起こしやすい。リモイスクレンズやベーテルFのような拭き取り型の洗浄剤を使うと、皮膚障害が起きにくいとの意見が多く見られました。またこれらを使っている施設が高岡地区で多いことも分かりました。これは画期的な新しい方法で、あまり一般的ではなく、検証をすれば素晴らしい研究になるだろう。
また、便が付着したときなど、皮膚が汚れたときは、このような洗浄剤を使う他に、サニーナやベビーオイルなどの植物性油脂を使うと、皮膚にやさしくまたよく汚れが取れることでも勧められるとの発言がありました。
会場からも、うちの施設では、石鹸は使わずリモイスクレンズを使っているとの発言が見られました。

ポケットの処置について意見が聞かれました。
仰臥位を禁止して仙骨部には、理論的には圧がかからない状況を作ったようですが、ポケットが見られるということは、圧迫とずれが存在することを意味している。ポジショニングのどこかに問題があるはずだとの意見が出ました。
会場からは、この写真では60度くらいの側臥位になっているが、あまりにも強い側臥位にすると創にゆがみが出る。よくやるのはオムツをとってしまい、いつもやっている側臥位にして創面を観察する。そうすると強い側臥位では創面がゆがんでその時に、下になっていなくても、圧迫とズレが起こっていることを観察できるとの意見がありました。
むしろ仰臥位にしたり、あるいは30度程度にとどめた方が、創部の変形がおこらず、従ってポケットもできずに治癒が進むとの意見でした。
大浦先生も、移動やポジショニングの時に、不適切な介護が行われると、創面にずれが生じ、それが原因で褥瘡が治らなくなることを強調されていました。

また、肩の線と、腰の線と、膝の線が、同じ向きでないと大変苦痛で不快になる。このような捻れた姿勢になると不快なため、身体は硬くなり緊張して拘縮が進行すると聞いたことがあるとの意見が出ました。写真では激しいネジレが体幹におこっていた。 会場からは、この姿勢では左側が伸展パターンとなっており、この姿勢ではさらに伸展を強めることになる。もう少しポジショニングを工夫した方がよい。しかし、どうすればよいとはここでは言えず、時間の空いたときにいろいろ試みることでよい位置が分かるのではないかとの意見が出ました。

以上の意見により、ポケットに対する局所療法については意見は全くなく、ポジショニングの重要性が強調されました。
仰臥位を避けることが、かえって創の治癒を遅らせていた可能性が考えられました。

入浴についての意見が求められました。
全ての創傷において、入浴は基本的に勧められる。これが原則であるとの意見が出ました。その上で、入浴が勧められないのは例外的であり、例えば高熱などの全身状態が悪くて入浴が勧められない状態があげられました。あるいは、感染した蜂窩織炎の褥創で、黒色壊死組織が切開されておらず、従って壊死組織の下に膿が溜まっているような状態、つまり適切に処置されていない壊死組織をともなう感染褥創が入浴禁止としてあてはまるとの意見でした。
この例のように、創面が開放していれば、ドンドン入浴をすることで創は改善するとの意見でした。

会場からも、褥創に対し、週2回の入浴を4回にしたところ、褥創は良くなっていったとの意見がありました。

浴槽は一人で使うわけではなく、何人も使い汚れることを考え、入浴するときはフィルムを貼り、入浴が終わってからフィルムを外してシャワーでドンドン洗っている。これでも良いのかとの質問がありました。
できればシャワーより入浴の方がよい。入浴は究極の創洗浄と言える。浴槽の中の細菌を心配するが、創面の細菌数と比べると、殆どゼロと考えて良い。
ただし、確かに汚れた褥創の方が入ると浴槽は汚れる。自分だったらそのように汚れた浴槽には入りたくないと思う。
そこで、入浴は、褥創などの汚れのない方にまず入ってもらい、そのあとで比較的きれいな褥創の方が入り、次にきたない褥創の方が最後に入ってはどうかと思う。
ただし、入浴しなくても、シャワーだけでもドンドン流せば効果はあるので回数を多くすることを勧めるとの意見もありました。

入浴の時、ブラシ等で創面をこすってはいけないのかとの質問がありました。
これに対しては、創面は生きた細胞で被われている。消毒しても乾燥してもこれらの細胞は痛む。ブラシでこすっても同様で、物理的に創表面の細胞を傷めるので、極力避けた方がよい。手袋をした手でそっとこすりながら洗浄して欲しいとのことでした。

相談タイム
(坐骨部褥創は特殊)

<症例>

90歳代女性。日常生活自立度 C2。
50歳代に原因不明の脊髄損傷があり、下半身麻痺となりました。糖尿病で1200Kcalの食事療法のみでHbA1c 5.8%。
車イス生活で自炊していましたが、70歳代より尿閉となり、膀胱留置カテーテル管理です。
1年前から左坐骨部に褥創を発症し、改善悪化を繰り返すも、しだいに悪化し、総合病院に入院し、切開手術後、転院されてきました。
6.5×6cmの創部で、白色壊死が少しある。DESIGN-Rは28点。処置はリモイスクレンズで皮膚部を清拭し、創面は生食洗浄しソーブサンを入れて穴開きフィルム材で覆っている。
創部は小さくなってきたが、創周囲皮膚には新しい発赤やビランが発症している。
現在は30度仰臥位を主に、ベッド上のみとして、車イス移乗は行っていない。
このような坐骨部褥創は経験が無く、今後どのように治っていくのか。また、治っても容易に再発するのではないのか。どうすればよいのか、意見を聞きたいとのことでした。

<ディスカッション>

栄養についての質問がありましたが、会場の管理栄養士からは、栄養に関しては、90歳代でカロリーは問題ないだろう。また蛋白も50gくらいで大丈夫と思うとのことでした。
採血データは、当初アルブミン3.2で、その後2.7と低下したが、大丈夫と考えているとのことでした。糖尿病の方に対し、無理にカロリーアップしても逆に利用されない糖が尿となって出て行くだけであり、カロリーアップには十分注意が必要と考えられた。

坐骨部はすぐに骨があるため、肉芽は盛り上がらず周囲から皮膚が入り込むようになり、治ったときは巨大なえくぼのようになるとの意見がありました。また、治る過程でえくぼ状の奥の部分の表皮化が遅れ、浸軟することでくさい臭いと滲出液を伴うことがある。これは感染と考えられ、このような場合は、カデックス軟膏、ユーパスタ、ゲーベンクリームなどのうちから、滲出液の度合いで選び、1週間程度で臭いが無くなったら、また表皮化を目指すドレッシング法をするとのことでした。
えくぼ状になったら、中にガーゼなどを詰めた方がよいのかとの質問に、そのようにすると圧迫になるので、内部にはアルギネートやハイドロファイバーのようなものを軽く詰めるだけとし、現在のように穴開きフィルムで被うのがよいだろうとの意見でした。場合によってはハイドロコロイドパウダー(例えばバリケアパウダーなど)で同様にしても良いとの意見でした。

ところで、この方はベッド上のみだが、希望はどうなのかとの質問がありました。
下半身麻痺でも、車イスに乗って自分で動きたいのが普通である。ベッド上で一生を過ごすことで満足なのか、車イスに乗りたい等の希望はないのかをしっかりと聞くことが勧められました。
もし車イスに乗りたいのなら、車イス上が生活となるので、車イスに乗った状態で治癒を図る必要がある。
その際は、ロホクッションクワドトロのようなクッションを用い、車イスもサイズを合わせる。また、この方では左のみに褥創や皮膚障害が発生していることから、左に傾く姿勢になり易いようだ。ベッド上でも左に傾いていると考えられ、ポジショニングをしっかりやる必要がある。このようにすれば、褥創は治癒させ、かつ車イスでの生活も可能になるとの意見でした。

それに対し、車イス上のポジショニングや体圧分散は難しい。両方の坐骨に褥創のある方がいるが、一方が治っても、また反対側が褥創となり、がっかりするとのことでした。
特に車イス上で生活する方では、本人が積極的に褥創治療に参加しないとうまくいかないことが指摘されました。
そのためには、体圧測定器を使って体圧を視覚的に見ながら自分でどのような姿勢がよいのかに興味を持ってもらうことが必要と話されました。また、褥創の写真を常に見せ、良くなったら一緒に喜び、悪くなったら、残念がり、また一緒になぜ悪くなったのか考えることが重要。そして患者に自分で理由を考えてもらい、対策まで考えてもらうようにすることが大切とのことでした。

このように関わりを持つことが、特に坐骨部褥創では必要であり、一緒に治していく関係が大切なようです。医療者側は十分に愛情を持って接したいと思っているのか、こちら側に意欲があるか、患者との関係がよいのか、等、社会的要因が大きく関与するようでした。