高岡市医師会報掲載記事  
   
               
褥創 創傷
褥創・創傷
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褥 創

発生機序
 褥創(じょくそう=床ずれ)はお尻の仙骨部のように、骨が飛び出したところによくできます。寝た姿勢では、この部分が体重によって圧迫され続けるからです。骨と体表の間に挟まれた皮膚や皮下組織、筋肉などが長時間圧迫を受けると、血行障害から組織が死んで褥創ができるのです。体の表面から順に、皮膚、皮下組織、筋肉と続きますが、圧迫の影響を一番受けるのはどこでしょうか。
 皮膚が接するベッドや布団の表面は平らですが、骨は出っ張っているので、影響が一番大きいのは骨に近い筋肉や皮下組織です。さらに、体のすべての組織の中で一番血行障害に強いのは皮膚で、逆に皮下組織や筋肉は血行障害があるとすぐに壊死(えし)してしまいます。というわけで、目で見ることができる皮膚にほとんど変化がなくても、褥創は皮下組織や筋肉ではすでに始まっているのです。だから、血行障害が皮膚に及んで黒くなったときには、すでに筋肉に至るまでのすべての組織が壊死しているわけです。
 それで、黒くなった皮膚をはがすと一気に骨に至る深い褥創になったように感じるのです。皮膚が壊死する前、つまり皮膚が赤くなったり皮下出血が見える程度のときに、除圧マットレスなどで圧迫を除去し栄養を調えると、皮下組織や筋肉を再生させることができます。
 褥創を抑えるには、骨の飛び出したところをよく観察し、皮膚障害の軽い時期に発見して早期に対処することが大切です。

    

予防
 寝たきりの状態が長くなると厄介なものに床ずれがあります。床ずれとは、体を動かせない状態で横になっていると、仙骨部など骨の飛び出したところの筋肉や皮膚などが圧迫のため血が通わなくなって腐り、潰瘍(かいよう)になった状態をいいます。お尻の骨が飛び出したところ(仙骨部)にできることが多く、便や尿で汚れやすく、すぐに悪化して治りにくい状態になります。以前は「床ずれは治らない」と考えられていましたが、今では手間はかかるものの治ることが分かってきました。治療にはまず、床ずれの原因を知ることが必要です。これまでドーナツ状の枕(円座)を用いて床ずれのところを浮かすと良いとされてきましたが、これでは周囲に強い圧が加わることから、かえって床ずれが広がると分かり、今では使われなくなりました。
 正しい除圧の基本は、頻繁に体を動かすこと(体位変換)と、圧迫除去マットレス(エアーマットレス)を使うことです。エアーマットレスはある程度厚みのあるものが必要です。介護保険によってエアーマットレスを借りることができます。月額600〜1000円くらいです。床ずれの予防と治療において、原因療法となるエアーマットレスは必須の用具だと知っておいてください。


褥創の深達度分類
 IAETの分類に準じた形で行い4つに分類しました。これに類似した分類としてはNPUAPの分類が有ります。以下の分類をわかりやすく理解するために、立体的な褥創モデルとドレッシング練習用のモデルを作りました。大きなもので教材用で値段が張りますが、教育施設での使用をおすすめします。

連絡先:株式会社坂本モデル 〒606-0865 京都市左京区下鴨東高木町34
TEL075-701-1135 FAX:075-722-5638 http://sakamoto-model.co.jp
 I度の褥創:表皮は破られていないが皮下出血など時間が経っても消えない発赤が見られる状態です。体表からの肉眼的観察では発赤としてしかとらえられませんが、触ってみると皮膚がやや頼りなく特に踵などではマシュマロのような触感です。表皮や真皮の血行障害のみではなく、実は皮下脂肪層や筋層を含む全ての軟部組織の血流障害を起こしている状態です。この状態では摩擦による表皮剥離を起こさない事が大切で、表皮の保護がスキンケアの基本となります。表皮剥離の原因となり、またすでに損傷している皮下の組織に出血をもたらすマッサージはもちろん禁忌です。

 II度の褥創:表皮が剥離した状態は典型的なII度の褥創ですが、真皮が部分的に損傷した中間層創傷もこれに当たります。真皮層には豊富な血流が有るため新鮮なII度の褥創では出血や浸出液が観られます。同様に表皮と真皮が分離しそこに浸出液のたまった状態である水疱もII度の褥創です。また水疱内に血液が観られる血腫は真皮層が損傷しており水疱と比べると深くまで障害が観られますが、これもII度の褥創に入ります。創面が乾燥すると真皮壊死部となり黄色の痂皮ができます。乾燥がより強いと黒色の薄い痂皮となり多くの場合やがて一気にIII〜IV度の褥創となります。
 浅い皮膚損傷であるII度の褥創までの段階で真皮損傷の進行を食い止める事ができれば、残った真皮の上で創全面で表皮化を起こすことができます。したがってII度の褥創の時期は短期間で褥創を治すことができるラストチャンスとして重要なのです。しつこいようですが、この段階で栄養改善・除圧を行い適切な局所療法を選択できなければ、2週間程度で治癒できたものが、うまくいっても3〜4か月要する褥創へと進行してしまいます。

 III度の褥創:III度の褥創はII度の褥創から進行してなることは比較的少なく、筋層以下まで障害されたIV度の褥創が治癒していく過程でIII度と判定される事が一般的です。例えば筋層以下での組織障害を伴うIV度の褥創でも痂皮を除去せず感染のコントロールを行っていた場合、後に痂皮を除去したときに痂皮の下に肉芽組織が見られIII度と判定できる場合が有ります。また、深い褥創で肉芽が出てきて創面が被われ創の収縮が進む時期もこのIII度の褥創の時期と言えます。III度まで回復した褥創でも除圧がうまくいっていなかったり、栄養状態が悪化したり、抗癌剤などの治療が再開されたりすると肉芽の中に褐色や黒色の壊死した部分(皮下壊死部)が観られることも有ります。
 この時期の局所ケアのポイントは壊死組織が有ればこの除去を行い、壊死組織が無くなれば肉芽の盛り上げをよくするドレッシング法を選択することです。
 III度の褥創においては基底層の細胞は創縁にしかないため表皮化は創縁からしか起こりません。褥創における表皮化は、創が肉芽で埋められてくると同時に創縁からゆっくりと起こるのが理想的です。

 IV度の褥創:
IV度の褥創は痂皮を除去したあとで筋膜や骨膜に至る褥創として認識されます。痂皮を除去しても褐色ないし黒色の皮下壊死・筋肉壊死・骨膜壊死が見られ、また白色の筋膜壊死が残ることも有ります。
 IV度の褥創では皮膚と皮下の組織が広く遊離した状態が観られることが多く、ポケットと呼んでいます。これは圧迫による血流障害は真皮層よりも皮下脂肪層や筋層でより広範囲に起こるためと、血流障害に最も強い組織が真皮であり血流障害に弱い組織が皮下脂肪や筋肉であるからです。そのため皮膚よりも皮下の組織でより広範な組織壊死が起こり、壊死部を除去すると多くの場合ポケットとなるのです。
 大きなポケットがある場合は感染のコントロールのためにも切開をしてポケットを開放する必要が有ります。また筋膜や骨膜の壊死部は少しずつ除去するプランを立てます。この段階は感染のコントロールと壊死組織の除去が局所ケアのポイントとなります。

※本内容は、ライフサイエンス出版株式会社「新しい褥瘡予防と治療・ケアの実際」2003年10月号に記載した内容を要約して掲載しました。

 参考文献
1) Smith DJ , et al. : Burn wounds: infestion and healing. Am J Surg 1994; 167(1A Suppl): 46S-48S
2) Smith DJ, et al. : Donor site repair. Am J Surg 1994; 167(1A Suppl): 49S-51S
3) Hutchinson JJ, et al. : Wound infection under occlusive dressings. J Hosp Infection 1991; 17: 83-94
4) 塚田邦夫、他: 消化器手術直後の皮下膿瘍切開創に対するアルゴダームの使用経験. 新薬と臨症  44(4)、629-643、1995
5) 塚田邦夫: 化膿創にアルギン酸カルシウムドレッシング材(カルトスタット)は使えるか. Progress in Medicine  18(1)、1998


褥創予防と治療における栄養の意義
 断続的、あるいは持続的な圧迫によって傷ついた組織は、アポプトーシス(細胞の自然死)によって自己融解して新しい組織に常に置き変わります。この新しい組織を作ることを「蛋白合成作用」と呼び、逆に自己融解していくことを「異化作用」と呼びます。体の中ではこの異化作用と合成作用がバランスよく行われています。
 摂取カロリーの不足
 摂取カロリーの不足があると、体を維持する最低限のエネルギー(基礎エネルギー)を下回り、体の基本的部分の維持のために、体に蓄えたエネルギーを消費します。肝臓中のグリコーゲンなどの貯蔵エネルギーはすぐに無くなり、壊しやすい筋組織を分解してエネルギー源にします。また脂肪も壊してエネルギー源になります。このように体の組織を壊してエネルギー源を得なければいけない状態を「異化亢進状態」といいます。
 異化亢進状態では蛋白合成作用は著しく低下します。このような状態下では、持続的圧迫で傷ついた組織の修復はストップし、やがてはっきりとした創傷(褥創)になるのです。
 蛋白質の摂取不足
 例えエネルギーが十分投与されたとしても、蛋白質が不足しているとどうでしょうか。基礎エネルギーは充足され、その意味では体の組織を壊す必要はないのですが、創傷を治すためには蛋白合成を行うことが必要です。蛋白質の合成にはアミノ酸が原料になるのですが、アミノ酸は食事から摂った蛋白質を分解して作られます。そこで、食事中にアミノ酸になる蛋白質が不足していると、結果として創傷部での蛋白合成が行えなくなります。
 このように褥創に限らず、創傷の発生予防及び治療において、カロリーと蛋白質の必要量をしっかりと摂取していることが大変重要なのです。
 ビタミンやミネラル
 体にとってビタミンやミネラルも大切な栄養素です。創傷において特に強調するものとして、ビタミンCと亜鉛があげられます。いずれも創の修復、つまり蛋白合成の時に大量に消費される栄養素だからです。
 栄養スクリーニング
 栄養状態を血液検査値、特にアルブミン値でみることは大変意義があり提唱しております。アルブミン値が3.0g/dl以下では褥創の発生率が高くなり、2.5g/dl以下では褥創が治癒しないと考えられます。しかし、アルブミン値が測定できなくても栄養摂取状態は把握できます。特に、在宅ではもっと簡便に行う必要があります。
 私の属している「在宅チーム医療栄養管理研究会」が作成した栄養スクリーニング表(近日中に第一出版から発売予定)でも取り上げているのですが、栄養状態は喫食量で判断すべきでしょう。そして栄養状態の悪化は、まず水分摂取不足で始まります。高齢者において、危険状態の水分量は1日1000ml以下(食事からの水分も含む)です。また摂取カロリーが1日900Kcal以下になった時も危険状態です。このような水分1000ml/日以下、あるいは摂取カロリー900Kcal/日以下の判断は、管理栄養士であれば患者あるいは家族と30分程度会話することで、容易にしかもほぼ正確に計算できます。これは医師や看護師にはできないことなのです。
 栄養危険状態での対応
 このような「危険」状態では、まず500mlの維持輸液の点滴を行います。また一日水分量と摂取カロリーを、1000mlおよび900Kcal以上へ持っていきます。
 この時、管理栄養士は患者および家族との面談で、食形態をどうするか、補助栄養やサプリメントをどうするかなどを総合的に考え、主治医や看護師とも意見を交換して栄養食事療法を実施していきます。栄養食事療法は管理栄養士の専門領域であり、当院では訪問栄養指導などで対応しています。
 以上のような早期の対応ができるシステムを作れば、かなりの数の褥創発生を防ぐことができるはずです。余談ですが、外科系病院であれば手術1週間前の喫食量が問題となります。いまだに少なからずの病院において、手術2〜3日前の栄養摂取状況は惨憺たるものなのです。その責任は主治医にあるのですが、責任の一端は病院管理栄養士にもあり、恥ずかしいことと思うべきでしょう。
 褥創治療の栄養療法
 褥創ができてしまった場合ですが、考え方は予防と同じです。

※本内容は、フットワーク出版株式会社(http://www.shokuseikatsu.jp)「やさしくわかる創傷・褥創ケアと栄養管理のポイント」および「食生活」2003年4月号に記載した内容を一部改編して掲載しました。


褥創へのハイドロコロイドドレッシング材の使い方
 被覆材の分類(表1)
 創傷を覆う清潔なカバーであるドレッシングの中には、「被覆材」と呼ばれる範疇に属する一群がある。これらのものは皮膚欠損が生じた創傷の処置時に用いられるもので、傷の深さによって保険請求上の規定がある。また一般的に2週間、最大3週間までと使用期間が制限されている。
 被覆材の多くは、創面に湿潤環境を作りやすい特徴を持っており、新しいタイプのドレッシングとも呼ばれる。被覆材には二つのタイプがあり、創面を覆う「閉鎖型」と、創内に用いる「充てん型」がある。閉鎖型のものに、ハイドロコロイドドレッシング材があり、被覆材としての特徴を最も出している。
 表1.被覆材の分類

 使用法による分類
閉鎖型 ハイドロコロイドドレッシング材(デュオアクティブなど)
フォーム材(ハイドロサイト・ティエール)
充てん型 アルギネート材(カルトスタット・ソーブサンなど)
アクアセル・キチン・ペースト(コムフィールペースト)
ジェル(グラニュゲル・イントラサイトジェルなど)
充てんフォーム材(ハイドロサイキャビティー)

 目的別分類
肉芽増殖目的 ハイドロコロイドドレッシング材・アルギネート材
アクアセル・キチン・フォーム材・ペースト
表皮化目的 ハイドロコロイドドレッシング材
浸出液のコントロール(吸収) アルギネート材・アクアセル・充てんフォーム材
キチン・ペースト
壊死組織の自己融解促進 ジェル・ハイドロコロイドドレッシング材
感染のコントロール 充てんフォーム材

 ハイドロコロイドドレッシング材の利点
 単独で湿潤環境を作る:粘着面の親水性素材が浸出液を吸収し、創面に湿潤環境を作るとともに、周囲皮膚は乾燥状態を維持する。
 外部からの汚染を防ぐ:ドレッシング材の外面はポリウレタンでできており、外部からの汚染をブロックする。
 ズレに対して強い:粘着面が皮膚に接着するためズレに強い。しかし、強固ではないのでテープなど周囲を固定することが勧められる。それでもずれる場合は、むしろズレに対するケア上の問題がある。
 ドレッシングの厚みを薄くできる:褥創では大変有利である。

 ハイドロコロイドドレッシング材使用の注意点
 浸出液が多いと難しい:粘着部の親水性素材の吸収力には限度があり、浸出液が多く1日2回以上交換を要する場合は周囲皮膚を障害し、また経済的にもメリットが無い。すでに感染があり浸出液が多い場合は禁忌である。
 最大3週間までしか保険適応が無い:被覆材全てに言えることである。
 深さで保険適応が異なる:薄いタイプ(デュオアクティブET、テガソーブライトなど)は真皮に至る深さ用であり、厚いタイプ(デュオアクティブ、アブソキュアウンドなど)は皮下組織に至る深さ用である。

 よくある誤解
 よく「ハイドロコロイドドレッシング材を使うと感染が起きやすい」という非科学的な意見がある。創感染には3つのルートがある。一つは、既に創内に細菌が存在する場合。二つ目は、創周囲皮膚など創外から細菌が侵入する場合。三つ目は、血行性に創内へ細菌が入る場合である。ハイドロコロイドドレッシング材などで閉鎖性ドレッシング法を行うと、二つ目の創外からの細菌侵入を防ぐ効果がある。しかし、既に創内に細菌が存在する場合、創感染はどのようにしても発生する。このようなケースでは「ハイドロコロイドドレッシング材は1週間貼りっぱなしにするものだ」等の誤った知識で創処置を行っていると、ひどい創感染になるまで気付かないことがある。このようなことから「ハイドロコロイドドレッシング材は創感染を高率に起こす」という誤った情報が広まったと思われる。

 具体的な使い方
肉芽増殖と表皮化(ステージIIIにおいて):創内の湿潤環境を守り、浸出液を創内に留めることで、浸出液中のグロースファクターが有効に活用されて肉芽の増殖と創の収縮が進展する。肉芽の形成と同時に、創周囲より表皮化が進行し痂皮を作ることなく速やかに瘢痕治癒する。
表皮化の促進(ステージIIにおいて):ステージIIでは、真皮層が創表面に露出しているため、湿潤環境にして創面の治癒環境を整えると、表皮細胞が創全面に遊走して一気に表皮化する。
壊死組織の自己融解:感染徴候の無い痂皮に対し、ハイドロコロイドドレッシング材を貼用して1〜2日毎に交換していく。このようにすると、痂皮の下へと出てきた浸出液が痂皮の中に留まり、浸出液中に存在するコラゲネースなどの蛋白分解酵素が十分に作用する。痂皮は白っぽく軟化してくるので、外科的にこれらを容易に切除できる。このような方法を行うと痂皮を除去したあとには既に赤色の良性肉芽ができている。
浸出液が多い場合の併用法:ハイドロコロイドドレッシング材単独では浸出液のコントロールが難しい時、アルギネート材やアクアセル等と併用すると効果的である。しかし、二つ以上の被覆材を使った場合、一つしか保険請求できないことが問題である。このような時、被覆材以外のもの、例えばストーマ処置に使うハイドロコロイドパウダーを併用することがある。

 最後に
 ハイドロコロイドドレッシング材は、被覆材らしい被覆材と言え、使い勝手も軟膏類とかなり異なっている。ハイドロコロイドドレッシング材の特徴をよく理解して使いこなしていくことが大変有用である。


体圧分散寝具の適正使用
 褥創の予防は何と言っても体圧分散用具の使用に始るであろう。では、その選択と使用はうまく行えているのであろうか。
 選択の基準:ステージI・IIとステージIII・IVの褥創で、エアーマットレスの選択を変える考え方が一般的である。つまり、ステージが進んだものでより高機能のエアーマットレスを選択するという考え方であるが、果たしてこれは正しいのであろうか。
 ステージI・IIの褥創は、確かに外見上の組織障害は軽度である。しかし、褥創の発症メカニズムからすれば、既に皮下組織は不可逆的な壊死に陥っていると考えたほうが良い。体表部分はむしろ深部より圧迫は弱く、また皮膚は血流障害に最も強い組織であることを忘れてはならない。
 このステージIあるいはIIこそが、最も体圧分散効果の高い除圧用具を導入すべき状態なのである。ステージI・IIの段階で皮膚を守り、その時に損傷した深部の組織障害を自然治癒させれば、2〜3週間で安全な状態にできるのである。しかし、この時不十分な体圧分散用具を選択すると、ついには皮膚も壊死しステージIVの褥創となり、治癒するのに5〜6ヶ月必要になる。
 体圧分散寝具の適正使用:エアーマットレスを導入すれば、それで除圧が行えたことにはならない。まず、エアー量の調整が適正に行えてるだろうか。エアーの量が不足しているともちろん患者さんの体は底づきし、除圧効果はなくなる。同様にエアーの入れ過ぎも体圧分散効果は低くなる。
 最近は体重の値に合わせることでエアー量を設定できる器械や、エアーセル内の圧を自動調整する器械も出てきてはいる。しかし、身長・体重・体形はそれぞれ患者さんごとに異なっており、また拘縮があると状況はまた違ったものになる。そのため、設定した状態が本当に適正であるかを、手を使ったマニュアルで判断できる知識と技術はケアを担当する全ての者ができる必要がある。
 実は、大変早くからエアーマットレスを導入して褥創ケアに努めている理想的な病院において、エアーマットレスの動作確認試験をしたことがある。68床の病院で、エアーマットレスだけで19台使われていたが、実にこのうち3台(15%)で作動不良があった。内容は、2台が設定圧を最低にしても高圧のままになる故障であり、1台はエアーセルと器械の間のチューブ屈曲による圧不足であった。この病院では、日々エアー量を手で確認していたにもかかわらず、業者による動作確認試験まで気がつかなかったのである。
 エアーマットレスは一度購入すれば、10〜15年間毎日使いっぱなしになっている。精密機械であるエアーマットレスは5年もすれば不具合(故障)が出て何の不思議もない。最近の実例であるが、在宅の褥創に対し新品のエアーマットレスを導入し治療するも、期待した治療効果が得られず不思議に思っていた。往診した際、妙にエアーマットレスが硬くおかしいと業者に連絡したところ、機械の故障と判明し交換となった。
 全ての介護に当たるメンバーは、エアーマットレスを手で押してみて不具合をいち早く気付く能力を持っているであろうか。また、エアーマットレスのメインテナンススケジュールはできているのであろうか。
 さらに、せっかく高機能のエアーマットレスを使っていても、防水横シーツを用いると除圧効果が低下する。防水横シーツが使われていた仙骨部の突出した高齢者において、さまざまな条件で体圧を測定した。この時、15cm厚の高機能型のエアーマットレスが、防水横シーツを用いたことで、5cm厚の除圧効果の低い機種と同等まで体圧が高くなっていた。
 このように、除圧効果の高いエアーマットレスを使っていても、使用法によっては予定した除圧効果が必ずしも得られるとは限らないのである。体圧分散用具の使用にあたっては、器械そのもののハード面の問題もさることながら、使い手の問題であるソフト面での問題も同様に重要である。

※本内容は、看護実践の科学(看護の科学者、2005年2月号)に掲載した「褥創予防をめぐる環境要因とその整備」を改変して掲載した。


褥創とEBM
 EBM(EBN)は完璧か?:最近の褥創ケアはEBM・EBNと大変うるさく、全ての判断や行動が縛られ堅苦しくて仕方がない。何か間違っているような気がするが、どうだろうか。実は臨床現場からの直感が一番大切ではないかと思っている。
 我々が医療や看護を行うとき、それは患者さんに対して行うのであり、動物や器械に対して行っているのではなく、当然実験室で行っているわけでもない。全て臨床の現場でのことである。今現に行おうとする行為が患者さんにとって有益か無益か、絶えず自問しながら行っている。そして何らかの決定をして実行するわけであるが、このときに自身の過去の経験や、あるいは論文などで発表されたデータをもとに決めている。このデータがエビデンス(証拠)と言われるもので、この方法がEBMである。
 このエビデンスは、より一般性が高ければ高いほど普遍的であり、それを称してエビデンスレベルが高いという。このことより、エビデンスレベルの高いものを基準にして行為の選択をすることに文句を言うつもりはない。しかし、この段階で大きな不安がある。
 アセスメントは適切か?:エビデンスを使うには、患者さんの情報を単純化しなくてはいけないはずである。褥創予防であれば、「自力体位変換ができるか」「栄養は良いのか」「原疾患は何であるか」など、エビデンスを引っぱってくるための単純化したデータをインプットする必要がある。それでは、そのインプットしたデータは、この個々の患者さんにとって本当に重要なことなのであろうか。
 個々の患者さんの褥創予防にとって、何が重要であるのかのアセスメントができなければ、何のエビデンスを引っぱってくるのかが判らないはずである。つまり研究室ばかりに居て患者さんを診ていない医療者、あるいは現場に居ても臨床経験の浅い医療者はエビデンスを使うことはできないのである。つまり、エビデンスを使うためには、臨床経験が必要なのである。
 具体的に言えば、ある患者さんがいて「この患者さんの褥創予防には高機能エアーマットレスの導入が最も必要ではないか」という直感があって初めて、この患者さんの重要と思われるデータ、例えば「脊髄損傷のある患者における高機能エアーマットレスの選択は適切であるか」についてエビデンスを探してみようという行動に繋がるのである。そして、データを探してみて、それを裏付けるデータがあるかもしれないし、場合によっては別のデータ、例えば「リハビリをもっとやったほうが良い」というデータに直面するかもしれない。これがEBMである。つまり、EBMをを行うには、臨床でのアセスメントがしっかりできていないと意味の無い机上の空論なのである。
 エビデンスは個々の例を考えていない:先に書いたようにエビデンスは物事を単純化し、一般化して有用性の検証をしてある。従って有意差という極めて冷たい判断結果が示される。ところが、患者さんは単純ではない。エビデンスで示された単一あるいは数種の要因の他に無数の特徴を有している。それが個性である。
 その個性を一旦一般化して、判断をEBMに委ねてデータを選んだことを忘れてはならない。従ってそのデータに基づいて、個々の患者さんにある行為を適用するかしないか、そのエビデンスを本当に適用してメリットがあるかどうか、最終的に判断する能力が必要である。どんなにエビデンスがあっても、直感的に適用しないことを選ぶことも良くあることである。ここでも極めて高度な臨床経験が要ると思われる。
 とは言え、私自身エビデンスを利用して臨床を行っている。私が書いたり言ったりしていることも、このような臨床経験に基づいて、大いにバイアスのかかった直感的に正しいと思うことについてデータを集め、裏付けをとっての話である。
 私はこれで良いと思っている。自分の直感を裏付けるために、またそれを行うための勇気をもらうためにEBMを使っている。従って、自分の直感に反するときは、極めて慎重に使っている。あくまでもEBMは使うものであって、EBMに使われてはならないのである。

※本内容は、看護実践の科学(看護の科学者、2005年2月号)に掲載した「褥創予防をめぐる環境要因とその整備」を改変して掲載した。
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創 傷
皮膚および皮下の構造
 表皮:皮膚および皮下は体表から、表皮・真皮層・皮下脂肪層・筋層・骨となっています。表皮の一番深いところで真皮に接するところを基底層と呼び、表皮の中ではこの層の細胞のみが分裂することができます。分裂した表皮細胞は体表に向って次第に押上げられますが、この時細胞核がだんだん無くなり細胞質は次第にケラチンに置き替わってゆきます。最終的にケラチン(角質)のみとなり垢となって脱落してゆきます。したがって体表は死んだ組織(ケラチン層)で被われており乾燥に強い構造になっています。
 この基底層の細胞には血管は分布しておらず、真皮層の毛細血管ループからの拡散によって酸素や栄養が供給されています。この基底層は乳頭状に入り組んだ構造になっており(真皮乳頭)、真皮層と比較的強固に接着しています。この乳頭状の構造は年齢とともに次第に平坦となり、また表皮・真皮の厚さも薄くなることから表皮剥離が起きやすくなります。いずれにしてもこの表皮と真皮の接合は強い摩擦にさらされると引剥がされて表皮剥離を起こします。また圧迫や繰り返す摩擦・温熱等のように血流障害や慢性・急性の刺激によって部分的に接着力が落ちると、浸出液が溜まり水疱になります。このような表皮剥離や水疱では血管の損傷が無いので出血は有りません。したがって表皮剥離でも出血を観たり水疱内に血液の溜まった血腫の場合、真皮層まで損傷されたより深い創傷になっていることが解ります。
 前に書いたように表皮は基底層の細胞分裂のみによって作られるので基底層の無いところでは表皮化は起こりません。したがって基底層が全面に見られる表皮剥離創や水疱内では、創の全面で表皮化が起こります。
 神経終末は表皮には来ていませんが、すぐ下の真皮層には神経終末が集中しています。そのため表皮の部分的な剥離(例えば垢スリ)では痛みは有りませんが、表皮の薄いところが乾燥や薬液などによって刺激されると、真皮層の神経終末が刺激されて痛みや痒みが起こります。同様にアトピー性皮膚炎などのように表皮のバリアー機能が低下するとアレルゲンなどが真皮層に到達するために痒みや痛みを起こします。

 真皮層:真皮層が表皮と最も違うのは、真皮層は全て生きた細胞からなっている点です。したがって表皮剥離などで真皮層が露出した場合、表皮のように乾燥した環境に置かれると露出した細胞は乾燥によって壊死しその分創は深くなってゆきます。
 真皮層では基底層のすぐ下で毛細血管がループを作っており血流が豊富です。またこのあたりに神経終末が分布しており皮膚の色々な感覚をキャッチしています。したがって真皮層が損傷された場合、直ちに痛みが起り出血を観ることとなります。
 真皮層の最深部あたりまで毛嚢が伸びてきており、毛嚢の先端部には血管や神経が分布しています。ここで重要なのは毛嚢の内部は表皮と真皮の間に有った基底層が伸びてきていることです。ですから真皮層がある程度残った創傷(中間層創傷または部分層創傷と呼ぶ)では、毛嚢の多くが創面で切断されたようになります。毛嚢の切断面には基底層が有るため、中間層創傷においても表皮剥離創と同様に創の全面で表皮化が起こってきます。
 真皮層はコラーゲンとエラスチンが大きな構成成分となっています。コラーゲンは大変強い線維質で皮膚の構造的な強さの源となっています。エラスチンは柔軟性に富み皮膚に柔らかさをもたらします。この真皮は皮膚および皮下の組織の中で構造的に一番丈夫な組織であるだけではなく、虚血にも最も強い器官です。褥創のように皮下の軟部組織全層の虚血をもたらすような病態では、上記のような理由で、一般的に真皮が一番最後に壊死に陥ります。したがって褥創においてはこの真皮層が壊死して破られると、III度を通り越して一気に筋や骨膜も巻込まれたいわゆるIV度の褥創になります。
 逆に皮膚の中で比較的弱い表皮剥離が起こっても、真皮層を乾燥から守り除圧をしっかり行えば真皮層の血流を保ち表皮化をすみやかに起すことができ、1〜2週間で治癒に持っていくことができます。

 皮下脂肪層:皮下脂肪層は豊富な脂肪組織によってクッション効果と保温効果を発揮し、これらの脂肪は貯蔵カロリーの役も果たします。真皮直下には深層血管網が有り、ここには動静脈シャントが有りますが、この動静脈シャントは自律神経が調節しています。これによって体温調節を行っていますが、糖尿病ではこのシャントが開きっぱなしになるため皮膚温が高い割には表皮への血流が不足し皮膚損傷が起こりやすくなります。
 皮下脂肪層には神経終末がほとんど無いために創が皮下に及んで潰瘍となっても、逆に痛みを感じにくくなります。最も強い痛みを感じるのは真皮層までの中間層創傷で、その中でもむしろ浅いものの方が痛みは強くなります。皮下脂肪層には毛細血管があまり発達しておらず感染に弱く創治癒が遅いため、褥創が皮下脂肪層に至ると多くの場合一気に筋組織まで障害されます。

 筋層・骨:皮下脂肪層の奥は筋および骨となっていますが、筋層の表面は筋膜で、骨の表面は骨膜で被われています。この筋膜や骨膜には感覚神経の終末が来ており痛覚が有ります。従って褥創も深くなって筋膜や骨膜が露出すると痛みがでます。しかしこの痛みは真皮層の痛みと比べると弱いものですし、筋膜が壊死し骨膜が露出した場合の骨膜の痛みはさらに弱いようです。ただし褥創の感染が悪化し化膿した状態になると褥創周囲の皮下が赤くなり(発赤)、腫れて浮腫状となり(腫脹)熱くなります(熱感)。このようになると創痛が強く(疼痛)、深い褥創で創の周囲に痛みを強く訴えるときは要注意です。この発赤・腫脹・熱感・疼痛を化膿の4徴と呼んで褥創が化膿したときのサインにしています。


傷を消毒しない理由
感染による創傷治癒障害
 創傷が発生した場合、これに細菌感染がおこると細菌の出す毒素によって創傷内に微小血栓ができ、血流不全から組織壊死が進行します。また血流障害は、細菌を攻撃する好中球やリンパ球、あるいはマクロファージの活動や遊走を妨害します。さらに、細菌から分泌される蛋白分解酵素によって組織が融解し、創傷範囲が拡大します。
 このように、細菌感染によって急速に創傷の状態は悪化します。そして患者の免疫能が低下している場合は、全身感染症あるいは敗血症へと進展する危険性が出てきます。

創感染の発生因子

 創感染の発生には、「細菌数」のみが関与するわけではありません。この他に「創環境」、つまり異物の存在や組織血流障害の有無、あるいは創面がよくドレナージ(開放)されているかなどが重要です。そして何よりも生体側の「防御力(免疫力)」がしっかりと機能していることがポイントです。この防御力にとっては、体全体の体力や栄養状態も大事ですが、創傷局所にとっては、創面で免疫力を発揮する白血球(多形核白血球・マクロファージ・リンパ球)の活動が制限されていないか、あるいは創面の組織損傷の程度が重要です。つまり、創感染は、これら「細菌数」「創環境」「防御力」の3つの力のバランスによって成り立っているのです。創面の消毒はこのうち「細菌数」のみを減少させることを目指したものです。

汚染創消毒の是非

 創感染もなくしっかりとドレナージされている創面が細菌で一時的に汚染された場合、つまり一般的な開放創を意味しますが、このような時に創面をイソジンで消毒すると細菌感染を予防することができるでしょうか。これについては1982年にRodeheaverらがモルモットの背中に開放創を作った実験で結果を報告しています1)。まず創面に細菌を散布し、イソジンで消毒すると、生理的食塩水だけで洗浄したよりも有意に細菌数は減少していました。しかし4日後に創感染率をみてみると、イソジン消毒群では100%感染していましたが、非消毒群では全く感染していなかったのです。創面の消毒は感染の原因になっていたのです。
 Balinらは、一般の消毒に用いる10%というイソジン液どころか、0.01%というずっと薄いイソジン液であっても、創傷治癒に重要な線維芽細胞の増殖を抑制すると報告しています2)。またVan Den Broekらは、0.1%のイソジン液は防御力に関係する白血球やマクロファージに有害であったと報告しています3)。
 以上の報告などから、感染のおこっていない汚染創(つまり開放創)において、創面をイソジンで消毒することは、従来医師が直感的に信じてきた感染予防効果は全く無く、むしろ感染誘発作用があり決しておこなってはいけない行為だったのです。

感染創の消毒の是非
 では、既に細菌が増殖を始めている感染創において創面の消毒は意味があるのでしょうか。「感染していない開放創は消毒すべきではない」という点に賛同する多くの医師も、「感染創においては消毒は良いじゃないか」という医師がほとんどです。
 2000年に上地正美らは、実験的に作った感染創において浸透圧による影響を調整して、酸性水・イソジン液・蒸留水の三種類の洗浄液で創面を洗浄し、創傷治癒速度を比較した結果を報告しました4)。まず、この三つの洗浄液で洗浄後の創面の菌数には差がありませんでした。つまり感染創では細菌は表面ではなく創内にいるため、蛋白質を含む浸出液ですぐに失活する消毒液の効果はほとんどなく、洗浄という物理的な行為による菌数の減少しか関係はなかったのです。さらに創傷治癒速度に関しては、酸性水およびイソジン液で洗浄した群よりも、蒸留水で洗浄した群で有意に速くなっていました。
 上地らは、浸透圧が組織液と同一である生理的食塩水で洗浄すればさらに創治癒に有利であろうと結論しています。

開放創におけるイソジン消毒は有害

 以上の実験結果からはっきりと言えるのは、創が感染していようがいまいが創傷面をイソジンで消毒することは、創感染の予防効果や治癒促進効果は全くなく、むしろ創の感染の原因となり治癒が遅くなるだけなのです5.6)。

開放創の正しい処置法

 開放創において、創感染の予防としては異物を除去し、創面を十分に生理的食塩水で洗浄することが基本です。また感染創でも、まず異物を除去し創を解放ドレナージして生理的食塩水で十分に洗浄することが大切なのです。実はこのことは外科学においては最も基本的な手技であり、創面を消毒するということはいかなる外科学の教科書にも載っていないことであり、単に勉強不足の医師の直感でしかなかったのです。

※本内容は、日本看護協会出版会(http://www.jnapc.co.jp)「コミュニティーケア」2004年2月号に記載した内容を一部改編して掲載しました。

参考文献
1) Rodeheaver G., et al. : Bactericidal activity and toxicity of iodine-containing solutions in wouds. Arch Surg 117; 181-186: 1982
2) Balin AK., et al. : Dilute pobidon-iodine solutions inhibit human skin fibroblast growth. Dermatol surg 28; 210-214: 2002
3) Van Den Broek PJ., et al. : Interaction of povidone-iodine compounds, phagocytic cells, and microorganisms.
  Antimicrob Agents Ghemother 22; 593-597: 1982
4) 上地正美, 他 : 創傷治療における酸性水とポビドンヨードの消毒効果の比較. 動物臨床医学 9; 7-12: 2000
5) 塚田邦夫 : 褥創患者に消毒薬を使わない. Visual Dermatology 2; 482-484: 2003
6) 塚田邦夫 :消毒. 閉鎖性ドレッシング法による褥創ケア 徳永恵子,塚田邦夫 編著 南江堂 東京 30-34 2003


気切部の消毒は不要
 気管切開部(気切部)とは、皮膚切開をして作った気管との交通路です。外側は皮膚で、一番奥が気管粘膜です。粘膜と皮膚の間が瘻孔で、肉芽組織で被われています。
 さて消毒ですが、気切部を消毒しようとする場合、その目的は気管内への細菌の侵入防止と、周囲皮膚の皮膚感染予防、および瘻孔部の感染予防だと思います。
 瘻孔の肉芽組織は、血流が豊富で細菌の増殖に対しては強いバリアー機能があり、消毒の必要はありません。さらに、瘻孔内の消毒は絶対してはいけない理由があります。瘻孔部の消毒をした場合、消毒液が気管内に入る可能性があるからです。いかなる消毒液でも気管内に吸引されると、ひどい気管粘膜の炎症を起こします。
 さて、気管内への細菌の侵入を気切部の皮膚消毒で防ぐことができるでしょうか。気管内の感染あるいは肺炎の原因は、吸入気の乾燥による気管粘膜の繊毛運動の低下や気管分泌物の固着が重要で、吸入気の加湿が予防上最も大切です。その他、気切部周囲の皮膚感染で増殖した細菌の吸引も原因になりえます。
 皮膚感染は、傷ついた皮膚に異物が付着し、そこに細菌が増殖して発症します。皮膚の傷は、カニューレなどの圧迫による外傷、皮膚の浸軟によるビランなどが原因となります。また異物の付着は、皮膚損傷部の乾燥による壊死組織形成や、消毒剤や軟膏の遺残、テープやドレッシング剤のカスなどが原因です。
 傷ついていない皮膚の消毒は、皮膚の常在菌を減少させる効果はありますが、一時的であり、消毒薬が残って異物とならないように拭き取る必要があります。さらに皮膚に傷がある場合、消毒は有害です。傷を消毒すると、かえって創感染率が上昇することが証明されています。MRSAが陽性であっても、何らこれらの理論は変わりません。
 以上の点より、気切部は全て消毒をせず、生理的食塩水できれいに清拭するのみで十分で、異物の付着を無くすことが大切です。皮膚にビランや潰瘍を生じた場合は、創部乾燥予防目的でハイドロコロイドドレッシング材やポリウレタンフォーム材を用いることが薦められます。
 気切部皮膚の清拭は、気管カニューレを入れたまま生理的食塩水で湿らせたガーゼを用います。かなり汚れていれば石鹸を使います。そして水分をふき取った後でカニューレの交換を行い、カニューレ抜去後はもう一度湿らせたガーゼで瘻孔周囲皮膚を軽くふき取り新しいカニューレを挿入します。もちろん肉芽組織で被われた瘻孔内は触る必要はありません。

※本内容は、日本看護協会出版会(http://www.jnapc.co.jp)「コミュニティーケア」2004年9月号に記載した内容を一部改変して掲載しました。


創部に水道水を使う
 <在宅では多いに勧められるが、病院や介護施設では勧めない>
 創洗浄液として水道水は安全かというテーマで検討した論文が多く出てきている。ほとんどが米国からのものであるが、大部分の結論は安全に使えるというものである。臨床の現場でも、入浴などをすると創治癒が進むことは認められており、その延長として創洗浄そのものを水道水で行うという発想は自然の流れであろう。
 ほとんどの論文では、水道水と生理的食塩水の間には感染率や創治癒速度に有意差が無いという結果である。しかし、いくらこのような報告が続いても、例えば心臓手術の術野の洗浄や、そこまでではなくても開腹手術での腹腔内洗浄を水道水でやるという医師は、今後も絶対に現れないであろう。実際、水道水を創洗浄に使う全ての研究は、体表のしかも深部臓器に損傷が及ばないものに限定されている。
 では、なぜ腹腔内など深部臓器の洗浄に水道水を使わないのであろうか。また、なぜ滅菌精製水や蒸留水ではなく生理的食塩水を使うのであろうか。これは、既に細胞の生存あるいは増殖にとって何が必要かが判っているからである。つまり、腹腔内などの生きた細胞は、細胞内部と同じ浸透圧、つまり等張液でないと活動できなくなるからである。この点、生理的食塩水はその名の通り細胞外液に近似した組成であり生理的にできており、浸透圧も等張である。つまり細胞にやさしいのである。
 では、体表の傷に対してはなぜこのように無頓着になってしまうのであろうか。
 おそらく外傷は十分に洗浄し異物が無くなれば、多少のことでは感染しないことを経験的に判っているからであろう。
 さて、今後であるが体表に限局した創傷に対し、水道水を使うことはさらに進むと思われる。浸透圧の差などは大した悪影響を与えないからである。もっと言えば、より悪いことを沢山しているからこの程度の障害はほとんど問題にならないのである。
 より悪いこととは、「創面を乾燥させること」「創面を消毒すること」「創面にできてきた肉芽や新生表皮をこすること」があげられる。しかし、これらの事に注意するとき、生理的食塩水を用いる場合と水道水を用いる場合で差が出てくる可能性がある。
 さて、私としては水道水を医療施設で用いる場合に、創感染率や治癒率などの学術的な面を除いても、二つの問題点があると思っている。一つは、院内感染の問題であり、もう一つはコストの問題である。水道水そのものは無菌と考えられるが、入れる容器が問題になる。水道水を入れる容器は使い捨てにするのであろうか。使い捨てにするのであればコストが高くなる。再生するのであればそれは消毒しないのであろうか。消毒のコストは意外と高くなり人件費もばかにならない。容器を石鹸で洗うだけであればMRSA等の院内感染対策はどうするのであろうか。水道水は無菌に近くても容器が汚染されていれば院内感染の原因になりうる。感染対策委員会は了解しないであろう。ただし在宅では相互感染の可能性は無いため、食器と同じ感覚で容器を石鹸で洗えば良いと考える。
 そもそもアメリカでは、生理的食塩水は大変手に入れにくいものである。アメリカの在宅で生理的食塩水を使おうとすると、まず医師に処方箋を書いてもらいそれをもって薬局に行くのであるが日本と比べ著しく高い値段がついている。それと比べ日本では生理的食塩水の500ml瓶でも100円そこそこしかしない。医療や介護の入院入所施設での容器に入れての水道水使用は、院内感染予防においてもコスト的にもメリットがあまり無いのではと考えている。

※本内容は、臨床看護(へるす出版、2005年2月号)に掲載した「創洗浄液として水道水と生理食塩液の有効性を比較した2つの文献」を改変して記載した。

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