第29回 「終末期褥創と、PEGによる難治褥創」

2007年3月15日

 今回は、ターミナル期にある方の褥創にかかわるいろいろとデリケートな問題を含んだ症例と、PEGを入れている方に発症し難治となって苦労している症例について検討しました。いずれも解答がすぐ出るものではなく深く考えさせられるケースでした。

<ターミナル期にある透析患者に発症した難治性褥創>

 第1例目は、終末期の方の仙骨部褥創例でした。
 大腸癌肺転移の終末期にある70歳代の男性で、糖尿病があり血液透析を週2回行っている方です。しだいにADLが低下し、日中も床上で過ごすことが多くなり仙骨部に褥創が発症し、ターミナルケア目的で入院となったようです。

 積極的な治療は行わないということで、点滴等の投与はせず、経口摂取を基本とされたようです。透析を行っており水分が絞られていました。入院当初からAlb値は2.1と低栄養でした。仙骨部は当初発赤程度の褥創でしたが、しだいに白苔を伴うようになりましたが、大きさはさほど大きくならずステージもII度あるいはIII度の浅い状態で推移していました。
 栄養状態はさらに悪くなり、Alb1.8~1.5程度になりました。約4ヶ月後に亡くなられましたが、褥創は最後はむしろ改善傾向にあったようです。体圧分散寝具には低反発ウレタンマットレスが使われましたが、後半は薄いタイプのエアーマットレスに変更になりました。

 このような例に対し、口腔の様子についての質問がありました。自分の歯があり歯磨きもしっかりされており、そのために肺炎を発症することもなかったと分かりました。食事についての質問がありましたが、食事は透析食という治療食が出されており、主食は食べるようにされましたが、副食は口に合わず、ほとんどは家族の持ってきたおかずを食べていたとの事でした。
 これに対し、終末期状態で積極的治療をしないのなら、治療食でなく好きなものを聞いて調理した方が良かったのではとの意見が出されました。
 患者は透析と糖尿病の管理に関しては強い希望があり、透析食をやめると心理的不安が生じるとの判断にて、治療食を継続したとのことでした。これに対しても、食べない治療食より好きなものを少量でも食べたほうが、むしろ治療食になると説明して出せばよかったとの意見がありました。

 終末期にある患者の意向につての質問があり、器械を着けたくない、点滴はしたくない、昇圧剤も使いたくない、などの希望でしたが、苦痛には対応してほしいとのことでした。会場からは、本人の思いは移り変わり、不安な気持ちもあるため、思いを受け止める姿勢が必要だとのアドバイスがあり、また、いよいよ忙しい状態になっている医師は終末期で褥創のある患者を診る余裕はなくなっており、このような例での管理は難しいとの感想も聞かれました。
 発表者からは、「何もしないということで始ったが、低酸素脳症になりかかったときには、主治医は積極的に対応したりと矛盾があり、看護師には戸惑いもあった」との感想が述べられました。
 著しい低栄養状態で、満足すべき体圧分散用具が無いにもかかわらず、このように褥創の悪化もほとんど無くケアできたことは素晴らしいのではないかとの意見も出されました。

 発表者からは、褥創部の疼痛に対して十分な対応ができなかったが、何かアドバイスがほしいとのことでした。それには、まず厚いエアーマットレスが疼痛対策には有効で、特に終末期には制止型の厚いエアーマットレスが好まれるとの意見がありました。また、局所療法の疼痛対策としては、ドレッシングを薄くすることが大切で、フィルム材を使ったりすると良いことが示されました。またガーゼは一般的に皮膚を浸軟させたりなど疼痛の原因になるので避ける、などの意見が示され、この例のようにフィルム材を使ったりなどは良かったのではないかとの意見でした。

 症例のような、終末期の褥創患者は今後もっと増えることが予想されます。告知の問題、治療目標、ケアの統一、そして揺れる患者の心理への対応など、多くの未知で複雑な問題への対応が必要であり大変難しい問題を抱えていることが分かりました。

<大きな仙骨部褥創>

 第2例目は、寝たきりとなり拘縮の強い方で胃瘻(PEG)管理が原因と思われる難治褥創例でした。
 症例は80歳代男性で、高血圧、左大腿骨頚部骨折などの既往のある方が、脳梗塞のため寝たきりとなり特別養護老人ホームに入所中でしたが、褥創を発症し、また低酸素脳症もあり入院となったようです。
 栄養は胃瘻(PEG)から、1000~1100Kcal投与されAlb値も3.4~.3.7と栄養状態は悪くありません。高機能エアーマットレスが使われています。しかし、四肢の屈曲拘縮が強く、オムツ交換もままならないようです。また口臭が強く口腔ケアに苦労しているとのことでした。
 仙骨坐骨部には壊死と感染を伴う褥創があり、外科的デブリードメントが行われ巨大な褥創でした。局所療法は、洗浄とラップ療法で肉芽が盛り上がりましたが、感染を疑い、ヨード剤の使用、または、ユーパスタとオルセノンの混合軟膏の使用などがおこなわれました。しかし、右側で皮膚のまくれこんだポケットを形成し、外科的に切除などが行われました。肉芽が汚く、汚い滲出液が大量にみられるとのことでした。中心部に深い掘れがみられ、今後の治療法に悩んでいるとのことでした。

 これに対し、頭側の新生皮膚に下掘れがあり、ずれと摩擦の存在がみられるため、ベッドアップ姿勢を観察することと、体位変換の方法、PEGからの栄養注入姿勢のチェックなどを全員で検討し、ケア方法の問題点を明らかにし、ケア手順の統一を緊急に行う必要性が指摘されました。
 せっかく高機能エアーマットレスを使っているので、このように拘縮の強い方では90度側臥位による体位変換が勧められ、30度側臥位などをしても結局仙骨部に圧迫が加わるのではとの指摘がありました。

 褥創の中心付近の肉芽にみられる深く掘れた部位は仙骨部というより尾骨部であり、これは胃瘻への栄養注入時に持続的圧迫がおこったと予想できるとの意見がありました。その場合、半固形化剤などを使って注入時間の短縮を図ってはとの意見も出されました。
 講演で話された骨髄炎などの併発も考えられ、CT scanを撮って骨破壊の有無の検討と、細菌培養感受性検査をして、感受性ある抗生剤投与も考えてはとの意見もありました。

 以上のように、本日の症例提示では、終末期褥創の問題、PEG胃瘻からの注入が原因と考えられる褥創の難治化が話し合われました。